第10話『急行・ピコハンぶんまわし系魔法少女』

 ふおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……ん。


 宙を泳ぐサメが、鳴き声とも風切り音ともつかぬ甲高い音を発した。首を天にもたげるサメの姿は、吠えているようにも祈っているようにも見える。


 その音に呼応するかのように、空は無数の雲に覆われていく。分厚く、真っ白な雲だ。それが、異常な速度で渦を巻いている。地上からでも空の動きがはっきりとわかる。それほどの風量があるということだ。


 周囲では、突然吹き荒れた風や、空中に現れたサメを目撃した買い物客らが慌てふためき、騒ぎになっている。

 建物に入ろうとするもの、この場所から離れようとするもの、駐車場に向かおうとするもの。皆の思惑や行先はバラバラだった。混乱した人間に他者を気にかける余裕はない。混乱が混乱を呼び、モール内外にその波が波及していく。


 有真は、吹きすさぶ暴風によって飛んできた諸々の障害物から女子たちを庇い、呟いた。


「これが部長達の言ってた突風……!」


 魔女の仕業じゃなかったのか。


 動揺からか、有真自身が思っていたよりも大きな声が出る。けれど、その声はごうごうと執拗なまでに音量を上げっぱなしな空気のわめきに遮られ、誰にも届かない。


 テラス席の椅子やのぼりや看板があちらこちらに飛び回る中、地面に固定されたテーブルの影に隠れるようにしてしゃがみ込んでいる千里と玲に声をかける。風にかき消されないよう、意識的に声を張った。


「氷見! 旅村! 大丈夫か!?」

「うん、大丈夫。千里も。タイフーン・シャーク……というか、アレは一体何なの? 急に出てきたけど……」

「玲ちゃん、今はとにかく避難しなきゃ! 建物の中に!」


 千里の言葉に頷く玲。


「そうね。でも、今ここを動くのは危ないわ。この強い風、私たちの体重なんてあっという間に持っていかれるし、木の枝とか椅子とか、いろんなものが飛んでる。出入口もパニック状態。風が弱まるのを待って移動しましょう」

「う、うん。わかった! ……ところで、律花ちゃんは?」


「「えっ!?」」


 玲と同時に声を上げる有真。千里の言う通り、近くに律花の姿が見当たらない。まさか、この風に煽られて飛ばされてしまったんじゃ。


 そんな有真の予感を打ち砕いたのは、他でもない律花の声だった。


「──ら、ほら、ね!? やばいでしょ!?」


 心なしか興奮気味なその声は、なぜか頭上から聞こえる。有真がテーブルの陰から顔を出すと、まさに今有真らがしゃがみ込んでいたテーブルの台上に立ち、一人でしゃべっている律花の姿が見える。


「馬鹿野郎! 何やってんだお前!」

 思わず叫んだ有真は、律花の手を引っ張り、強引に地上に下ろした。

「いや、変身しようと……」

「はあ!? 今はそれどころじゃないだろ! 旅村たちもいるんだぞ! 避難が先だ!」

「いや、でもエスがあれはネガシグだって! この風はあいつのしわざでしょ!? 私たちが倒さなきゃ!」

「っ、優先順位ってもんがあるだろ! 今戦って旅村たちや他の買い物客を巻き込んだらどうすんだ!」

「私たちが倒さなきゃあいつはここで暴れるんだよ!? 早くしなきゃじゃん!」

「あ~~~もうッ! 強情な奴だな! お前は!!」

「有真こそ! こうやってる時間が無駄じゃん!!」


 有真と律花の口論は今なお吹き続ける風のごとく勢いを増していく。テーブルの陰から千里が有真たちの様子に何事かと顔を出したその時。


「じゃあじゃあお二人さん、ここはこういうのでどうかな?」


 有真たちの背後から声がした。その声は弾むように軽やかで、おおよそこの場に似つかわしくないとさえ言える明るさ。


「誰っ」


 勢いよく振り返る有真と律花。声の主の姿を認め、律花は「あああぁぁぁーーーッ」と不躾に指を指す。


 その、全身をオレンジで固めたドレス姿に、有真たちは見覚えがあった。


 風で揺れるアップポニー。

 風でなびく装飾のリボン。

 その中でなお、一切のブレなく淡い光をたたえたバイオレットの瞳。


「やあ、ウチは──」


「ハニーッ!!」

 律花が叫ぶ。彼女……ハニーが何かを言う前に。


「どうしてここに!?」

「は、陽咲さ……んんっ、そう。ウチはハニー。ファニー・ハニー・スタンピー! 魔法少女! あのサメはウチが相手するから、アナタは皆さんをお願い……ねッ!」


 律花に出鼻をくじかれたハニーだったが、軽い咳払いとともにすぐ気を取り直す。手早く指示したハニーは、その言葉を言い終わるか終わらないかのうちにもう駆けて行った。その肩に担ぐピコピコハンマーが頼もしい。


 その背中を見送った有真と律花は顔を見合わせると、同時に力強く頷いた。

 この場に魔法少女が現れたことで、「自分がなんとかしなければ」と気が急いていた律花も落ち着きを取り戻したようだ……お互いに。


「ま、魔法少女……!?」


 怪訝そうに尋ねる千里を制し、律花は口早に言う。


「千里、説明は後でするからとにかく避難っ」

「ああ。氷見も。立てるか?」

「ええ、ありがとう」


 有真は一度、大きく息を吸って、そして吐いた。

 有真は自ら落ち着きを保とうとするとき、意識的に深呼吸をする癖があった。


 ────ということは、今、自分は焦ってるんだな。


 自らの行動を振り返り、心の中で苦笑する。

 律花は魔法少女として戦う力があるとはいえ、そもそもが感覚派な楽天家だ。事情を知っていそうな部長や昼日中は今この場にいない。


 こういうときは、自分がしっかりしなくては。 

 有真は気を引き締め、周囲に意識を配る。


 横目でサメを見ると、跳びあがったハニーが今まさにハンマーで殴りかからんとしているところだった。彼女に意識を割かれたためか、サメの出現とともに吹き始めた風は少し勢いが弱まったように思えた。

 止まぬ喧騒の中、あちらこちらで未だ買い物客の姿が有真の視界を掠め続けている。


「よし、行こう。様子を見るに、店員も外にいる客にまで対応できてない。オレと律花は外の客の避難誘導をするから、旅村たちは建物内の他の客と一緒にいてくれ」


 建物に向かって歩きはじめながら、有真は話す。半分は本音だが、もう半分はそうじゃない。心のどこかに、律花が変身するときに友人が近くにいては何かと都合が悪いという思いがあった。


 危険だ、なら私たちも一緒に、と話す旅村たちを律花と二人がかりで説得しつつ、暴風吹きすさぶテラスからなんとか建物の中へと入った。


 何も知らない、ただ巻き込まれただけの友人想いな二人は、有真たちの説明を完全に納得しきってはいない。不服と心配が折り混じった表情と声色をこちらに向けてくる。


「……ケガ、しないでね?」

「いい? ちょっとでも危ないと思ったらすぐに私たちのところに戻って来て。ボランティア精神旺盛なのはいいけど、それで自分が怪我してちゃ元も子もないのよ」

「う、うん。わたしも玲ちゃんも、律花ちゃんたちのこと、律花ちゃんたちよりも心配してるから」

「怪我したらはたくからね」


 胸元に手を当てて落ち着かない様子の千里と、形のいい眉尻を下げて憂う玲。その二人を元気づけるように、律花は努めて明るく返す。


「怪我した人を叩かないでよっ。大丈夫。有真も私も、悪運だけは強いんだからっ」


 ぐっ、とガッツポーズを決め、宣言するように笑う律花。

「なんとかなるよ!」


 大きく一呼吸して、自分に言い聞かすようにこぼす有真。

「なんとかするさ」


 踵を返し、建物から出る魔法少女と、その片割れ。

 吹き荒れる暴風が、怪物の吐息のように二人の身体を包み込む。




△▼△▼△▼△




時は少し遡り、10分ほど前。


 ふおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……ん。


 街を歩いていた紫の鼓膜を震わせたのは、強烈な風が空を切るような、はたまた巨大な生き物の鳴き声のような、曖昧ではあるが確かな存在感を放つ残響だった。


「これは……!」


 瞬時に異変を察知した紫は、ポケットからスマートフォンを取り出す。


「ファニー!」


 真っ暗なスマートフォンの画面は、紫の声によって起動する。


『イエス。マイハニー』


 機械の合成音声が応答する。画面には、オレンジのネオンでラインが引かれたシンプルなスマイルマークが浮かんでいる。初めて見たとき、淡々とした音声とは乖離したポップな表情がおかしくて、つい笑ってしまった。

 以来、「ファニー」と呼んでいる。

 

 ファニーはスマートフォンの形に変化したシグマニオン。

 そして、紫と契約しているシグマニオンでもある。


「あれは『ネガ』よね?」

『イエス。その通りです。ガイドを開始しますか?』

「もちろん。行くよ、ファニー」

『イエス。変身プロセスを実行します。』


 紫がその手に握るスマートフォンに、スマイルに変わってスタンプが表示される。チャットアプリの返答に使われるような、かわいらしいイラストだ。

 スタンプから画面上部に向けて、矢印のアイコンが出ている。紫はその指示に従い、スタンプを勢いよく上にスワイプした。スタンプは、画面から飛び出し紫の指先にビジョンとして追従する。


天を指した紫は、短くはっきりと口に出した。


変身メイクアップ


 指を勢いよく足下に振り下ろす。指先についてきたスタンプが広がり、紫の足場に展開した。スタンプの輪郭が、オレンジ色の強い光を発してその経を広げていく。紫はその光を受け入れるように、体の前で腕を交差させて目を瞑った。


 強まり続ける光はやがて、紫自身と混じり合っていく。


『シグマ体構築……完了』

『シグマペトラ構築……完了』

『三次元位相置換……完了』

『アンスロポスタレンド定義……完了』

『オプロタレンド定義……完了』

『シグマ位相固定オブジェクト装着……完了』

『精神構造解析……完了』

『適正シグマニウム指向カルディア換装……完了』


 紫の脳内で、ファニーの合成音声が洪水のように流れてくる。それはまるで、脳に直接情報をぶち込まれているかのような感覚。音としてではなく、純然たる情報として紫はそれを理解し、認識し、書き換えていく。


 自分の中の常識を。

 自分の中の感覚を。

 自分の中の自分を。


『バイタルチェック……完了』

『メンタルチェック……完了』

『シンクロチェック……完了』


 スイッチを切るように、紫から自分の主導権が失われる。

 スイッチをつけるように、ハニーが自分の主導権を握る。


 ウチの番ね。

 ハニーは目を開いた。


『プロセスオールグリーン……変身完了』


 一際強く膨れ上がり、弾けるように飛び散る光の残滓。感じるのは、まるで自分が自分でないまま地に足をつけているような、夢遊的な現実感。

 それを確かめるように、ハニーは右手を意識的に握る。

 左手には、ピコピコハンマー。その面には、先ほどスマートフォンに表示されていたスタンプの絵柄。

 

 ぐ、と軽く膝を曲げ、地面を蹴る。

 たったそれだけの動作で、ハニーの体は射出されるがごとくすっ飛んだ。遙か後方に土煙が上がる。

 脳内でファニーが告げた。


『目的地設定。対象補足。活動状態のネガ反応を追跡します』

「ありがとっ」

『目的地まで直線距離約1㎞。次の曲がり角を右折です』

「曲がら……ないっ!」

『イエス。マイハニー。直進ルートに情報を更新しました。右手、赤屋根の家屋上部です』

「オーケー!」


 建物の屋根から屋根へ。ファニーの指示通りに、示された建物の上を走り、跳ぶ。 オレンジ色の疾風が、向かい風を突っ切って台風の目へと駆けていく。


 ふと、進む方向に何があるか思い当たったハニーはファニーに問う。


「ねえ、この方角って!」

『イエス。ネガ反応位置を朝久市地理情報と照合します……大規模複合商業施設・モーニングモールがヒット』

「やっぱり! お休みだからお客さんも多いはず……踏ん張らなきゃ!」

『ネガ反応接近。北500mです』

「急がなきゃね! ヒーローは遅れてやってきちゃいけない!」

『ノー。戦う女性のことはヒロインと呼ぶのが適当です』

「言葉の綾ッ!」


 ファニーの言葉に気を引き締めたハニーは、先ほどまでよりも強い踏み込みで屋根を蹴った。


△▼△▼△▼△



「着いたっ! ネガはどこだろ!?」

『マイハニー。ネガ反応は建物裏です』

「嘘、回ってかなきゃ!」


 駐車場側からモールの敷地に突入したハニーだったが、ファニーの言葉により迂回を余儀なくされる。駐車場は南側、ネガがいるのは建物の北出口側だ。

 モール内外の混乱は、慌ただしい駐車場の様子からでも十分わかる。そのため建物の中を行く、というのは難しいことのように思えた。突っ切るどころか、怒濤の人混みに進路を阻まれるだろう。かといって、先ほどのように建物の上を行こうにも、一階二階程度の高さならばともかく、モールは四階建て相当の高さだ。さらに台風の目はすぐ近く。吹きすさぶ風の勢いで体勢を崩されるため、ジャンプで上がるのは現実的じゃない。

 仕方なく、建物を壁伝いに回り込む。


『ストップ』


 脳内に響いた声に足を止める。次いでファニーの示した方向に、それはいた。


 空中を我が物顔で泳ぐ、旋風をその尾に纏わせた大きなサメ。


 体長は10メートル弱ほどか。腹辺りから尾にかけて、次第に透明になっているので正確にはわからないが、ネガシグマニオンの分類としては中型から準大型、という所だろう。空に8の字を描くように飛び続けている。

 能力は一目見てわかる。風だ。波でなく風を切るその姿は、空サメ、とでも呼ぶのが適当かもしれない。

 空に渦を巻き続ける雲の中心点は、サメの直上の位置。サメが移動すれば、中心点も動く。相当に規模が大きい。反面、小回りは利かないか……?


 建物の影に潜み、空サメの分析をしているハニーの視界に、ふと人影が映る。

 

 飲食店のテラス席だろうか。看板やチラシが吹き飛び、窓もほとんど割れている大惨事のさなか、地面に固定されているテーブルを盾にして風や飛来物からその身を守っている4人くらいのグループ。見たところ負傷はしていなさそうだけれど、それにしたっていつまでも空サメの近くにいるのはあまりにも危険だ。


 避難を誘導しようと近づくと、大声で言い争う声が聞こえてきた。何を言っているのかは聞き取れないが、もめているらしい。

 さらに近づいて、その声に聞き覚えがあることに気づく。


『マイハニー。高純度シグマニウム反応を検知。シグマニオンです』

「うん、あれは……」

『魔法少女・陽咲律花。一緒にいるのは友人と推測されます。言い争っているのは男子。変身の是非について討論しているようです』


 討論、というよりは口論をしているように見えるけれど。

 昨日話したばかりの魔法少女、陽咲律花がここにいることもだが、周囲の人間に魔法少女であることを明かしている、というのにも驚いた。

 別に駄目というわけではないけれど、魔法少女になって半年以上経つ自分には、周りにそのことを話すという発想が一度も無かったのだ。それはともかく……。


「じゃあじゃあお二人さん、ここはこういうのでどうかな?」


 ハニーは律花に声をかけた。


 魔法少女が二人いるなら、話は早い。

 この能力規模。いくらハニーが戦えるとはいえ、周囲に多くの人間がいる中それを気にかけながら戦うのは困難だ。


 でも、守る力のある人がその役割の一端を担ってくれたら?

 ハニーの仕事は格段にやりやすくなる。一人じゃ出来ない「分担作業」が出来る。


 頭数がいるということの最大のメリットだ。


 出鼻をくじかれつつも、手早く律花にお願いを伝えたハニーはすぐに、空サメに向かって飛び出した。


 ネガシグマニオンの中にはまれに、超常的な能力を持ち、行使してくる個体がいる。数は多くないがその分、強力だ。ハニーは今までに数度、能力持ちとの戦闘経験があった。

 そして、大概の場合、能力持ちの行動原理は通常のネガのそれに当てはまらない。まるで何か役割を与えられているかのごとく、独自の基準に則って行動する。この空サメはまさにそれだ。通常のネガであれば真っ先に狙うはずの律花とそのシグマニオンを狙うことなく、無差別的に風を起こし続けていたのだから。


「ファニー!」

『イエス。マイハニー』


 駆けるハニーは叫ぶ。

 それに呼応したファニーがを起動する。


 そう、超常的な能力を持っているのはネガだけではない。

 ネガシグマニオンも、元をたどればシグマニオン。その力を使って戦う魔法少女にだって、能力はある。それも、二つ。


 人間とシグマニオンが一緒に戦っているのだから、二つだ。


 ハニーの能力の一つ、『スタンプ』。

 

 ハンマーの面に描かれた、スタンプのイラストが淡い光を帯びる。


「はああああああっ!!」


 ハニーが気合いの雄叫びと共にハンマーを振り下ろす。


 地面に。


 ピコッ!


 気合いとは裏腹、間の抜けるような音と共に、ハンマーで叩いた部分には『スタンプ』が押された。変身時に紫の足下に展開したものと同じ、かわいらしいデザインだ。

 しかし、変身時と違うのはその効果。


 ハニーは地面に打ったスタンプを思いきり踏みしめる。


 ドガアァン!!


 信じられないほどの轟音を発し、ハニーは文字通り射出された。比喩や例えではなく、スタンプがハニーを打ち上げるカタパルトの役割を果たす。

 最も風速のある空サメの直下を、ロケットのようにブレなく真っ直ぐ飛ぶハニー。

 

 瞬く間に空サメと同じ目線まで打ち上がる。


 ピコッ!


 空サメがこちらの存在を認識するよりも早く、その鼻面を巨大化したハンマーで叩く。

 ハニーはその勢いのまま回転。たった今スタンプによってデコレーションされた空サメの鼻先に向かって再度振りかぶったハンマーを……


「おらぁっ!!」


 力任せに振り下ろす。目が合った空サメへ、ウィンクのおまけ付きで。


 ドッ……ガァァァァァン!!!


 一拍遅れて、通常ではあり得ない威力の打撃が空サメを襲う。

 鼻先に局所的な極大圧力を食らった空サメは、打撃音に勝るとも劣らない轟音を立てて地面に落下した。


 ハニーの『スタンプ』の能力。それは衝撃の蓄積と解放である。

 

 ハニーのハンマーでスタンプを押した位置に打撃を加えると、その対象の内外から衝撃が炸裂し、何倍ものパワーになる。かわいいイラストのスタンプに反して、かわいくない威力の能力だ。

 また、武器のハンマーは取り回しの良い小型と、破壊力のある大型にサイズを切り替えられ、状況に応じて使い分けることが出来る。自身の射出の際に使ったのは小型、空サメへの攻撃に使ったのは大型だ。


 地面に着地したハニーは吠えた。


「かかってきなよフカヒレちゃん!! ミンチにして美味しく頂いてやるからっ!!」


 ────まあ、フカヒレのミンチなんて美味しいのか知らないけどね。

 心内でハニーはつぶやきながら、空サメの目標がこちらに集中してくれることを期待する。

 煽り文句を理解できたわけでも無いだろうが、空サメは今食らった一撃のダメージを意にも介さない様子で空へと舞い戻ると、その双眸をハニーへ向けた。明らかな敵意。ハニーの思惑通りだ。


 空に陣取った空サメもまた、吠えた。


「ぶおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん」


 これまで無差別に放たれていた暴風の脅威が自分一人に集中することを理解して、ハニーはじっと、空サメを見つめる。


 風の勢いが増した。



 

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