第11話 迷宮専門店1
6月2日(木)
今日も習志野迷宮に来たが、本日のお目当ては迷宮ではなく建物5階~7階の間に併設された
エレベーターで5階に上がり、チンと扉が開くと共にフロアへ降り立つ。
目の前は広い円形のフロアとなっていて、中央に四角椅子が幾つも並べられて休憩スペースとなっていた。
その休憩スペースを取り囲むように迷宮専門店が弧状に何件も連なっている。
買ったばかりであろう武器や防具を吟味している3人の集団が、休憩スペースの椅子一つを占領していた。
「今日本当に大丈夫だったの? デトロイト攻略三日後だよね」
不安になって、隣にいる上水流にそう尋ねるとバシバシ肩を叩かれる。
「心配すんなって。海外迷宮は初めてでも、渡米は初めてじゃねーから! 学校もあるし、土曜の夜までには到着してればいーってよ。あっちは日本より半日遅れてるから余裕余裕。だから、明日の夜まで付き合うぜ」
頼もしいと言うか、中学生の若さだから出来る無謀さと言うか。上水流が時差ボケしちゃったらどうしよう。いや、上水流は何処でも寝れるタイプだから大丈夫か。
「それならいいけど。木刀燃えちゃったから新しい武器を今日は買いたいんだ。他にも諸々買い込んでおきたい」
「んー! スタイルとか決まってるか」
「何も決まってない。銃刀法厳しいから何が良いか分からなくてさ。商品見ながら考えようと思う」
「わっーた!」
端から時計回りに店を見ていくと、ガラス張りのディスプレイに甲冑や兜といった和装武具がメインとして展示されていた。防具関連が多く、奥の方に進むにつれて防具と武器の混合店が増えていく。こちらは洋風スタイルだ。
「燃えない服?も欲しいんだよね。昨日服をお釈迦にしちゃったら、もうすんごい怒られた」
「そりゃ災難だったな。俺も迷宮征くときは何着か持ってくぜ。専用のダンジョンウェアなー。おっ、ここなんて良いんじゃねーの」
上水流が指さす先には、店内の中央にワゴンが置かれ、その立て札の宣伝文句が『一般人向けの武器セール中!』となっている。その店の左右のガラスディスプレイに目をやると、片側には刀や剣、反対側には籠手や盾を着飾ったマネキン二体が展示されており、タグにつけられた値段は10~20万前後。
「いいかも。寄ろ寄ろ」
店内に入ると、ディスプレイの裏側には所狭しと防具が並べられている。さらに一歩進むと、片方の壁に和装と西洋風、魔法使い、一般人をメインとしたマネキン四体とナイフの棚が飾られている。
手前のセ―ルワゴンの奥には武器棚が何層にも連なり、一番手前には放射状になった剣(木製や竹製)が並べられていた。
マネキンと反対側の壁にはでかい盾と大剣が吊され、棚に物が不規則に沢山飾られた構造となっている。
四隅にあった買い物カゴを手にすると、店奥から声だけが飛んでくる。
「いらっしゃいませー」
ひとまず、セールのワゴンへと近寄っていく。中を見ると、値札シールが貼られたタグ付の日用使いも出来そうな品々が詰め込まれていた。
ゴルフクラブ、バール、スタンガン、包丁シリーズ、ナイフシリーズ、クナイや手裏剣、撒菱セットなど。どれも商品パッケージが多少痛んでいたり、埃っぽかったりしている。
「在庫セールかな」
「違えねえ」
チラッと一般人の探索格好をしたマネキン人形に目を向ける。迷宮素材らしいスポーツマン風の服を着せられ、片手には円盾、もう片方にナイフを握るポーズを取らされている。
「ナイフか」
包丁までの刃渡りしかないナイフであるが、探索者になってからのサブ武器として持っていても悪くない。でも。
「短すぎるかなあ」
「リーチ短いの怖いか?」
「うん。僕の特性上、初撃外すんだよね。だから二撃目をすぐ繰り出せるやつがいいなあと思うんだけど木刀はなあ。勝田台迷宮でも燃えちゃいかねないや」
「長物の殆どはライセンス持ってねえと難しいからな。二撃、三撃と続けるならナイフ系の方がお勧めだぜ。怖いかも知れねえけど、元々ナイフは一撃で仕留めるよりその軽さから連撃しやすいタイプだからな」
「リーチが短いのも長所なのかあ。でもナイフかあ」
うーん、うーんと長いこと悩み、ようやく結論を出す。
「クナイにするよ。苦無や苦内、相手を苦しめる為の武器って言われる位だからね。両手に持てば連撃し放題になるし」
「日本人の血が滾るな」
「我は古より受け継がれた一族の末裔、忍者なり!!」
クナイ一本3000円、手裏剣と撒菱セットが共に1500円。
「どうせならセットで買った方が使いやすいか。バケツもう使いたくないし」
「だなだな」
クナイ2つ、手裏剣と撒菱1つずつ購入を決めて買い物カゴに入れる。
クナイの素材は「あの有名うんたら洞窟で取れた特殊金属配合」とちょっぴり胡散臭い文字が並んでいたが、耐久性が高いことを祈ろう。
「これでよしっと」
店奥のレジで会計を済ませ、エレベーターで6階に上がった。
次の店は迷宮探索ウェアをメインに扱った服装店で、普通のアパレル店と同じように棚やハンガーラックに男女兼用のユニセックスウェアが吊されて売られている。
「コーディネートしてやろうか笑」
「上水流のファッションセンスヤバすぎるから。テレビで見たけど、すんごいウェア着てたじゃん。キンキラッキンの」
「ア・レ・はぁ! プロ探索者に成ったばかりで浮かれてたんだよ。今はあんな格好しねえよ」
珍しく上水流が照れて頬を赤らめる。最近の上水流は、青を基調としたデザインのウェアを着こなして、黙ってればイケメンとして名を馳せていた。
口調が悪くなければさぞかしもっとモテモテだったことだろう。今でも十分モテてますけどねえ。去年のバレンタインなんて。。。先生にバレて全部没収されていた。
とはいえ、僕も服を選ぶの苦手なんだよね。
母さんに選んでばかりいてもらっていた。自分で選ぶとなるといつも量産型。
「幾つか探索に良さげなの見繕ってやるから気に入ったヤツに決めろよ。
んじゃ、試着室へゴー!!」
「嫌な予感しかしないんですが」
上水流が選んだフリーサイズの迷宮探索ウェアを次々に試着する。
情熱の赤、輝く橙、爽やかブルー、清楚白、ミステリアスな黒、毒を秘めた紫、優しいグリーン、ウ○コ色…ゴホン安定穏やかの茶、可愛いピンク、元気イエロー。
「どれも日常じゃ着ない統一色だなあ」
「ダンジョンに潜るんだから派手じゃねーと気合いが入らねーよ。それにスポンサーやファンにアピールするには、色の統一イメージも大事だったりするからな」
「へえ。確かに言われてみれば、企業ギルドの人だとイメージカラーありの人多かったなあ。アイドルみたい」
「まーなっ。夕の好きな色はオレンジ系だろ? どうだった。上下に分かれてるから、着替えても違和感なかっただろ」
「まあ、ね」
輝く橙、迷宮産蜜柑を思わせる色合いのトップスとズボンを履く。両方とも七分より少し長めだが、この位なら支障はない。しかし、橙一色。どうも僕らの地域は垢抜けない色が多いよな。
お東京だったら違うのかも。ワンポイント装飾的なのとか、スタイリッシュさと言うか、なんかちがうんだよな。
「気になるなら、黒か青とかと合わせれば雰囲気が引き締まるんじゃねーか。洗い替え用も買うんだろ」
「それだ!!」
ミステリアス黒と爽やかブルーの上下をそれぞれあてがう。ブルーは上水流と微妙に被りそうだな。ブルーの代わりに橙をあてがう。黒と橙のウェアタグを見ると、6万円×2=12万。
心がチャリンと激しく音を立てた。
「素材がいいから高いなあ」
「防水、撥水、断熱、吸汗速乾性、通気性伸縮性抜群、洗濯洗いOKだからな。魔法攻撃受けてもそうそう破れねーぜ」
上水流はグッと親指を突き立てた。これからほぼ毎日潜るようになる。ケチっても損するだけか。
「黒と橙にするよ」
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