バイクの無い休日。

退院してしばらく経った。脚にあった違和感も消え、仕事も前と同じようにこなしている。スイーツやコーヒーのカフェメニューの提供も問題なくこなし、新メニューの開発にも力を入れている。ただ休日になると生活のスピードがいつもより遅く感じる。バイクのない休日。移動は徒歩か自転車で、最高速は30km/hにも満たない生活だ。歩きでは遠くに行けず、自転車ののんびりとしたスピードで車道の端を通るのは少し恐怖を感じる。車が横を通るたびに私の横に風を巻き起こしていき、ぶつからなかった事に安堵する。

「おっそい…」

幾ら漕いでも満足のいくスピードにはならない乗り物に溜息が漏れる。いつになったら修理出来るんだろう。以前から海外メーカーのバイクはコストが掛かりがちだったが、過度な円安のお陰で個人輸入でもやたらと高くついてしまう。サヨナラ、自称先進国。もう少し稼ぎに余裕があれば良いのだが、タダで住まわせてもらっている上に、原材料費高騰で店の経費が圧迫されているのに我儘なんて言っていられない。

いつもの道を緩やかな速度で。暖かい風が道端の草を揺らしている。春から夏の境目は鈴河にとっては十分暑く、強い日差しの下自転車を漕ぎ続けるのは軽い苦行だ。自転車に乗ったのは高校の時以来で想像より脚が疲れる。

「運動不足が祟ってるなぁ。」

自分の貧弱さに少し笑ってしまう。

やっとのことでコンビニにたどり着き、フランクフルトと飲み物を買う。コンビニの軒下でフランクフルトにケチャップとマスタードを山盛りかけてかぶりつく。調味料とソーセージのシンプルな組み合わせはいつ食べたって美味しい。渇いた喉にレモン風味の炭酸飲料を流し込むと、肉の脂も洗い流されて口の中がすっきりする。酸味が口の中に染み渡り、しゅわしゅわとした感触が体に溶けていった。草木を揺らす音と共に風が肌を撫ぜる。

こういうのも悪くないかな。我ながら単純だけど。

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