全力ダッシュ
「あっっっっっつい!!!」
ヘルメットの中鈴河は悲痛な声をあげた。
自由に使えるお金も貯まり、ようやく以前事故した際に破損したスライダーを着けて以前と全く同じにした復活ツーリングだというのに。ひさびさの休みに町から抜け出そうとしたら、観光客の渋滞に捕まってしまった。
古い街並みの中、県外ナンバーの車がずらりと列をなしている。車列は一向に進む気配ナシ。先程からデイトナの冷却ファンはフル稼働しっぱなしである。
もういっそのことバイクを押して路地裏から抜けるか?いやいや、炎天下にバイクを押して移動だなんてそれこそ死ねる。
永遠にこの地獄が続くかと思われた頃、ようやく市街地を抜けて渋滞とおさらば出来た。
冷却水の温度はまだ少し高いが走行風のお陰で徐々に冷えていく。
鈴河も、風で自分の体がそこそこ冷やされていくのを感じ、なんとか生きながらえることが出来た。
山山、山だ。こんな時は少しでも涼しいところに行くしかない。暑さにうんざりした鈴河は少し足を伸ばして、隣県にあるこの地方で1番大きな山に向かうことにした。
「でもあそこ、売店やらレストランがある程度には栄えてるからなぁ。渋滞に巻き込まれないように大きな道は避けていかないと。」
鈴河の読み通り、国道から山に上がる主要路の方は混み合っているらしかった。(あまりの暑さに、自然発火して炎上した車がいたらしい。)
山の裏側から登る道は土産屋などはないので思った通り、地元民くらいしか通らない。それでも鈴河には完全復活したバイクで駆ける大自然がたまらなく愛おしい。日の光を浴びてキラキラ光新緑の葉っぱや、ヘルメットの中の風切り音。それら全てがしがらみから抜け出せるバイクの自由を演出してくれる。叔父さんと雪花との仕事も楽しいから嫌ではないけど。
何度バイクに乗っても色褪せない特別感。私はいつだって自由なんだ。
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