40.シェイドの友情

 弥生のレーザーが猛威を振るう。


 なんと言ってもレーザーは無色、無音、光速であり、避ける事など出来ないものなのだ。


 建物を崩壊させる様な威力は無いものの、シェイドの体程度であれば楽々と貫く。


「な、なんて奴だ……機械がこれほどのものだなんて……」


 悔しげにロムウが唸る。


 既にその体には幾つもレーザー攻撃による穴が空き、立っているのがやっと、という所だった。


 アークヴィラはギュッと拳を握り締め、


「お前、その剣でヴァレリオを刺したな?」


 その言葉はロムウに対する死の宣告だった。炎が出そうな程に猛け狂う真紅の瞳はギロリとロムウを睨み、その威圧だけでロムウを動けなくした。


「殺すが、いいさ」

「そうさせて貰おう」


 瞬時にギュッと拳を握り締め、ロムウの心臓の辺りを貫いた!


「うぐっ……クッ……ククッ」


 何故かロムウが不敵に笑う。


 刹那、ビルの壁から再び大量に湧き出すルノシェイド、だがそこに真祖のシェイドも混じる。


「お任せを!」


 予め気配を察知していた弥生がすぐに反応した。外で戦うより少し短めに組んだ黒い剣を構え、薙ぎ払いながら敵を倒していく。


 アークヴィラはすぐさま腕を引き抜こうとしたが、ロムウがそれをさせなかった。


「最後の……抵抗だ。テメエなんぞにくっつくのはクソ気持ち悪いが……絶対に離さねえ」


 ロムウは残った力を振り絞り、アークヴィラに抱き着くと両手から出した剣を自分もろともアークヴィラの背中から突き刺した!


「アアァッッ!」


 悲鳴にも似たアークヴィラの叫びがこだまする。

 それに気付いた弥生が駆け付けようとするがルノシェイドを盾にしたシェイド達に襲われ、こちらも腕や足を取られていた。


「アークヴィラ様、危ない!」


 弥生の目はアークヴィラの背後に向けられていた。

 身動き取れない彼女の背中から襲い掛かる1体のシェイドがいた。


「ク……ソッタレがぁ!」


 アークヴィラは口から血を流し、そう吐き捨てながら首を捻って背後を向く。その視界ギリギリにシェイドの姿が映る。


「テメエ、リーかっ!」

「今度こそ死ねよ、沢山俺達の仲間を殺したくされヴァンパイア」


 言うなり、注射器の様なものをアークヴィラの首筋に突き刺し、その中の何かを注入した!


「グアッ……ウ、うああああぁぁぁ……」


 目が血走り、さらに口から吐血、噴き出した血が空中で霧の様に消えていく。


「これ、『乾血病』っていうんだ。お前らヴァンパイアにのみ効くんだぜ、凄いだろ? これ、? ケッケ」


 リーは得意げに意味不明な言葉を吐きながら狂気じみた表情を浮かべ、顔を歪ませる。


「クソアマがっ! ヴァンパイアの癖にロムウもジーラも他の仲間もやりやがって……絶対に許さねえ。最後の1滴まで残らず注入してやる!」


 どこまでその汚い言葉が届いたのか、アークヴィラは白目を剥いて失神したかの様に力無くロムウの方に倒れ込んだ。


 ロムウにそれを押し返す力は既に無く、まるでアークヴィラに押し倒される様にして無様に背中から床に倒れ込む。


「や、やった。遂にぶっ殺してやったぞ……」

「やった……な、リー……」

「おい……ロムウ、死ぬな、おい!」

「だめだ。心臓を貫かれている。あとは頼んだぜ……」

「おい! 死ぬな! ロムウッッ!」


 そのリーの言葉はもはや届かず、ロムウの姿は徐々に消え失せていき、やがて真っ黒なガスとなって消えてしまった。


「あああ……クソッッッッタレがぁぁぁ!」


 天井に向かってリーが泣き喚く。地団駄を踏み、仲間の死を悔しがった。


 ザクッ。


 そのリーの心臓の部分から腕が突き出した。


「グハッ」


 咄嗟に何が起こったか分からなかった。

 自分の胸を見ると明らかに女の腕とわかる白く細い腕が突き出していた。


 弥生は目の前で数十体のルノシェイドとシェイドを相手に戦っている。


 つまりここにいる女は1人しかいない。


「やっとパパや皆の仇が討てたよ。ざまあねえな、リー」


 アークヴィラの声だった。


「て、てめえ、な、なんで……」

「1回やられて死にかけたんだ。そんなものは対策済みだ」


 実はアークヴィラに輸血の処置を施していた時、弥生はあるじを襲った謎の攻撃の解析も同時に行っていた。


 以前のクルジュ=ナポカでのヴァレリオの言葉から、それは空気感染で且つヴァンパイアのみに強力な感染力を持つウィルスもしくは病原菌と予測していた。


 結果、どうやら結核菌に手を加え、ヴァンパイア向けに作られた病原菌と分かったのだ。


「医療クラウド、フル稼働でアークヴィラ様とソータ様の為だけのワクチンを開発致しました!」


 いつの間にシェイド達から抜け出したのか、目の前で弥生がそう言うのを聞いた。同時に剣が横に薙ぎ払われ、自分の首が転げ落ちるのを感じた。


 リーは断末魔さえ出せずにガスとなって消えた。


「アークヴィラ様、少しお休みになって下さい」

「そう、させて貰おうか」


 片膝を突き、苦しそうに荒い呼吸をする。当然、予めワクチンを体に仕込んでおいたとはいえ、病原菌を大量に注入されたのでは効果は薄い。

 かなりの血液が失われ、先ほどロムウに突き刺された傷も癒えておらず、流石のアークヴィラもすぐに動けなかった。


 弥生が見事な体捌きでシェイドの群れを屠っている間、アークヴィラは何とはなくロムウとリーがいた場所を見ていた。


(こいつらでも、仲間が死ねば泣くんだな)


 そんな事をぼんやりと考えていた。

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