ツーリングの前に

夜が明け、鳥たちの声が聞こえ始めたころ鈴河は目を覚ました。窓の外を見ると、白み始めた空に鳥が群れになって飛んでいる。冷蔵庫から牛乳を取り出して小鍋に注ぎ、火にかける。茶葉をスプーンで掬い入れて暫くすると、牛乳が少しずつ染まり始めた。ほのかに漂う紅茶の香りが鼻にすうっと入ってくる。味を見ながらグラニュー糖を少しずつ足していくと、丁度いい塩梅になった。階段の方からとたとたと足音が聞こえたかと思うと、雪花が起きてきたようだ。

「おはやう……」

「おはよ。眠そうだね。」

「ぅうん。昨日の夜ルート調べてたらちょっと遅くなっちゃって。顔洗ってくる…」

雪花が洗面所に行っている間に、トースターでパンを焼き、サンドイッチの具にするものを冷蔵庫から引っ張り出す。メインはスモークサーモンにクリームチーズ。野菜にはトマトとレタス、紫玉葱を使って鮮やかにしよう。

「ごめん、お待たせ。」

雪花が幾分すっきりした顔をして戻ってきた。

「そこのミルクティー漉しちゃってもいい?」

「うん。サーバーが温めてあるからそこに入れておいて。私はサンドイッチ作るね。」

チーン!と音を立てて勢いよくパンが飛び出す。焼けたパンにバターを塗り、その上にレタス、玉葱、トマトの順で載せ、その後にクリームチーズとスモークサーモンを。アクセントで辛子マヨネーズも入れてみよう。これでもかと具材をぎっしりと詰め、パンで挟んでから包丁で両断する。いつもより少なめの朝食だが、食べ過ぎるとまた眠くなりそうだから丁度いいかもしれない。

「できたよ。温かいうちに食べよう。」

このカップにミルクティーを注ぎ早速いただくことにした。サンドイッチを頬張るとシャキシャキとした小気味良い音を立てる野菜とまろやかなクリームチーズ、香ばしいサーモンがよく合う。野菜をたくさん入れたおかげで味もしつこくなく、スッキリしている。ただしその分分厚くて食べ難いが。食べている間に何度かミルクティーを挟むと、パンで水分を持っていかれた口の中を、ミルクティーの優しい甘さが潤してくれる。適当に作った割には上出来ではないだろうか。向かいの雪花の顔を見る限り失敗ではなさそうだ。食べ進めるとアクセントとして入れておいた辛子マヨネーズに行き当たる。マヨネーズとサーモンの与えてくれる満足感。これなら昼まで充分持つだろう。

2人で洗い物を済ませ、お互い着替えに部屋へと戻る。歯を磨いてから化粧で顔を整え、髪を纏める。プロテクターインナーを着てから、ジャケットに袖を通す。充電しておいたインカムをヘルメット側の端子にセットして準備は完了だ。ヘルメットと僅かばかりの荷物が入ったシートバッグを手に車庫へと向かう。

「ごめん、鈴ちゃん!エンジンかけといて!」

「了解!」

鍵置き場からデイトナ675RとS1000RRの鍵を取る。エンジンをかけると2つのバイクのエンジン音が鳴り響き、何も聴こえないほどうるさい。そんな爆音に当てられたせいか、鈴河の心臓はどきどきと脈打っていた。

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