ナイトツーリングイズグッド
終業後、いつものように掃除や片付けをしていたが浮き足立っていた。
「鈴ちゃん!来たよっ!」
雪花が呼んだ裏の車庫に行くとメーカーに点検修理を依頼していたデイトナが戻ってきていた。大きな部品に異常は見られなかったが、転倒した際に破損したパーツを取り替えてもらった。パーツ代と工賃で数万円が飛んでしまったが愛車の為なら仕方がない。
キーを回してスターターボタンを押すとキュルキュルとメカノイズと低い排気音を発してエンジンが回り出す。以前と同じように軽快に回るエンジンにほっと胸を撫でおろした。
「ちょっと出かけてくるね。」
駆け足で部屋に戻り、準備を整えてバイクに跨る。久しぶりの愛車のハンドルに手を掛けると、ドキドキと鼓動が早まった。アクセルを開けてエンジンの回転が少しずつ高くすると気持ちの良い音を立てながら走り出す。日が落ちたあとの穏やかな風が首筋を撫でるのが妙にくすぐったい。市街地を抜け、ようやく遅い速度制限がなくなると鈴河は目一杯アクセルを捻って加速した。
聞こえるのはバイクが勢いよく空気を吸い込む音と風にはためくジャケットの音。遠くに見えていた景色がどんどん前に迫る。それと同時に胸に溢れる喜びと興奮。高まる心臓のBPMとそれに応じて早くなる呼吸はまるで、初めてのあの頃のようだ。道端のコンビニに停車する時でさえも足取りが覚束ない。
「あはは。」
情けなくて、でも嬉しくて笑ってしまう。
コンビニでタバコと缶コーヒーを買った。タバコは仕事のためにやめていたが、こんな日くらい構わないだろう。夜の風に吹かれてタバコの白い煙が夜の空に溶けていく。一呼吸置いて吸い込んだ空気はあの頃と同じ匂いがした。
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