34.シェイド幹部対ヴァレリオ
さっきは山側の森に隠れていたが、さて今はどこに……と考えながら庭に降りたヴァレリオだったが、
「探す手間が省けた」
男を庭で見つけ、鼻を鳴らした。
その男はヴァレリオを見つけると明らかに狼狽する。
「な、なんだよボス。ヴァレリオのクソ野郎、ピンピンしてるじゃね――か!」
男は先程まで日本人、田村林太郎に擬態していたシェイドの幹部、リーだった。
ルーヴルドから『ヴァレリオはまだ傷が癒えていない筈』と言われ、安心して擬態を解き、アークヴィラの生死を確かめに来た所を見つかったのだ。
「貴様は大勢のヴァンパイアを殺し、今またアークヴィラ様までその手にかけようとした。絶対に許す訳には行かん。良くて即死だと思え」
「怖え―――ッ!」
ヴァレリオの眉が跳ね上がり、突撃した。
相手が何かをする間も与えずに殺す気だ。
殺気満々の目でリーの元へと一瞬で跳ぶ。目を見開いて怯えるリーの顔面にストレートを叩き込んだ。
「ヒッ」
それをすんでの所で首を振って躱す。
ヴァレリオがそれを読んでいたとも知らずに。
「フンッ」
避けた方向に強烈なフック一閃!
近年発達したボクシングの技だ。
「ウゴァッ!」
ガゴンッという強烈な音と共にカウンターで決まったそれは、リーの一般的な成人男性程度の体をあっさりと吹き飛ばした。
「ボゲェェェェッッ!」
口から血を撒き散らしながら、丁寧に手入れされている植木に突っ込んだ。
ヴァレリオはそれに対して嫌味のひとつを言うでもなく淡々と追い詰め、殺す事だけに集中する。
「あ、あがが……無理無理……アイツには……勝てねぇ」
たった一撃で顎が完全に外れ、横に削げ落ちそうになっている。ヴァレリオに油断や隙が全く無い事を肌で感じ、必死で反対方向へ、一歩でも遠くに逃げようと足掻く。
ガシ。
肩を掴まれる。
「ヒ、ヒィィィッ!」
瞬時に背筋が震えた。ヴァレリオは捨て台詞の一つも吐かず、躊躇無く、そして僅かな反撃の隙をも与えず、強烈なパンチを振り下ろした!
いや、それを途中で止め、何故かリーを持ち上げ、クルリと振り向いた。
ザクッ!
「ウガァァッッ!」
「あ、しまった。すまん、リー」
リーの体に2本の剣が突き刺さっていた。それは先日、澤井と共にアークヴィラと蒼太を襲ったシェイドの幹部、ロムウ・アルバだった。
背中を見せた隙にと斬りかかったのだがヴァレリオに隙などは無いようだ。
「丁度良い。いつぞやの借りを返させて貰う。今度は逃さん」
冷たく言い放つヴァレリオにロムウはゾッとする。
以前、アークヴィラを襲った時は念の為と予め用意していたルノシェイドの群れを突っ込ませ、自身は車で逃げる事で難を逃れたが今回はそう言う訳には行かない。
何せ山の中の一軒家だ。移動手段は徒歩しかなく、後ろを向いて逃げたとて怒り心頭の筈のヴァレリオから逃げ切れるとは到底思えなかった。
だがこの時、ロムウには勝算があった。
(持ち堪えりゃ何とかなりそうだが)
1人で何とかなる相手でないのは明らかだった。
「チッ。リー、さっさと回復しろよ。暫く俺が時間を稼いでやる」
「お前が、刺したんじゃねえかよ……」
そう言いつつ、外れた顎と刺された傷を抑えて転がる様にして逃げる。
そのリーにとどめを刺そうとヴァレリオが何も言わずに飛び掛かる。そうはさせじとロムウは2本の剣で激しく斬りかかった。
―
一方、その頃。
弥生の手によりアークヴィラへの輸血が手早く始められていた。
「簡単にご説明致しますね、ソータ様。これから4リットル程の量をアークヴィラ様に輸血致します」
「4……ほ、殆ど干からびちゃいますね、僕」
「それがそうでもありません」
「え?」
弥生の話は普通に考えれば絶望的な話であった。
蒼太の左腕から伸びる真っ赤に染まる太いチューブを見ながら数分後、ミイラになった自分を想像する。
「実はヴァンパイアと人間では
「そんなに……僕は52キロだから8キロ位あるって事……」
「左様です。とはいえその半分を抜く訳ですから、割合的には人間なら軽く致死量です」
人間なら……?
(いや、ヴァンパイアでも死にそうですけど……)
そう思った。
現に急速に血を失い、人間と同じ様に体が寒くなり、気分が悪くなってきている。
「でも安心して下さい! ヴァンパイアのソータ様ならワンチャン、あります」
「ワ、ワンチャン、ですか」
「はい。不死身のヴァンパイアでも血を抜かれるのには弱いのですが、ソータ様は以前、ルノシェイドにズタボロにされた状態から復活致しました。あの時はもっと失血していた筈。と考えるとワンチャン、ありますよね!?」
「あはは……有難う御座います、弥生さん」
力無く笑う蒼太の手を弥生が軽く握る。彼女の手には驚く程、
「アークヴィラ様は既に3分の2程を失っており、大変危険な状態です。ソータ様だけがアークヴィラ様を甦らせる事ができます」
「大丈夫です。弥生さん。僕はアキさんに何度も助けられています。今度は僕が助ける番です。最後の一滴まで輸血してもらって構いません」
「ソータ様……有難う御座います。このヤヨイ・ラクロワ、全身全霊を込めておふたりをサポート致します!」
真っ白だったアークヴィラの顔に少し血の気が差し、代わりに蒼太の肌がどんどん白くなっていく。
彼らの間にあるポンプと真っ赤に染まった太いチューブが2人を繋いでいた。
「アキさん……死なないで……」
依然、アークヴィラの意識は無い。
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