第6話 二人で勝ち取ったトロフィー
それから、天音と茜はダンスの大会に向けて練習に励んだのであった。
茜は天音の振り付けに合わせながら、自分らしいダンスの振り付けを考えて練習に励んだ。
学校では周りの目もあるため、お互い自主練をし、朝練や休日の時に巫神社で一緒に練習をしていた。
「茜ちゃん、短時間で私のダンスに合わせて、しかも茜ちゃんらしい振り付けを考えれるなんて……。しかもこの完成度の高さ。凄すぎる! もしかして茜ちゃん、ダンスの大会とかで入賞したことあるでしょ?」
茜のハイレベルなダンスのクオリティーに、天音は驚いていた。
「あたし、亡くなった日、初めて大会に出る事になっていたんだ。でも叶わなくて……。プロダンサーを夢見てたんだよねー」
「そうだったんだ。大会では思いっきり踊ろうね!」
「うん! ありがとう、天音ちゃん! ほんと天音ちゃんと出会えて良かったー!」
二人は手を取り合うようにして、楽しそうに飛び跳ねていた。
そして、大会当日。
控室に邪馬斗が顔を見せた。
「天音、茜ちゃん頑張れよ」
「わざわざ控室まで来てくれたの? ありがとう!」
天音がお礼を言うと、邪馬斗が天音のほっぺたをつねる。
「何言ってんだよ! お前、緊張しすぎ! 巫山のおばあちゃんがお昼の弁当忘れて行ったから届けて欲しいって頼まれてきたんだよ! ほら! 弁当!」
「あ! 忘れてた! ごめん!」
天音は邪馬斗から弁当を受け取った。
「ほんと仲が良いんだね。お二人さん付き合ったら?」
茜が言うと、天音と邪馬斗が声を大きくして、
「絶対にあり得ない!」
と叫ぶ。
周りにいた人達が驚くのに気づいて、天音と邪馬斗は気まずくなり、顔を引きつらせながら頭を下げて謝罪した。
「と、とにかく頑張れよ! じゃーなー!」
そう言って、邪馬斗は客席へと走って行った。
「さて、お弁当食べて時間まで待とう」
天音は弁当を食べながら、時間まで控室で待機した。
その間も、茜は振り付けの復習を必死にしていた。
「そろそろ時間……。茜ちゃん、舞台袖に行こう」
「うん!」
天音と茜は、舞台袖に行って出番を待つ。
「天音ちゃん、緊張してきたー」
「茜ちゃん、大丈夫だよ! 思いっきり踊ろう! 楽しむことが一番だよ!」
「そ、そうだね!」
いよいよ、天音と茜の出番となる。
ステージの中央まで行き、二人は顔を見合わせて頷く。
まもなく幕が上がり、ポップスの音楽が流れ、二人のダンスが始まった。
観客からは天音だけしか見えていない。
しかし、不思議なことに茜の存在も感じられるようになっていた。
観客の間にどよめきが走る。
一人のはずなのに、コンビのダンスのように見えたのだ。
二人は、満面の笑顔で決めのポーズをとる。
観客席から、大きな拍手と歓声が響いた。
ステージ袖にはけると、茜が天音の周りをぐるぐると飛び回る。
「めっちゃ、気持ち良かったー! 楽しかったー!」
「私も楽しかったよ! ありがとう、茜ちゃん!」
「こちらこそ! 天音ちゃん!」
二人はステージが終わっても、気持ちが高ぶったままだった。
そして、結果発表。
天音は手を合わせながら、発表の時を観客席で待っていた。
「あ~、ドキドキする~」
「あたしもー!」
「では、発表します。個人の部優勝は…………。巫高校二年、巫山天音さん!」
その瞬間、天音と茜は飛び跳ねて席を立ち、喜びを爆発させた。
「やったー!!!」
こうして、大会は優勝という輝かしい結果に終わった。
会場の玄関では、邪馬斗が微笑みを浮かべながら待っていた。
「二人とも、優勝おめでとう」
「ありがとう!」
「ありがとう、邪馬斗くん」
「そういや、茜ちゃん。踊っていた時、凄い霊気立ってたよ。天音が後継者の力も発揮して、二人の霊力の波長が合ったんだな。会場に居たみんなが、茜ちゃんの存在を感じていたよ。ダンスが終わった後、茜ちゃんの気を感じられなくなってしまったけど……」
「それでも、あたしのダンスをみんなに見てもらえたこと、何より、叶わなかったステージに立てて踊れたことに、ものすごく幸せを感じた……。もう、思い残すことないよ!」
「良かったね、茜ちゃん」
「ありがとう、天音ちゃん。さ、あたしをあの世に送って」
「うん。じゃー、人気のない所に……」
会場に近くで、人のいないところを探す。
「あ、天音。預かってた鈴だよ」
邪馬斗は、カバンから天音の鈴を取り出した。
「サンキュー。じゃー、始めようか」
邪馬斗の笛に合わせて、天音は鈴を鳴らしながら魂送りの舞を舞った。
すると、茜が光に包まれていく。
『彷徨える御霊よ、安らかに眠りたまえ。幽世へ行き来世の幸を祈ろうぞ』
魂送りが終わる間際、茜が二人に話しかける。
「ありがとうね! マジ二人ともお幸せに! 邪馬斗君、イケメンだから他の女に取られないうちに旦那さんにしなよ、天音ちゃん!」
「だから、そんなんじゃないってば!」
天音が慌てて言い返すも、既に茜の姿はない。
茜の魂の光は、笑い声を響かせながら天へと登っていったのであった。
「最後の最後まで、だいぶイジってきたな、茜ちゃんは……」
邪馬斗は呆れながら言った。
「まー、年頃だったし、ましてや私達高校生の男女だから、周りにそう言われてもおかしくないよ」
天音も呆れながら言った。
「さて、帰ろうか」
「うん! あ、邪馬斗。優勝したから何か奢ってよ! 焼き肉! 焼き肉!」
「もう少し、女子高校生らしい物、ねだれねーのかよ!」
「えー、だっておなか空いたんだもん。ガッツリしたもの食べたい!」
「はいはい……」
邪馬斗は、天音に焼き肉を奢る羽目になってしまったのであった。
天音と茜が二人で取った優勝トロフィー。
日差しを浴びてキラキラと輝いている。
それはまるで茜の笑顔のようだった。
この先も忘れることはない大会だと、天音は心の中で思っていた。
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