風に吹かれて

休憩を終えて出発する。入ってきた時と反対側の道に入り、山の中を進む。急な斜面に沿って長く張り巡らされた緩やかなカーブを描く道。いくつもの山を縫う様に駆け抜ける。春の気温はバイクに丁度良く、気持ちのいい風が通り抜けていった。

「鈴ちゃん、後10数分でつくよ!」

「了解!意外と近いんだね?」

「うん。このコースだったらバイクも楽しめるし、ご飯食べてもゆっくり家に帰られるから。」


そこから数分ほど走ると急に視界が開け、眼下に海を臨む。陽光を反射して海がきらきらと輝いている。いい景色だ。

「いい景色でしょ?まだ1,2回しか来たことないんだけど、鈴ちゃんにも見てもらいたかったんだよね。」

「うん。ありがとう。」

雪花の思いやりを噛み締めながら海沿いを疾走する。

「また来よう、一緒に。」


「予約していた杉本です。デイキャンプ2名でお願いします。」

たどり着いたコテージに隣接するキャンプ場で雪花は既に準備をしてくれていた様だった。道具のレンタルと売店で食材の購入を済ませ、芝の上で素早く準備をする。

「買った野菜と肉。あと牧場で買ったベーコンとカマンベールチーズ。今日はこれでいくよ!」

いつの間にか準備してくれていた食材を焼いていく。その間雪花はチーズにベーコンを巻き付けてアルミホイルで包んでいた。

「こうして包み焼きにすると美味しいんだよね〜。ビールが無いのが残念だけど。」

数分後その言葉の意味を実感する。肉汁の滴るベーコンに絡みつくチーズ。とろっとした口の中でとろける食感がたまらない。

「泊まりだったらこのままビール呑めたのになぁ…」

「あったらよかったけど帰れなくなっちゃうからね。今回はジンジャーエールで。」

生姜の辛味がピリっとするジンジャーエールをぐいっと飲む。生姜と炭酸が喉を通り抜け口の中の脂分を取り去ってすっきりさせてくれた。悪くないんじゃあないだろうか。

「自家製ジンジャーエールってあまり飲んだことなかったけど結構いけるね。ウチでもオリジナルドリンクみたいなの出せないかな?」

「今日くらい仕事から離れようよ。折角ツーリングのために調べてきたのに。」

「あはは。ごめん。」

「帰りまで時間があるからのんびり過ごそ。景色もいいから散歩してきてもいいし。」

そう言いつつもどこか眠たそうな彼女を見ているうちに自分も眠りに落ちてしまっていた。


30分くらい寝てしまっていたらしい。雪花はまだすぅすぅと寝息をたてているのでその間に片付けを済ませてしまおう。指定のゴミ捨て場に分別してゴミや消し炭を処分しておく。

「今何時…?」

「15時半。眠れた?」

「うん。ちょっと散歩でもしようかな。海も見たいし。よかったら一緒に行かない?」

雪花と一緒に敷地の端にある展望台まで歩いた。階段を登っていると上で遊んでいた子供たちが猛スピードで駆け降りていった。

「元気だなぁ。私も子供の時は活発だったっけ。」

「鈴ちゃんまだそこまで年取ってないでしょ。さぁ登るよ。」

雪花が勢いよく階段を登っていくので後に続いた。登りきると海と周りの山が広く見渡せる様になる。遠くから聞こえる波のさざめきと海風が気持ちいい。2人は言葉を交わすこともなく、ただ風を受けて海を眺めていた。

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