スローモーション
夕暮れに近づいた頃私たちはキャンプ場を後にした。
「めちゃくちゃのんびりしたなぁ。こんなに時間を贅沢に使ったの久し振り。」
「喜んでもらえて何よりだよ。たまには何もせずゆっくりする時間も悪くないよね。」
澄んだ心持ちで夕陽を背にして峠道を進む。しっかり休めたお陰で午前中の長時間の運転の疲れも吹き飛んでいた。曲がりくねった道をリズミカルにバイクを傾けて曲がっていく。道の印象が来た時と違っているのは逆方向に向かっているからか、夕方の薄暗さのせいか。来た時とは全く違うフィーリングでバイクを楽しめる。スムーズに、伸びやかにコーナーを曲がっていく感覚。ざわざわと揺れる木々の合間を駆け抜けていく。別れ道が時折現れるが、ナビステーに取り付けたスマホで大体の道のりは把握できる。反対車線には仕事終わりの帰宅者たちが目を瞑っていても走ることが出来ると言わんばかりの地元走りを披露していた。
「道が混んでいないから飛ばす人多いね。」
「うーん、まあこの辺りじゃローカルで車通りが少ない道だからねぇ。それに道もスピードが出しやすいからみんな結構飛ばしちゃうんだよね。交通弱者のバイクは気を付けないと。」
確かにもっともだ。調子に乗って上がりがちだった速度に気づき、右手を少し緩める。
だんだんと暗くなっていく道では、デイトナのライトは少し心許ない。ハイビームに切り替えても、やはり車と比べて照らせる範囲が限られているからだ。突然ぐにゅっと何かを踏んづけた感覚がある。最初は前、次は後ろ。
「っっ!!」
驚きの声が出るか出ないかのうちに、スローモーションの様にバイクが傾いていき、ごっっという音と共に体が地面に打ち付けられる。アスファルトに擦れる様な音と、インカムから雪花の声が聞こえた様な気がした。
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