鈴雪の休日
休日。鈴河は雪花と一緒に車庫に置いてあるもう一台のバイクを弄っていた。
「ありがとう、鈴ちゃん。休みの日に作業手伝ってくれて。」
「いやいや。バイク弄るの好きだし。これ雪花ちゃんのバイクなの?」
「ううん。お母さんが乗ってたバイク。事故でいろんな所が壊れたりしてるけど、少しずつパーツ集めて直してるんだ。」
車にぶつかられたというそのバイクは、至る所に擦過傷があり、元々着けていたエンジンスライダーも割れていた。このお陰でバイク自体は致命的なダメージを免れた様だった。だが依然としてシートカウルやタンクなどの張り出している部分はダメージが酷い。
「お父さん、自分のバイクはとっくに手放したのにこれはずっとガレージに置いたままだったんだよね。」
奥さんを思い出させるものを少しでも取っておきたいのかもしれない。事故を思い出させるような物でも。
「お父さんは置いておくだけで触らないから、私が直してあげたいんだ。お母さんのバイクがこのままじゃ可哀想だから。」
「私も頑張るから。絶対直そう。」
重要なパーツにダメージはさほどないようだが、隠れた部分にダメージがあるかも知れないので、一度カウルなどの外装パーツを外す。スライダーが曲がっているようなので取り外す。エンジンはかかると言っていたので心配はなさそうだがその分スライダーにダメージ衝撃がいっていたようだ。
「どう?大丈夫かな…」
心配そうに雪花が覗き込む。
「思ってたより大丈夫そうだよ。ただフロントの足回りと外装パーツは変えなきゃいけないかも。動いたって安全に走れなきゃ意味無いし。外装は時間と手間をかければ直せない事もないけど…」
「やっぱり足回りは替えなきゃいけないよね。オークションとかフリマアプリで探してみたけど高いんだよなぁ。」
雪花がため息を漏らす。
「そこに沢山置いてあるパーツの中にあるのは?サイズが合うか分からないけど。」
「ずっと前から置いてあるお父さんのなんだよね。特に話したことないから何のためのパーツなのか分からないけど。所々錆があるしどうでもいいのかな。」
「それ、僕が直そうと思って買ってたんだよ。」
叔父が降りてきて言った。
「妻のバイクを直したかったんだけど、バイクに触れるたびに勇気が出なくてね。そのバイクに合うパーツだからよかったら使って。」
そう言うとまた居住スペースに戻っていった。
「お父さん、お母さんのバイク直す気だったんだ…」
雪花は驚いた様な表情を浮かべていた。
「尚更頑張って直さなきゃね。」
鈴河は気合を入れ直し、工具を手に取った。
しばらくの間、鈴河はバイクの分解と使えるパーツの整備、雪花は父が買っていたリペア用パーツの清掃と整備に注力した。休日だけでは時間が足りないので仕事を終えた後も時間を作って用意をする。整備に関しては鈴河の手が早く、バイクは着実に組み上がっていった。
「鈴ちゃん凄いね。パーツ整備してすぐ組み上げられるなんて。」
「雪花ちゃんがサービスマニュアルとか工具とかちゃんと用意しておいてくれたお陰。パーツも雪花ちゃんがちゃんと清掃整備してくれてるし。お陰で楽に組めたよ。」
大嘘だ。実は寝る前や就業時間中に隙間を縫ってサービスマニュアルを熟読していた。
「後はカウルをどうにかすれば、一応全部出来上がるね。」
「鈴ちゃん、元のカウルって何とかならないかな?」
外して車庫の隅に置いてあるカウルの方を見る。擦り傷だけのものは補修すれば利用可能だが、割れているものを直すとなるとかなり時間がかかるだろう。自分の見解を伝えた上で鈴河は質問した。
「カウルは結構するけど、オークションとかで割れがひどい部分だけ買えばそこまで負担にならないと思うよ。それとも元のカウルを使いたい理由でもあるの?」
「パーツは結構替えちゃったけど、お母さんのバイクだって一目見て分かる様な部分は残したくて。だめかな?」
「気持ちは分からなくもないけど…
雪花ちゃんの頑張り次第かな。」
雪花の真っ直ぐにこちらを見てくる目を前に、彼女の気持ちを否定することは出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます