第13話 来客
藤井君が家に帰って1ヶ月が過ぎた。
受験校の選定と、出願は本人に任せることにした。
きっと彼ならば遣り遂げると信じた。
心の中では、もう結婚を認めるつもりだった。
「ごめんください。」
はて、こんな早朝に誰だ?
今日の診察は休みだが。
「藤井と申します。息子が大変に大変にお世話になりました。本当に感謝しております。」
「あっ藤井君のお母様ですか?山本と申します。大変長い間、息子さんをお引き留めしました事お詫び申し上げます。今主人が参りますので。」
これは参った。
藤井君の親御さんがやって来たのだ。
約1年間、我が家に監禁したつもりは無いが、親御さんからしたら、非常識に写っているだろう。
「山本と申します。この度は多大なるご心配をお掛けして申し訳ありません。」
「是非お上がりください。」
同年代位だろうか、凄く華奢な夫人だった。
藤井君の立派な体格とは想像出来ない位の方だった。
「本来なら主人も来てご挨拶に伺うべきですが、今日は私1人で参りました。この度は息子にして下さった事、心から感謝しております。」
藤井君は、大学進学が叶わなくなってから、あまり笑わなくなっていたそうだ。
家に引き篭もりがちになっていた頃に、たまたまコンビニで娘の恵に再会し、それから髪型を整え服装を気遣い、アルバイトを始めたそうだ。
恵との出会いが彼に変化をもたらし、大学受験まで考える様になった事に感謝していると、あらゆる話を聞く事が出来た。
「今迄お世話になった費用は、後日お返し出来る様に手配致します。本当に申し訳ございませんがお待ちいただけますでしょうか?」
「それは返して頂かなくて結構ですよ。私は藤井君から沢山の夢を見させて頂きましたから。」
「申し訳ございません…」
「あちらの小部屋にご案内します。藤井君の頑張りをご覧頂きたいのです。」
診察室の奥にある小部屋は、あらゆる張り紙で埋め尽くされ、ある意味異様な空気感を漂わせていた。
何気なく天井を見上げると、張り紙に気付いた。
【医学部合格!必ず合格を持って帰ってきます!藤井】
俺は天井を見上げて涙が止まらなかった。
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