37.ヴァレリオ倒れる
「ヒッ、ヒィィィィッッ!」
「ロ、ロムウ、逃げろ!」
遠くからリーの悲鳴がした。が、すでにヴァレリオは攻撃のモーションに入っていた。
「クソが、ここまでか……」
そう呟き、ん?と疑問が湧いた。
ヴァレリオは
さっき足を上げていたのだから今はもう自分はこの世にいない筈だった。
その足は真下のロムウには振り下ろされず、黒騎士が繰り出した槍を逸らしていた。
「ええい、どいつもこいつも鬱陶しい!」
すんでのところでとどめが刺せない状況が続くのにヴァレリオの苛立ちがピークを迎え始めた。
騎士はいつの間にやら修復されている槍をすぐさま戻し、何度も何度も突きを繰り出した。ヴァレリオも仕方無くそれに対処せざるを得なくなる。
今の内にとロムウが転がる様に離れようとするがヴァレリオはそれを許さず、騎士の相手をしながら追いかける。
ヴァレリオは絶対に館に敵を近寄らせない。
(もう神化が解ける……このままではマズいぞ)
ギロリとロムウを睨んだ。
「クッ」
ヴァレリオに狙われていると瞬時に悟り、逃げる様に館の方へと走るロムウの背中に拳圧での攻撃を繰り出す。
「グアッ!」
背中から綺麗に穴が空き、そこで立ち止まり、数秒をおかずに来るであろう止めの一撃に備え、ヨロヨロと2本の剣を胸の前で交差してガードする。
だがヴァレリオは蹴りで再び黒騎士を攻撃していた。直撃した馬の足がグニャリと折れ、騎士が地上に降り立つ。
間髪入れず、老人が雷を放つ。
それを全身に浴びながらもヴァレリオは一際高く跳び上がる。黒騎士の目線だ。無論空中では槍の的である。
ヴァレリオに向けて放たれた槍は真っ直ぐ彼の正中線上に飛んで来るが、見えない程のスピードの回し蹴りがそれを再び真っ二つに折った。
今度は折れた先を瞬時に持ち直し、仮面のわずかな隙間、ギラリと覗く目の部分に投げ付けた!
それは見事に命中し、騎士は槍を手放し、頭は後ろへとブレる。
一度地面に降り立ったヴァレリオがもう一度跳び上がり、今度は直接拳で、黒騎士の鎧を貫いた!
黒騎士の巨体がその一撃で大きく後ろへ弾かれたのを見てもヴァレリオのパンチの威力が知れよう。食らった衝撃で吹き飛んだ黒騎士を瞬時に追いかけ、手刀でその首をあっさりと撥ねてみせた。
黒騎士が死ぬと同時に辺りに黒いガスが舞い散り、他の怪物達と同じく跡形も無く消え去っていった。
遂に厄介な怪物の1体を倒した。
だがヴァレリオは喜ぶどころか、悔しさを顔一杯に滲ませ、
「……あ――クソッタレ!」
と吠えた。
ヴァレリオの体を包んでいたオーラが消える。体中の筋肉の膨張が治まり、瞳の色がスッと元通りの暗い青に変わる。
(神化が、クソッ! 時間切れだ)
手をダラリと前に落とし、体をプルプルと震わせる。
そこに雷が容赦無く落ちる。
老人の怪物が手に持ったロッドを高らかに構えると、雷雲の中と見紛う様な量の雷の柱がそこかしこに立った。
「アガァァァァッッ! く、くそ野郎……」
さすがのヴァレリオも皮膚がただれ、燃え、煙が上がった。
だが突然、その攻撃が止む。
朦朧とした目付きで怪物を見ると両肩に小さな穴が空いていた。
そしてその穴はドンドンと増えていく。
「ヴァレリオ様!」
弥生だった。
怪物に空いている穴は新武装のレーザー砲だった。無音、無色でアークヴィラが好みそうな華は無いがその分回避は不可能だ。
「後はお任せを!」
体中から黒いパーツを射出すると、それらは瞬時に一本の長い剣に変わった。
バシュッとジェット音を響かせ、怪物の顔に近付くと、真一文字にその剣を薙ぎ払った!
だが何を思ったか、すぐに振り向くとヴァレリオの方を見て短く叫ぶ!
「危ない!」
数瞬後、左側からリーのパンチがヴァレリオの顎を捉え、背中からはロムウの剣が襲い、胸元から突き出た。
「グアッ!」
ロムウもリーもシェイドの幹部であり、その力はルノシェイドや通常のシェイドの比では無い。
ロムウはすぐ近くにいたが、リーはかなり離れた位置にいた筈だ。だがヴァレリオの元へ辿り着くまで2秒と掛かってはいない。
ヴァレリオは2人が近付いて来るのに気付いていた。
気付いていて、何も出来なかった。
これが『神化』を人間界でやる事のデメリットであった。
神の力の発現と維持に膨大なエネルギーが必要なのだ。神化が解かれた後、それを回収しようと体が機能を止める。それはほんの数秒だが、一気に襲い来る筋肉の疲労で体が硬直し、身動き取れなくなる。
「チッ……てめえら如きにやられるなんてな」
「や、やった、仕留めた!」
「馬鹿ッ! そんな訳ねえだろリー! 逃げるぞ!」
ロムウは自身の体の被害も大きかったが冷静に状況を読んでいた。
(ヴァレリオがこの程度で死ぬ奴ならルーヴルドも苦労はしねえ。薬は撒いたんだ。ここは逃げるに限る)
弥生が首を刎ねた事で魔術師の怪物がガスとなり、消え去り行くのを確認し、弥生はミサイルを装填、連射した。
それはロムウとリーが逃げるルートに大量に降り注ぎ、彼らは二手に分かれて必死で逃げ続けた。
5、6秒撃ち続けていたがやがてミサイルポッドをしまい、ヴァレリオの元へと舞い降りた。
「ば、バカな……な、にをしてる、や、よい」
目だけが弥生を追い、手を動かそうとしてバランスを崩し、倒れる所を弥生に抱き止められた。
「大丈夫、ではありませんね。ヴァレリオ様も暫くお休みしましょう」
「何を、言うか……俺の事は、いい。奴らを……追え」
奴ら、つまりロムウとリーである。
弥生はニコリと笑うとヴァレリオを抱き上げた。
「大丈夫です。何と言ってもバージョン9.0ですから! 先程ミサイルに紛れて追跡装置を撃ち込み無事、2人に取り付けました。止まったところがアジトでしょう」
ヴァレリオは自慢げに言う弥生の顔を見て驚いた表情をした。
「成る程……凄いな、お前」
「ヴァレリオ様にお褒めいただけるとは光栄です! ルンルン」
そのセリフとは似つかわしく無い、ジェット音を響かせ館へと瞬時に、文字通り飛んで帰る。
「アークヴィラ様のご様子は、どうだ?」
弥生の肩を借りながら部屋を進み、アークヴィラと蒼太が横たわる部屋へと入った。
「ソータ様の血によってアークヴィラ様の血が失われていくのは治まりました。4分の3程の量に戻ってからは自己回復が始まっています」
「そうか」
蒼太の隣に用意された大きなベッドに腰掛ける。
その様子を注意深く弥生が見つめる。
「ソータ様が再び目を開くかは分かりませんが、アークヴィラ様はきっと御復活なされます。ヴァレリオ様もゆっくり回復して下さい。その間、ここは私めが守ります」
「……」
側に立つ弥生の顔を暫く見て、フッと目線を落とし、何かを考えた風に見えたが、すぐに「分かった」と言った。
弥生が一礼して部屋を出る。
そのままヴァレリオは痛む体を何とか横にし、意識を失う寸前、珍しい事を考えた。
(蒼太……大した、奴だ)
目を瞑るとすぐに意識はなくなり、深い眠りについた。
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