番外編

買ったばかりのバイクに乗り、古い街並みの中を走り抜ける。大排気量のお陰で低速走行をすると少しずつ炙られていく様な感覚に陥るが、今はそれですらワクワクする。太陽光を反射して煌めく青と白のボディに雪花はうっとりとした。父にお金を借りて購入したので最近は家の手伝いで毎日が終わっていたが、ようやく休みをもらえた。既に何度か乗ったが、今でも見ているだけで幸せになれる。

郊外に出て信号が少なくなると、少し暑さが和らぐ。この辺りは景色も良く、信号の少ないワインディングが多いのでバイク乗りには人気の場所だ。木々の間を縫うように敷かれた道を爆音と共に駆け抜ける。

「いつか鈴ちゃんとも走りたいな。」

以前遊びに行った時に後ろに乗せてくれた従姉妹は、今どこを走っているのだろうか。ひとり旅以外のバイクってどんな感じなんだろう。


ひとしきり走って道の駅で休息をとる。ヘルメットを取ると爽やかな風が頬と髪を撫で、一瞬の涼しさを感じる。一度パーカーを脱いでツナギのジッパーを下げて蒸れを逃がすといくらかマシになった。今のバイクを買ってから見知らぬ男性に話しかけられるとこが少なくなった。GSX-R250に乗っていた時は変なオジサンが排気量マウントを取ろうと近寄ってくることも多かったのだが。

好きなバイクを買っただけだけど、思わぬ副産物があり、道の駅でもくつろいで休憩できる。(髪に赤いメッシュを入れた事も関係しているかも知れないが。)


よく見かけるマスツーリングの観光客はみんな楽しそうだ。自分もいつかは。

ヘルメットを被り直し、S1000RRが咆哮を挙げる。まだ走り始めたばかりだけど、このバイクとのこれからに胸を高鳴らせて雪花は走り出した。

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