頬の内側を噛む

事故直後の記憶は曖昧だった。ただ傷口の洗浄をする時の物凄い痛みだけが記憶に残っている。腕と脚に傷を負い、骨折しただけで、何とか死なずに済んだみたいだ。病院のベッドでの数日は事故を起こしたことに現実味を感じられず、ふわふわとした感触だった。事故に雪花を巻き込まなかったのが唯一の救いだ。

「命に関わる怪我じゃなくてよかったよ。バイクも所々ダメージはあるけど致命傷ではなかったから大丈夫だと思う。」

「ごめんね。雪花ちゃんにも叔父さんにも迷惑かけて。早く戻って迷惑かけないようにするから。」

業務連絡じみた淡々とした会話。しかし心の中でははらわたが煮え繰り返りそうなくらい怒っていた。事故の原因になったポイ捨てとそれを避けきれなかった自分に。鈴河たちがあの日走っていた道は人の目が届きにくく、ポイ捨てする人も多いらしかった。走っている最中にも、何度か捨てられた空き缶やペットボトルを見ていたのに。無意識のうちに、車道に転がっているかもしれないというリスクと日没時の見通しの悪さを軽く見ていたのかもしれない。その結果愛車と自分の体に傷を負うという馬鹿みたいな状況になってしまった。

今すぐポイ捨てした人間をミンチにしてやりたい!何処にもやり場のない怒り。パーテーションで隔てられたベッドの上で涙が滲む。怒りからか、混乱しているだけなのか。それとも自分の不甲斐なさに対する悔しさ故か。

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