36.ヴァレリオ圧倒
「やった!」
ヴァレリオを挟んで左右に分かれたロムウとリーが同時に手を上げて喜んだ。
黒光りするそれは、一部分だけを見ると到底槍には見えない。どこかの建造物の柱の様だ。それが無情にヴァレリオを貫いた。
上目になり、その持ち主を睨む。
怪物はその異常な体の大きさを除けば中世の騎士の様であった。黒に統一され、顔全体を包む仮面からは目だけが不気味に覗く。
体を貫かれながらもヴァレリオはその怪物の目を見て不思議な感覚を受けた。
(敵意が、無い?)
その目からはヴァレリオに対しての憎しみ、怒りなど、およそ敵意と呼べる様なものが全く見えなかったのだ。
自分が進む道を横切る子犬をどけた、その程度の感覚なのだろうかとすら思えた。
(こりゃあ奇妙だ。俺を目の
(つまりはやっぱり奴らの仲間では無い、という事か?)
そう考えながら思いもかけずに負ってしまった大ダメージと、これ程の太さの槍をどう引き抜いたものかと困っていた。
一方、うまく怪物をヴァレリオに引き合わせたリー。
「なんだあの野郎……怪物の槍に貫かれても平気だってのか?」
全く動じず、冷静に状況を分析しているかの様なヴァレリオを見て情けない声を出す。
反対側のロムウも取り乱していた。
「ば、バケモンめ、なんて奴だ。怪物共、やっちまえぇぇ!」
痺れを切らし、2本の剣を振り翳し、ヴァレリオの方へと走った!
「ば、馬鹿! やめろロムウ!」
だが実はシェイドの2人が思う程、ヴァレリオに余裕は無かった。
(クソッタレが。力が……抜ける!)
槍に穴を空けられ、そこから流れ出る血の量も半端なものでは無い。
更にまともに動けないためにひたすら雷を喰らい、皮膚が焼け始めていた。
(これはマズい)
『輸血が終わればお手伝いに参ります。その間、この館だけはお守り下さい』
館を出る時に弥生が言った言葉を思い出す。
(このままでは館への攻撃を許してしまう)
ヴァレリオは僅かに残る記憶から、この世界では死なない事を知っている。だがやはり死ぬ程のダメージを受けると一定時間は休眠状態となってしまう。
自分がいないと誰がここを守るというのか。
意識の無いアークヴィラの元へシェイド幹部2体、怪物2体など行かせる事など到底出来なかった。
(出会って数日の蒼太がアークヴィラ様の為に命を懸けている)
(アークヴィラ様が赤ん坊の頃から知っている執事の俺がここで退いてどうする)
そう心に決める。
同時に瞳の青が明るく輝き出した。
落雷は激しさを増す。どうやら怪物同士は戦わない様だ。黒騎士が槍でヴァレリオを抑えている間、魔導士が雷撃で倒す連携の様だ。
(そんなものは……)
再び青い
今度は煙の様に彼を包み込んだそれは、ヴァレリオの周囲で強く輝いた。
(効かん!)
突き刺さる槍を自らの手刀で斬り落とし、力任せに引き抜いた。無論気絶する程の激痛が走っているがそんな事はおくびにも出さない。
「神化!」
ヴァレリオが叫ぶと青いオーラは綺麗なグラデーションを描きながら白く輝き出した。
その体は重さが無くなったかの様に数センチほど浮き、反対に彼の足元の地面には体重が何トンにもなったかの様に亀裂が入る。
体中の筋肉がひと回り膨らみ、眉はこれでもかと言わんばかりに吊り上がる。
ルーヴルドに空けられた腹の穴を一回り大きく貫いた騎士の槍の痕。これまでの治癒のスピードとは桁違いの早さで塞がっていく。
(ルーヴルドにやられた所を根こそぎ上書きしてくれてむしろ助かった)
バチッバチッと強力な静電気の様な音が身体中から鳴り響く。
(私の奥の手だったが仕方無い。幸い
2体の怪物はヴァレリオの変化にも全く表情を変えず、怯む事なく攻撃を繰り返す。
辺り一面に降り注ぐ雷。
間断なく襲い来る槍の連撃。
それらをまるで
怪物から数メートル離れた位置からのヴァレリオの拳の攻撃は、決定打とはならないまでも怪物達の体に確実にダメージを与えていた。
まるで砲撃でも放っているかの様に表面がボコボコとへこんでいく。
「ししし神化だと? あんな動き、この世のもんじゃねえ……下手したらルーヴルドより……アイツには怪物2体でもダメか!」
リーは完全に戦意を無くし、遠巻きに戦況を眺めていた。
やがてヴァレリオの拳
だがそれは神化してから怪物達に動きを捉えさせなかったヴァレリオが、初めて動きを止めてしまった事を指していた。
相手を貫いたと同時に強力な雷がヴァレリオを襲う。それは神化してでさえ体の自由が奪われる程のものだった。
「あうっ! ぐう……ク、ソッタレめ」
老人の怪物の体内に腕をねじ込みながら表情を歪ませた。
そこにロムウがやって来た。
だがロムウはヴァレリオが身動き出来ないと判断するとそのまま館へと向かった。
「行かせるかっ!」
痺れる体に鞭打ち、腕を引き抜き、先程怪物にした様に離れた位置からの拳の砲撃を見舞った。
「ガウッ! ……クソが、バケモンめ!」
背中にモロに食らったロムウが弾け飛ぶ。
シェイド幹部の力をもってしても無傷ではおれないほどの威力だった。
顔を上げるとヴァレリオが怒りの形相でロムウを踏み潰そうと足を上げていた。
「ヒッ、ヒィィィィッッ!」
「ロ、ロムウ、逃げろ!」
遠くからリーの悲鳴がした。が、すでにヴァレリオは攻撃のモーションに入っていた。
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