お別れの前に。
「ねぇ、そろそろ下道に降りてみようよ。」
日が天辺まで登った頃結が言った。
「高速に乗ったまま似たような道ばかり走ってきたし、気分転換に走ってみない?ついでにここら辺の名物でも食べよっ!」
おそらくメインは後者だが少し唆られる。
仕事を通して料理も嗜むようになった鈴河は、前と比べるとちゃんと食べるものを選ぶようになっていた。
「いいね。丁度いい時間だし、高速を降りて美味しいもの探そうか。」
比較的拓かれた所にある出口から高速道路を脱出し、近くの食事処を調べるためにコンビニに入る。飲み物を買って早速調べ始めるとカツ丼の店が目に止まった。そういえばカツ丼
なんて最近全然食べてないな。ご当地ものでもないし和風かどうかギリギリ怪しいにしても。一応結に訊いてみるか。
「こことかどう?」
「それ私も言おうか迷ってたやつ!なんだよー、鈴河のくせに生意気だぞ!」
お前はどこのジャ○アンだ。
「じゃあここでいい?ここから15分くらいでいけるし。」
「おっけー。じゃあいくか!」
荷物になるといけないので飲み物を一気に飲み干して出発した。
そのカツ丼屋はメインストリートから少し離れた建物群の中にあり、バイクを駐車場に止めて歩いて探すハメになった。でも店を探す最中に雰囲気のある路地裏を駆け抜ける猫や、空腹で死にそうな顔をした結を見られたので良しとしよう。
へとへとになった2人は店員が来た瞬間
「特選ヒレカツ定食2人前お願いしますっ!!!」
と勢いよく注文し、店員の顔を引き攣らせた。
運ばれてきたカツを出汁の利いたタレにつけてご飯と一緒に食べる。サクサクの衣とタレが味覚を開かせ、口の中に広がる肉の脂と米のマリアージュ…美味い。
訳の分からない食レポを脳内でしてしまうほど、疲れた体に嬉しい食事だった。店内の程よい暗さも体をリラックスさせてくれる。このまま寝てしまいたい。そう思ってしまうほどの心地良い疲労感を覚える。
しかし、まだまだ距離を稼がなければならないと思い出させたギリギリ残っていた理性のおかげで、旅路に着くことができた。
しばらくバイパスを走ってまた高速道路に入る。
「もうちょっとゆっくりしていたかったなぁ。」
残念そうにため息をつく結と同感だがまだ進まなければならない。予約しているホテルまでは、あと5時間くらいかかる。
「たしかに。私もあのまま寝ちゃいそうだったよ。今日はホテルに着いたらゆっくりしよう。」
心地良い満腹感に負けないように気合を入れ直してハンドルを握る。
夕方、まだ明るいうちに2人はホテルに着いた。
「疲れた〜。少しだけ寝るわ〜。」
畳に寝転がってすぐ結は眠ってしまった。鈴河も窓際の椅子に座って景色を見ているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
目を覚ますと結が1人でテレビを見ている。
「お、やっと起きた。晩御飯いこうよ。」
晩御飯はホテルのレストランのビュッフェで思い思いのものを食べた。昼に食べたカツ丼が思いの外腹持ちが良すぎたので野菜やフルーツなどの軽めのものを食べる。ホテル以外だとあまり見ることが無いので小皿にライチを山盛りにした。一方の結はビーフシチューやオムレツなどコッテリしたものも取って、ガッツリ食べる気満々だ。彼女の胃袋はいったいどれだけ入るのだろう。
食事と風呂を済ませ窓際に置いてある椅子に座って夜景を眺めていると、結が向かい側に座る。
「明日は別々の方向だね。」
「うん。ここまでついてきてくれてありがとう。」
「どういたしまして。まぁ、同じ日本だし、時間かければ来れないわけじゃないけどね。」
とニカッと笑う。
「まぁ元気で楽しくやれることを祈ってるよ。そのうち遊びに行くから。」
結とは学生の時から長い付き合いで、お互い思っていることは何となくわかる。それでも再び親友と離れるのは心のどこかに引っかかって、スッキリしない気分だ。
「そんな悲しそうな顔してないでこれでも飲んで語り明かそう。」
結が酒を机の上にどさっと置いた。
「そんなにどこから持ってきたの?」
「鈴河がいびきかいて寝てるうちに買ってきといたんだよ。今日は呑み日和だしね。」
笑って1つこちらに手渡してくれた。
「「乾杯。」」
こんな時に酒を飲んでも悲しさや寂しさが増えるだけで、この心に引っかかったものの解決にはならないと思っていた。でも、昔話をしながら酔っ払って笑う結を見て感慨にふけると、
「こういうのも悪くないな。」
と思う。
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