26.蒼太の誓い

「きゅ、吸血鬼になっても……血、吸われちゃうんです、ね……」

もちろんだふぉふぃほぉんふぁ


 体の力は抜けていくが痛みは無く、不快感も無い。むしろアークヴィラと触れていられるこの時間はこの上無く幸せなものだった。


 人との交わりは辛いものしか無かった彼にとって、アークヴィラは女神そのものだった。



 暫くしてアークヴィラがゆっくりと口を離す。

 一気に血の匂いが充満し、薔薇の香りとごちゃ混ぜになる。


「ふう。ご馳走様。昨日は流石にそれどころじゃ無かったからな」

「あの、さっきはすみませんでした」

「ん。お仕置きは済んだから許してやる」


 楽しそうにそう言うと蒼太の左腕に自分の右腕をねじ込み、また蒼太にもたれ掛かった。


「ア、アキさんはどうして僕なんかに優しくしてくれるんですか?」


 予想外の言葉だったのか、パチクリと目を大きくして蒼太を見返した。


「優しい?」

「はい」

「今の今までお仕置きだっつって血を吸ってたのに?」

「優しいです」


 真顔で答える蒼太に思わず吹き出してしまった。


「プッ……前にも言ったけど、お前、本当、マゾいな。『優しい』のハードルが低すぎないか?」

「そうですかね……自分じゃ分かんないですけど」

「あたしは昨日お前が死んだ時も、いやヴァレリオに一族が滅んだって聞かされた時も泣かなかった奴だぞ?」

「そ、そうなんですか!? いや、びっくりしてるのは一族が、の方ですけど」


 驚く蒼太にフフッと寂しそうに笑う。


「そうだよ。人間は普通そういう時、泣くだろ? あたし達は違う。人間を観察していてよくわかる。あたし達は寿命が無限とも思える程長い分、むしろ人間よりも結び付きが希薄なのかもしれない」

「家族がいなくなるのは……悲しくないですか?」

「そうだな。ぶっちゃけそれほどでもない。寂しくはあるが」

「成る程……」


 珍しく蒼太がウンウンと頷く。

 少し考えて慎重に言葉を選びながら言った。


「僕が次死んでも……アキさんは泣いてくれないですか?」


 ん? と怪訝な顔で蒼太を見返す。

 ふざけている訳では無い、どうやら真面目に聞いているようだと見て少し笑う。


「泣かないな、多分」

「そっか……」

「落ち込まないでくれ。そういうもんなんだ、あたし達は」


 隣に並んでいた彼らの間に少しの時間が過ぎる。


 蒼太はその間ずっと何かを考えている様でアークヴィラは言葉を出せなかった。


 そして……


「アキさん」

「な、なに?」


 体をアークヴィラに向け、改まった様に言う。


「僕は、僕が死んだらアキさんに泣いて貰える様に頑張ります!」


 今度こそ意表を突かれ、蒼太を見返したままゴクンと唾を飲み込んだ。

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