其の五(ヤケ…からの不穏な歴史+ファンタジー要素?盛り沢山でお腹いっぱいですけど、もふもふのいる気配がしますよ!?)
人間あまりにも予期せぬっていうよりむしろ、予想外がすぎて月面宙返り三回転ひねり半ぐらいに捻りまくった出来事がなんかの合わせ技のようにこれでもかと重なりまくると、驚きすぎたことでどっか突き抜けちゃうのか、妙に冷静になるというか少々のことではもうそんな動じなくなるんだなということをここ暫くのあれやこれやで嫌というほど学びました。
フィギュアスケートとか体操なんかの競技だったら拍手喝采の上にスタンディングで盛大に賛美するとこだけど、自分に降りかかった出来事だと思うともうそれどころじゃないんですよ。
あれだ。多分だけどこれがスン…、てなるやつ。
……もう人間じゃないんですけどもね!(ヤケ)
本格的にしっかりと目が覚めて、早々に知らされた驚愕の出来事。
三百年もの間すやすや寝こけてた上に、自分の拠り所である桜の木がもはや巨木としか言い表す言葉がないほどにずんどこ生長してたという衝撃的すぎる事実。
一番最初に目覚めた時よろしく暫くの間はただもう呆然とするしかなかったんだけど、過ぎちゃったもんもなっちゃったもんも仕方ないと思うことにしました。
そうでも思わないと正直やってらんないっていうか、できることならそのままもっぺん意識飛ばしてしまいたかったデス…。
現実からマッハで目を逸らしたあげくに明後日の方向へ全力脱兎をかましたとも言うかもしれないけど。そこからも更にそっと視線を背けておきたいと思います。
見ない見ない、私はなーんにもおかしなものは見てないですよー。なーんにも知らないしわかりませんよー。
後ろ向き?知らんがなそんなもん。
我ながら誰に言い訳してるんだかわかんないけど、転生?した上に樹霊なんて
許容量なんてとうの昔にオーバーして最早ざっぱんざっぱんと盛大に溢れかえってるんだから、ちょっと体育座りで黄昏ながらあらぬ方角を遠い目で見つめたくなっちゃったって仕方ないじゃないさ。
ヤケ?そんなもの今更すぎますが何か。
ともあれ諸々の問題から敢えて目を逸らしつつも、せっかく目が覚めたのだから自分の居る世界…場所をちゃんと見てみようと思って、ここ数日は杜の中を散策したりして色々と見てまわっている。
今の季節は
新緑が柔らかく芽生えて空へと伸び、植物も動物も長い冬の眠りからゆっくりと目覚めて動き始める季節。
本能のようなものなのか、それとも寝ている間に睡眠学習でもしていたのか、樹霊としての基本的な知識はあるものの、私はまだまだまったくの世間知らず。むしろ世界知らず?と言ってもいいと思う。
だから主には檜の翁とか楠波とか、時には他の樹霊やあやかしたちにもこの世界のことや、樹霊や護り手としての役割やできること、使える術なんかを色々と教わっている。
そう!術!
リアルファンタジーな世界だと思ってたら、本当にファンタジーよろしく魔法やら何やらの不思議技術も満載でした。力の強弱や大小はあれど、この世界に生を受けた者ならば基本的に人は魔法、人以外は術という感じで使えるものらしい。もちろんその認識が絶対ということもなく、とても少ないながらも例外もなくはないらしい。
樹霊としては、周囲の景色に同化して姿を消したり…はまだ何となくわからなくもないんだけど、離れた場所にいる他の樹霊と話ができたりするってなんだそのテレパシーぽいの。いやまあ便利ですけどもね。
聞くところによるとこの世界には現在わかっているだけで三つの大陸があり、島々は大小含めたら数えきれないほど。それぞれの土地に幾つもの国や集落が並び立っていて、表面上は概ね平和ではあるもののどの国々も隙あらば領土を拡大し、自領の利益を少しでも増やそうと水面下で鎬を削りあっているとのこと。
うん、どう考えても裏ではかーなーりーギスギスしてそうですね!
でも政治の闇の部分とかそーゆーの、わたしまだ子どもだから知ーらない。
なんというか、昔の日本の戦国時代に比べたら気持ち平和寄りな感じ、なんだろうか。表立っての戦闘行為なんかはここ数年起きてないみたいだし。
しかしさすがに異世界別世界。
当たり前といえば当たり前なんだけど、奥が深いというか覚えることが多岐に渡ってありすぎて時折頭がパンクしそうになる。
例えば拠り所の木があれだけ生長していたのだから自分もかなり成長していそうなものだけど。随分と長く眠っていたことに加えて護り手は他の樹霊と比べてみても成長がゆっくりな上に寿命も長いそうで、私自身はまだまだ5~7歳ぐらいの小さな子どもにしか見えないこととか。
よかったような悪かったような…。
まあ知らないうち(眠っている間とか)におばあさんになってたりするよりはマシだと思うことにしてるけど、正直なところを言うとものすごく微妙な気分です…。
ちなみに今の私は黒髪に黒い瞳で、どこから見ても普通?の樹霊の子どもの姿をしている。要は護り手である、という目に見えるわかりやすい特徴を隠して過ごしているわけだ。
なんだってそんなことをしているのかというと、なんでも滅多にないことではあるが、時折何を勘違いしたのか護り手を攫って自分たちの守り神として祀りあげ、その力や齎される恩恵を我が物として独占しようとする人間がいるのだとか。
……まあ信心よりも、それに付随してくるあれやらこれやらそれやらの利を狙うごく一部の宗教関係者とかいわゆるテンプレな権力者とかにはありがちな発想ではあるよね。どこまでも自分本位で自分たちの利益のみを優先させて、邪魔者は力づくで排除するとか。
どこかからそういう特殊能力みたいのがある人を探して騙したりなんだりして連れてくるよりも、護り手はその存在も能力も折り紙つきで確実なんだし。
とは言っても次元を隔てる結界などによって杜に忍び込むことはできない為に、そういった輩はたいてい参拝にきた客を装って杜へと来るので、七~八百年ほど前から神職の人々が杜の中へと移り住み、社務所を預かって監視と人品の見定めを兼ねて対応するようになっているそうだ。
実際に随分古い話になるとの注釈つきではあったが、かつて警備の隙をつかれてほんの一時期とはいえ幼い時分に攫われてしまった護り手もいたそうで、その時は激怒した杜の住人たちと護り手を攫うという暴挙にやっぱり激怒した周辺諸国が総力を挙げて犯人たちを調べ上げ吊し上げ、迅速に動いてなんとか無事に護り手を取り戻したそうだ。
そして主犯の所属していた国は結果的に内部がガタガタになって最後には滅び、分割されて周辺国に併呑された、らしい…。
しかし案の定と言うべきか、そんなことがあったのにも関わらず、懲りるということがないのが権力や過分な利益を欲する者の常。
その後も隙あらばとばかりに企む者が何度か現れた為に、杜の古老たちが話し合ってせめてもの予防策のひとつになればと、護り手の目印にもなってしまっている目立つ緑の瞳と髪に咲く花や葉を隠すための幻術を編み出した。
それが今、私が翁に手伝ってもらって自分にかけている術だ。
もう少し身体が大きくなれば、自分の力だけで術をかけることができるようになるし、他にも色々な術を覚えたりできるそうなのでその時が楽しみだったりする。
一応この術を解除するだけならなんとか一人でできるようになりました。
覚えがいいって褒められたし、努力の伴う勉強って大変ではあるけどほんと大事だなと実感できました。
そんなこんなで私は、今日も元気に機嫌もよろしく最近日課となりつつある散歩コースをほてほて辿る。途中、行きすがる木霊に挨拶をしてじゃれついてくる子狸たちと遊びながら道筋が間違ってないことを確認するのももう慣れたもの。
最初の頃は…まあうん。ばっちり迷いかけましたともさ。でも完全に迷ったわけじゃなくてちょっと迷いかけただけだから!ノーカンですノーカンだと思います!うん、おっけーおっけー大丈夫。
ともあれ、百日紅のお姉さんに髪を梳いてもらったり白樺のおじいさんとのおしゃべりも楽しいし、時々は神社の狛犬や霊狐たちも遊ぼうとやってくる。
なんだかんだ言いつつもわりとここの生活を満喫しているかもしれない。
そして。
――――異世界まじぱねぇ。
そう思ったのももう何度目か。いい加減数える指も足らないっていうか、むしろ数えるのすら面倒になってきましたよ…。
この世界の文字から始まって、ここ数百年の出来事とか世界で共通とされている認識に各国の特色や考え方などなど、世界情勢や世の常識とされているものを知っておかないと後々まずいことになりかねない可能性もあるってことで、ここ暫くは主に翁と楠波に先生役をお願いして勉強の時間を設けてもらっている。
楠波にはまだ少し早いんじゃないかとも言われたけど、必要なことを何も知らない状態で何か面倒なことに巻き込まれてもいけないからと説得し、最終的にはほんとに面倒なことになりそうな前に絶対に楠波と翁を頼ることを約束させられました。
……なんか最近、過保護っぷりに加速度的に磨きがかかってきてる気がしてならなくてですね。
そこらへんのことを深く突き詰めると激しく藪蛇すぎる上にそこはかとなくいやんな感じがするので、気づかなかったことにしておこうと思います。うん。
まあそれはともかくとして、まずはこの世界の成り立ちを改めて学びはじめて地理も確認してみようということになったんだけど…。
案の定と言おうか予想通りと言うべきか、巻物の形になっている地図を見せてもらったのはいいけど、そこに書かれた国名を示す文字に自分の目がおかしくなったんじゃないかと思って三度見ぐらいしちゃったよね。
いったいぜんたいなんだって、漢字っぽい国名の真横とか斜め下あたりにアルファベットもどきを鏡文字にして更に向きを変えたかのような国名らしきものが当たり前のように堂々と明記されているのか。むしろまずそもそもの問題として何故この世界に漢字っぽいような文字があるのか、誰かそこんとこ詳細に説明ぷりーず…。
もともと戦国時代あたりの日本に似てるなぁとは思っていたので、漢字っぽい国名が並ぶのは若干もにょりはするけど多少はわからなくはない。その土地や周辺に興った文化によっても文字というものは変遷を辿って進化してゆくものだから、かつての日本、いや地球と似たような文化が興ったのであれば文字もまた世界を越えて似通ってくる可能性も多分もしかしたら恐らくあるのかもしれない。
それはそれとして、地球の時とは違いこの世界は一部を除いて大陸で地続きなので大陸中央からちょっと離れた場所に中華系?っぽい
漢字っぽい文字が存在してることに関しては、もうこれ以上つっこまないことにしようと思います。スルーだスルー。
…だってどう考えてもキリがない上に何ひとつ解決しない予感しかしないんだもの。
地図を正面から見て北に、他よりちょっと大きめの
それはまだいいんだけど、琥元国の西側にあるリーデンハイト公国とか祭苑国の南東に見えるエシュロット神聖国とか、なんか他にも国土の大小程度の違いはあれど、明らかに横文字っぽい国名が漢字っぽい国名と普通に並んで混ざってるんだけどなにこれこわい。
思わず固まってしまった数秒後、内心の衝撃を何とか押し殺し、最近標準装備になりつつある小さい子ぶりっこでこの疑問を即座に解消することにした。
だって一人で考えててもわからないものはわからないし、頭痛くなってきそうだったんだもの。
考えるのを放棄したとかソンナコトハナイデスヨ?
「ねぇ、楠波。どうしてこの国とこの国はおとなり同士なのにちがう文字でお名前が書いてあるの?」
理性を総動員して(多分)何とか内心を出さずに聞けた私えらい!
上目遣いで気持ち小首を傾げてみるのがポイントです。最初に意識してやったときは自分で自分にドン引きして、後でちょっと膝抱えて壁とお友達になってたけどな。
…慣れって怖いわぁ。
元の世界の常識から考えたらほぼあり得ないことで、ぶっちゃけ対極とも言えるような文化の違いでそこらへんの交流だの国交だのは責任者がいるのなら何がどうしてこうなってんだと胸元ひっつかんでがくがく揺さぶった上で、小一時間程みっちり問い詰めさせていただきたいところです、えぇ。
これから教えてもらうことも覚えないといけないこともまだまだ沢山ありそうなのに、なんかもう最初っからつまづきそうな非常にアレな感じでいっぱいだけど、かつての常識はこれでもかと万能接着剤的なものを満遍なく塗りたくった鋼鉄の蓋を更にタングステンの鎖でぐるぐる巻きにして全力で封印しようと思います。
…でないとやってられっか。
「ん?あぁ、よく気づきましたね。これらの国々は隣り合ってはいますが、それぞれの国を司る聖獣の性質によりその国特有の文化や特色のようなものが大きく異なってきているんですよ。もちろんのこと、各国で通じる共通語もあるんですけどね。」
「……ん?」
いま、なんて?
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