42.魔王ルーヴルド

 ガチャリ。


 今度は気圧されずに扉を開いた。

 開く瞬間、再び殺気を当てられたが跳ね返した。


「おっせえ。おせえよ、ヴァンパイアの小娘ぇ」


 がらんとした部屋の奥で待ち構えていたのはルーヴルド!


 汚いビルの床の、一段高い所に椅子を置いて足を開き、シェイドの王が座っていた。


 その筋肉はあのオーガの巨体を持ち上げ、放り投げる程の怪力を持ち、既に準備万端、はち切れんばかりに膨張している。


 2メートル半の巨躯から、後ろの壁が歪んで見える程の闘気を放っていた。


「てっきり俺の殺気にビビってションベン漏らして逃げ帰ったと思ってたぜ」

「ふざけんな、今日こそキッチリ仇を討たせて貰う」

「ハッハァ~~出来るかなあ? ヴァレリオはどうした? あいつがいないと無理だぜえ?」


 一言喋る度に強烈な闘気を吐き出し、アークヴィラにぶつけてくる。


 足を踏ん張り、飲まれない様にルーヴルドを見据え、


「ブチ殺す!」


 腕を腰に引く、空手で言うの動作をし、一声吠えてルーヴルドへと突進した!


 と同時に天井から目の前に飛び降りてきたのはダーヴィットだった。

 3メートル近い身長のダーヴィットはその細長い手足でアークヴィラに襲い掛かった。


「お前の相手はこのヤヨイです!」


 間に割って入ったかと思った次の瞬間、剣を振り、一瞬で両手を肘から切り落とした!


「うあっっっってぇぇぇぇ!」


 ダーヴィットの声が反響する。

 同時にアークヴィラもダーヴィットの横をすり抜け、ルーヴルドへ猛進していた。


「フゥゥゥ。ヴァンパイア風情がいぃぃぃい度胸だぁぁぁぁ」


 口から闘気の煙を吐き、立ち上がる。


「おらあぁぁぁぁ!」


 巨体のルーヴルドを恐れず、左脚を踏み込んでの正拳突きを見舞う。


 ドンッ!


 ルーヴルドは避けもせずそれを鳩尾部分に食らった。


 だがびくりともしない。


「かっはぁぁぁ。何だそりゃ。何がオラァだ? ハッハァ! 女王様の拳は優しいなぁぁぁ」


 口から闘気と共に漏れ出す悪臭に顔を顰める。


 しかし実はシェイドにとってもアークヴィラが振り撒く薔薇の匂いは堪え難い悪臭なのだった。

 本質的に憎み合う様に作られていると思える程、互いの全てが憎悪の対象となっていた。


「じゃあ、俺も1発行っとくかい」


 右腕を大きく振り被る。以前、ヴァレリオの鉄の体をいとも簡単に貫いた拳だ。


 だがヴァレリオに武術を習っているアークヴィラにとって、その様な大振りの打撃は食らう筈も無いものだった。


(落ち着いてタイミングを見極めろ……今度はカウンターでお見舞いしてやる)


 今度はボクシングスタイルに切り替えて左拳を顔の前に持ってくる。


 ブゥゥゥゥン!


 唸りを上げてルーヴルドがパンチを振り下ろした、と思った瞬間、その姿が目の前から消えた。


 同時に後方でグシャリ、と嫌な音がした。


「……え?」


 嫌な予感がして後ろを振り返る。


 その目に映ったのは、ルーヴルドの拳を腹部にまともに食らい、声も上げずに体をくの字に折れ曲げた弥生の姿だった。


「ヤ、ヤヨイィィ!」


 アークヴィラの絶叫が部屋の中にこだました。


 自分達の作戦と全く逆の事をされたのだ。最もルーヴルドはそんな事は考えておらず、強そうな弥生を一発でノックアウトさせたかっただけだった。


「お、おおっこいつ、かってえな。ヴァレリオよりかてえ」


 あまりの衝撃で弥生を振り解く様にガシャンと床に払い落とすと再び拳を振り上げる。


「ダーヴィット、持っとけ。次で殺す」

「おっしゃ!」

「させるか!」


 髪を逆立て、血の色に染まった目を吊り上げてルーヴルドへと殴り掛かった。激昂したアークヴィラのそれは既に武術でも何でもないものだった。


「うるせえ!」


 一声吠えると同時に振り上げた巨大な拳はアークヴィラへと振り下ろされた。


 かつて受けた事の無い、途轍もない衝撃がアークヴィラを襲い、叫び声ひとつあげれずに一瞬で部屋の端まで吹き飛ばされた。


「まずはこの機械からだ。先にこいつをる」


 先程の強烈な1発で電気系統がショートしてしまったのか、弥生は一切無反応になっていた。


 半分、体が壁にめり込んだアークヴィラはまるで他人事の様にそれをボーッと眺めていた。


(あいつら、一体何を……?)


 肘から先が無いダーヴィットが持ちにくそうに弥生の体をモタモタと抱え上げ、再びルーヴルドの前に翳す。


 ルーヴルドは1つ息を吐き、「これで決めるぜえ」と吠えていた。


(決める? 何を?)


 そこで漸く頭が正常に動き出し、弥生が絶体絶命だという事を悟る。


「待て、やめ……」

「てめえも沢山、俺の仲間を殺してくれたんだ。止めるわけねえだろ」


 そうだ。

 この状態でどれだけ懇願しようが止める筈は無かった。


 ルーヴルドは今度こそ弥生に向き直り、大きくその右腕を振り上げ、そしてこのビルごと破壊するのかという程の勢いで振り下ろした!

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