28.緑中ヶ丘町の戦闘
(ああああいつは何でこっちに来るんだ?)
初めて出会した怪物、ガーゴイルを思い出す。まるで自分を追っているかの様な動きだった。
蒼太は縋る様な目付きでヴァレリオを見上げ、
「どどどどうしましょう、ヴァレリオさん。ここここっちに来てます」
思わずブルルと身を震わせるとヴァレリオはやれやれと憐れむ様な目付きで蒼太を見下ろす。
「まあちょっと落ち着け。お前、この前コンビニでルノシェイドに襲われたんだろ。その時に比べりゃ今は俺がいる分、状況はかなりマシな筈だ。腹を括れ」
「そ、そうですね、はい」
確かにここにヴァレリオがいる安心感は相当に大きい。目と鼻の先であれ程大きな怪物が暴れていてもここにいられるのは彼が共にいるからだ。
不意にヴァレリオが持つスマートフォンが鳴る。その画面を見て、
「来た。弥生だ」
顰めっ面でスピーカー通話ボタンを押す。
「お前、今何処にいるんだ?」
『ソータ様のご自宅のすぐ近くにおりますよ。ジーラを監視しているのですがなかなか動く気配がありません。民家に被害が大きいのであの怪物を攻撃します』
「アークヴィラ様のご命令か?」
『左様で御座います。ジーラの監視と対応はヴァレリオ様に任せよと』
「分かった。で、アークヴィラ様は?」
『今、そちらに向かっている筈です。もう間もなく着かれる筈ですよ』
「な、何!? こんな時におひとりでなど危ないではないか!」
『まあそれはそうですが、
その言葉にヴァレリオがキリリ……と歯を鳴らし、数秒後、鬼の様な形相で蒼太を見下ろす。
(ヒィィィィ! 家の中にもオーガがいる……)
別に蒼太が悪い訳ではないのだが、逃げる様に目を逸らして俯く。
ヴァレリオは暫くその蒼太を睨んでいたが、やがて舌打ちをし、スマートフォンの画面に視線を戻した。
「チッ。分かった。お前も気を抜くなよ?
『畏まりました。ヴァレリオ様も御武運を!』
通話が終わった。
ヴァレリオはそのまま黙って窓際に立ち、カーテンに隠れる様にシェイドの幹部、ジーラの動きを監視し始めた。
ド―――ンッ!
突如耳を劈く轟音!
「ヒッ!」
爆風を感じる距離での爆発、やったのは弥生だった。
今まで何処にいたのか、突然姿を現したかと思うと高速で空を飛び、体の至る所からミサイルを発射する。
(うわぁぁぁ……弥生さん、アニメのキャラみたいだ……凄い)
それらは煙を吐いてオーガに向かい、一瞬の内に全弾命中する。
全て上半身に着弾しているのは近隣への被害を抑える為であろうと思われた。
軍隊の如き弥生の圧倒的な攻撃力の前に、オーガは蹌踉めき、後退り、防戦一方に追い込まれた。
そのままとどめの爆撃! と思われたが突然、物凄い音と共に地面から飛び出した何かに弥生が当たり、大きく仰け反った。
それは物陰に隠れて怪物と弥生の戦いの様子を見ていたジーラだった。
怪物がピンチと見て弥生の位置まで跳び上がり、膝蹴りを見舞ったのだ。
弥生はレーダーでその動きを捉えてはいたものの、空中で急に向きが変えられずモロにそれを食らってしまった。
「クソッ」
ヴァレリオは窓べりをパァンとひとつ叩く。だが苛立ちながらもすぐに弥生を救いには行かなかった。
蒼太がオロオロして弥生とヴァレリオを交互に見る。
ジーラに一撃を食らった弥生が錐揉みで落ちていく。だが地面スレスレで体勢を立て直し、再び高度を上げながらグルっと旋回して蒼太の家の窓の手前でホバリングをした。
結果的にオーガ、そのすぐ前にジーラ、そしてかなり距離を置いて弥生、蒼太の家と直線上に並ぶ事になった。
オーガが体勢を立て直し、一歩前へと進む。弥生からのミサイルのダメージは色濃く残ったままだ。
オーガの視線は最初弥生を見ていたが、すぐに自分のすぐ目の前にいるジーラに移る。
すると突然!
本当に前触れもなく、ジーラを横殴りで攻撃した!
「おお!」
それを見たヴァレリオが待っていたとばかりに珍しく声を上げた。
「やりましたね、ヴァレリオ様」
「ああ。これで怪物共とシェイドは仲間では無い事がわかった。あの怪物は任せたぞ。ジーラは俺がやる」
言い様、ヴァレリオは窓から飛び降りた。紗季や凛子が口に手をやり、目を丸くする。
(ああ成る程。それを探る為手を出さずにジッと見ていたのか……)
ようやく蒼太も腑に落ちた。
一方のジーラ。
すんでの所で自動車程の太さを持つ怪物の腕の一振りを逃れたが、忌々しく怪物を見上げ、張り合う様に筋肉を膨張させた。
「こんのクソ猿が! 折角加勢してやったのによう。そんな事もわかんねーとは、所詮怪物は怪物だな!」
更に筋肉が盛り上がりを見せる。
女性特有の胸の膨らみは膨れ上がった大胸筋に塗り潰された。
眉毛が釣り上がり、白目は黄色になり、瞳は黄金色となる事で瞳が見えなくなる。シェイド幹部が覚醒した時の姿だ。
「このジーラ様があの世に送ってやる」
怪物に向かってバキバキと指を慣らした。が、背後から彼女にとっては予想もしなかった声が聞こえてきた。
「その必要はない。怪物は弥生が相手してやる」
「!!」
驚いて後退る。
いつの間にいたのか、ジーラの背後にヴァレリオが立っていた。
その言葉からどうやら偶然出会った訳では無い事はわかる。ヴァレリオの気配は完全に戦闘態勢のそれだ。
怪物に気を取られ、それに全く気付かなかった事に地団駄を踏み鳴らして悔やんだ。
「テメー……クソックソッ! ヴァレリオォォッ! あたしを見張ってたのか!?」
「そうだ。貴様らシェイドと怪物の関係を知りたくてな。だがもう分かったからいい。殺してやる」
ジーラの肉圧の前に、やや線が細く見えるヴァレリオだが、そのオーラは圧倒的強者のそれだった。
「チッ。面倒な奴に見つかっちまった。が、今度こそ殺してやる」
「死ぬのは貴様だ」
ヴァレリオとジーラの激しい肉弾が相撃つ。
一方の弥生も再びオーガへの攻撃を開始しようとしていた。
何処から出したというのか、刄が黒く光る長い剣を手に構えた。
「お――。やってるな!」
突然蒼太の背後で女性の声がした。
驚いて振り返る。
そこにいたのは、ショートの革ジャンとスキニーデニムと特に着飾る訳でもない、いつも通りのラフな格好のアークヴィラ・ハーメルンだった。
「アキさん!」
「ヤッホー、ソータ!」
満面の笑みで蒼太と家族達に手を上げ、ツカツカと蒼太に歩み寄るとポカンと口を開ける彼の肩を抱き、並んで窓越しに外の戦闘を眺め始めた。
「怪物は奴らの仲間じゃないと分かったのはデカい。といってあたし達の味方でもないようだけどな」
薔薇の香りを撒き散らし、バックハグに近い形のスキンシップに蒼太の心臓がバクバク鳴り出す。
だがそんな蒼太の思いなどつゆ知らず、アークヴィラは、
「昨日、結局ロムウに逃げられてヴァレリオもストレス溜まってるからなぁ。こりゃこの辺り、えらい被害になるかもな」
ニヤリと赤い唇を歪めて笑った。
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