其の三(ガラが悪い?知らんがな。色々ありすぎていい加減やさぐれたくもナリマスヨ?)
学校帰りに起こった事故で自分が死んだらしいという事実を思い出してしまったことによるショック状態で、ほぼ気絶するように眠りに落ちた時から暫く経ちました。
あれから少しして再び目を覚ました私は、あの老人…
最初は自分の現状のことじゃなくて、お伽噺か何かでも聞かされてるんじゃないかと本気で思ってたよね…。
なんだってまたこの状況でいきなりお伽噺が始まるんですかね?的な。
できることならば、一笑に付すどころか一体何の冗談かと大笑いして腹筋の限界に挑戦してみたかったところだけど、最中にいるのが自分自身であるがゆえにマジで笑い事ではないんですよ。今だってそれで済ませられることならほんとにそうしたかったとガチで思ってますよ、えぇ。
むしろ今からでもいいからそうしちゃ駄目ですかね?
あ、駄目? そうですか…(ちっ)
ここは遙か神代の昔より神域あるいは聖域と称される深奥の森で、誰からともなく鎮の
お伽噺に出て来るような木々の精霊…樹霊やそれに類する物の怪やあやかしと呼ばれる存在が数多く住まい、この世界でもほぼ唯一無二の清涼な気に満ちた特殊で大きな力に溢れた場――いわばパワースポットのような場所――なのだそうだ。
そう。
この世界でも、というとんでもなくいやんな感じの注釈がついちゃうんですよ。
この杜は人の間でもあやかしの間でも、およそ知らない者はいないだろうと言うほどにそれはもうものすごーく有名な神域で、社殿とか社務所のような建物やお参りに来た人たちの為の宿泊施設まであるという話だが、私はこれまで生きてきた中で一度たりとも、この杜のことなど聞いたこともなければ写真や映像でさえも見たことがなかった。
情報の流通著しい現代日本で暮らしていた以上、私有地とか立入禁止になっている場所でもない限りはカメラクルーが入れないような辺境であったとしてもカメラを積んだドローンやヘリコプターなんかが入れないというのは考えにくい。
それにもし万が一カメラが入れないような場所であったとしても、そんなに有名なら話を聞いたことぐらいはあるはずだ。
ましてやそれが日本国内にある場所ならば尚のこと。ネットで噂になったりTVでやらないはずがないんじゃないかと思う。もちろんあくまでも推測ではあるけど。
ただそれにしたってあやかしや物の怪だなんて一体どこの日本昔話?といった感想しか出てこない。もしくは昔から地方に伝わる口伝とか伝承とかのどうにも曖昧な感じのものとか。民俗学はちょっと興味はあったけど、結局専攻はしてないし聞きかじり程度の知識しかないんだよね…。
試しに他の有名らしい地名を聞いてもみたけど、いくつかは辛うじて聞き覚えがありそうな名前ではあるものの、殆どが似てはいても知らない名前ばかり。
例えば地図を見ながら説明をされて、聞き覚えのある地名が信州のことかと思って聞き返したら、
これらのことから鑑みるに、察したくもないがどうも私は事故の衝撃か何かで異世界だかパラレルワールドだかに迷い込んでしまったとしか思えない。
まさか自分がトリップを実体験するはめになるとは思わなかったデス…。
……まあ正直なところ、察したくないどころか未だに全力で認めたくないんですけども!
現実逃避?ほっとけや。
自分が当事者で渦中に盛大に巻き込まれてるどころかむしろ渦の中心、もろど真ん中にいるとか結果的に意味がないとわかりきっていても全力で目ぐらいそらしたくなりますよ?
いや。正確なところを言うならば、迷い込んだというよりもあちらの世界で死んでこちらの世界に転生した、ということになるのだとは思う。
その辺がどうなってるのかいまいちよくわからないけれど、死んだっぽい自覚もある上に幼児に戻ってる…生まれ変わってる?ことだし。
自分で体験したのでなければ、信じろと言う方が無茶な話だわこれ…。
しかも一般的な普通の赤ちゃんや幼児ではなく、ぶっちゃけこのことこそ最も認めたくはないのだけど、私も樹霊と呼ばれる精霊の一人なのだという。
その上、檜の翁以来500年だか600年ぶりだかにようやく生まれてきた護り手だそうだ。
うん、激しく面倒ごとの予感が怒濤の如くにですね。もしやこれが流行?の転生チートとかいうやつなのか。
そりゃラノベとかネット小説なんかで多少(意訳)は読んだこともあるけどさぁ…。
一応テンプレらしいトラックによる
それはそれとしてあのトラックの運転手、ブラックな会社のせいとかじゃなく個人的な不摂生なんかが原因による居眠りや不注意での事故だったらまじで許さない。
ここから届くかどうかわかんないけどそれでもいいや、なんかこうとっても濃ゆい感じの念を送ってやる。
もういっそ潔くスキンヘッドにした方がいいんじゃないかと思うぐらいすごく残念な有様でハゲ散らかして、もし彼女とかいたとしてもあっさりばっさり振られてしまいやがれ。
なむなむなむなむなむ……。
はっ、いかん話がそれた。
とりあえずなんていうかもう、ほんとしつこいようだけど色々と本気かつ全力でご遠慮申し上げたい事態ばかりなんですよ。
特別がいいとか寝言抜かす輩は平凡であることの強さを知らないからそんなことが言えるんだよ。人間として生きてるだけでハードモードなんだよ、人生舐めんな。
めくるめくような展開が目白押しの大冒険も目の覚めるようなイケメンとの甘い甘い恋愛も、全力で競い合い讃えあうようなライバルも生涯をかけて追い詰め復讐を果たすような宿敵もなーんにもいりません。
むしろ持ってくんな。もし持ってきたとしても速攻で返品かましてやるわ。
事故って死んで人外に転生したってだけでもかーなーりーお腹いっぱいなんです。
平凡が一番、平穏が最高、平常万歳なのです。
因みに護り手とはなんぞやというと。
杜と人の世界、そして人とあやかしとの狭間、その境界を橋渡しするとともに守る役割を持つ者、らしい。
なんでそんなことがわかるのかと言えば、護り手となる者には誰もが見てわかる
それはまだ自分で見れてはいないけど、翁とよく似た光っているみたいな緑翠色になっているらしい瞳と女性の樹霊であればもう少し大きくなると髪に咲くという、自分の拠り所をあらわしている花だ。
それと、ごく稀にだけど護り手に限らず樹霊は髪が緑色っぽくなることもあるらしい。これは実際に見たことのある
最初にその話を聞いた時に思わず脳裏に浮かんじゃったのが、某国の女流作家が書いたとある名作小説に出て来る夢見がちでお喋り大好きな愛すべき赤毛の少女とその身に起きたちょっと笑っちゃうような事件であろうとも。
…
樹霊は一人につき一本の木を拠り所にするそうで、私の拠り所となっているのはまだ幼い、苗をぎりぎり抜けるか抜けないかぐらいの桜の若木。
まだまだ細い幹と小さな葉が申し訳程度に数枚ついた、これまた小さく細い枝。花のつぼみすらまだついていない。
いやまあ桜は好きですよ?好きだけど、でもなんていうかこう…何となくだけどほんの少しもやっとするものがあるというか。
死ぬ間際なのに妙に暢気につらつらと考えていたことをふと思い出してしまった。
まさかと思うけど、あれもこうなった原因のひとつだってんじゃないでしょうね…。
思わず胡乱な目つきで遠くを眺めたくなってしまったのも無理はないと思う。何にしろこれもまた眉唾で荒唐無稽な話には違いない。
………己が当事者でさえなければな、うん。
今更どうしようもないことだとわかってはいるのだけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ過去の自分をシバキ倒したくなったりならなかったり。
だって一体誰がこんな状況になることを事前に予測できるってーのさ。いくらなんでも無茶振りすぎるにも程があるわ。
それともなにか、いわゆるカミサマ的な存在が何かしてくれちゃったりしたとでもいうのか。
もしそうだったとしたら、ちょっとカミサマその顔貸せや。
色々と微に入り細に入り詳しいところをとことんまで膝をつめてO・HA・NA・SHI(要訳)させていただきたいんですけども?
そんな風に気になることも気にしなくちゃいけないことも多々あるが、敢えて色々とすっ飛ばして私は今日も自分の拠り所である桜の木でうとうと微睡む。
最初に目覚めた時からそうだったんだけど、どうにも眠くて眠くて仕方がない。
檜の翁いわく、生まれたばかりの上に目覚めたばかりでは無理もなく、暫くは成長と本能的な知識の刷り込みのためにも眠っては目覚めるを繰り返して、段々と眠っている時間が短くなっていくのだそうな。
本来樹霊として生まれた者はある程度心身ともに成長するまでは、会話ができるぐらいに覚醒することなど殆どありはしないらしい。
おまけに私の場合は、まさかの異世界の人間からの転生という超変則的な事態に加えて、人として生きていた前世の記憶までばっちりあるという変則に変則を重ねがけしたような状態なので、意識せずともどうしたって身体的にも精神的にも色々と負担がかかっているだろうとのこと。
まあそりゃそうだよね。自分でも何がどうしてこうなってるのかわけがわからないよとしか言えないような状態だし。
とりあえずは人間の赤ちゃんみたいなものと考えればいいんだろうか。
どちらにしろ、年長者の庇護が必要な幼子には違いないのだし。
ちなみに食事は、拠り所の木さえ健康で特に離れた場所にいるのでないなら摂っても摂らなくてもどちらでもいけるとか。
もちろん嗜好品のような感じでちゃんと食べることもできるそうで。
なんていうか、樹霊ってある意味便利だわー…。
そうして私は時折夢うつつにぼんやり目を開けたりはするものの、わりと長いことただひたすら欲求の赴くままにくうくうすやすやと安眠を貪っていた。
…その件で後々、少々…どころではなく、それはもう死んだ魚のように虚ろな目でリアルにorzをしたくなってしまうことになるとはまったくもって欠片すら思いもせずに。
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