09.めっちゃ綺麗な外人さんとエッチな事してる
5分ほどそうしていただろうか。
不意に蒼太が口を開いた。
「……きっかけはきっと、アキさんです」
さっきアークヴィラが言った「頑張ったじゃん。何がきっかけなのかあたしには分からないけど」に対する言葉だった。
「え? あたし?」
その言葉は思ってもいなかったのか、蒼太の首に巻き付いた彼女の腕がピクリと震えた。
「僕は目の前で社長や同僚が殺されているのに逃げた。けどアキさんは昨日初めて会った、見ず知らずの僕なんかを助けてくれていっぱい話をしてくれたし、聞いてくれた。僕にとっては家族を除けば、そのどれもが生まれて初めての体験だったんです」
「ふ――ん……」
「昨日、アキさんとヴァレリオさんに質問された時も一瞬、同じ様にどう答えようかと思いました。でもおふたりに誤魔化した答えをしてはならないと思ったんです」
するとアークヴィラの腕に少し力が篭り、彼女の胸の感触が分かるほど密着されたのが分かった。
またもや鼓動が高鳴り、彼女にそれがバレるのを恐れた。
「それで良いんだよソータ。正直が一番だ。とはいえあたしもお前に言ってない事は山程あるし、お前もそうだろうけどな」
「……」
「そうだ。ひとつ秘密にしていた事を教えてやる。ヴァレリオ……奴は『全てを見通す
蒼太の背筋に冷たいものが走る。
「全てを見通す目……ひょっとして嘘ついたらわかるとか?」
「お。正解」
「もし昨日僕が嘘をついていたら……」
「今頃はもう、この世にいない」
「ヒッ!」
「アッハッハ! 冗談だよジョーダン! そこまではしないよ。まあでも、ヴァレリオの質問に嘘をついていたらお前はあたし達の敵になるって事だから結果的にはそうなったかも?」
「そういえばシェイド……って言ってましたね。何ですか、それ?」
「ま、それはまた、おいおい、だな」
「はぁ……」
アークヴィラが教えてくれないのは蒼太にとっては少し悲しい事であったが、仕方無いとも思った。
何と言っても彼女は想像上のファンタジーなモンスターと思っていた高貴なヴァンパイアの、しかも女王なのだ。
(色々あるんだろう。自分なんかとは違う)
そう思った。そしてふとそもそもの事を思い出した。
「そう言えば」
「なに?」
彼の背にくっついているアークヴィラの温もりが心地良過ぎて言うのを躊躇ったが、
「今日は何しに来られたんです?」
「え! 何言ってんの。もう忘れたの?」
「え。すすすすみません。何か約束してましたっけ……」
案の定、アークヴィラは彼の首元からスッと腕を引いた。名残惜しさでアークヴィラの方へと振り向いた。
が、次の瞬間、彼女の両手が蒼太の両頬を捉え、グイッと顔を向けられた。
「血だよ、血! フフフ。約束通り血を吸いに来たんだよ」
牙を見せて妖しく笑った。
(そ、そういえば『これから毎日血をくれる仲じゃん?』とか言ってたな。本気だったのか……)
人間でいうと10代の学生の様にも20代後半の様にも見える、不思議な女性だった。
戯けてみせていても、自信に満ち溢れた燃える様な真紅の瞳と鋭利な牙は、彼女が地上最強種ヴァンパイアの、更にカースト最上位と言える高貴な
(自分なんかとは違い過ぎる)
今もってこの距離感で親しく話せている事が信じられない。
「わ、わかりました。ほんとに毎日、だったんですね」
「とぉぉうぜんじゃん? さあ遠慮無くいただくよ、ハニー」
仰向けの蒼太に覆い被さる様に体を密着させる。それと同時に反撃の隙を与えない様、素早く蒼太の喉元に2本の牙を食い込ませた。
カプリ。
「う……」
呻いて口を開ける度に彼女の銀髪が数本サラサラと口の中に入ってくる。
咽せる程の妖艶で濃い薔薇の匂いを胸一杯に吸い込み、小さくコクコクと音を立てて血を飲み込むアークヴィラの喉の動きを感じる。
本能的に生命の危機を感じ、それがまた蒼太の興奮に拍車をかける。
蒼太はほぼ無意識に両手でアークヴィラを抱いた。それはこれだけで生まれてきた意味があったと思える程、蒼太にとっては濃密な幸せの時間だった。
「んあ?」
アークヴィラは少し顔の角度を蒼太よりに傾け、睨む様に目を向ける。
が、暫くしてフフッと目を細め、彼女も両腕を蒼太の後ろに回し、その体を蒼太に預けきった。
体中の血液の最後の一滴まで吸いとって欲しい、そう願う様に蒼太が目を閉じた時、
「蒼ちゃん!」
ノックも無く部屋の扉が勢い良く開き、妹の凛子が満面の笑みで入ってきた。
「ご飯だよ! いつまで寝て……え?」
「……」
「……」
3人が見つめ合ったまま時間が止まる。
数秒後、凛子の絶叫がこだました。
「ママァァ! 蒼ちゃんがめっちゃ綺麗な外人さんとエッチな事してるぅぅぅ!!」
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