第12話 退院

息子に全て話すと、何故か泣けて来た。

患者にならないと、この不安はわからない。


「俺が来週から診察も、コイツの受験サポートもやってやる。俺は1ヶ月位現場を離れると連絡しておくからな。」

「そうか、すまんな。それと受験も。」

「俺の秘技を全部アイツへ伝授してやるから安心しろよ。」

「頼むな。」


俺は翌日から入院した。

昔俺のペンダントを馬鹿にしていた奴らに電話すると、入院の日程が組まれ、あっという間に手術は無事終了した。

今日も病室に妻が来てくれた。


「お父さん、良かった。無事で良かったですね。」

「すまなかったな。あいつら元気にしているか?」

「ええ、元気にしてますよ。昨日も診察が終わったら、遅くまで大きな声張り上げて、英語の特訓…。ヘヴィメタル式とか言ってたわ。」

妻が困った様な顔で笑う。

「そうか、楽しそうだな。」


何か目標がある時ほど楽しい事はない。

きっと息子も楽しんでくれているだろうと安心した。

ありがとう、息子。


入院から1ヶ月が過ぎた頃、やっと自宅へ戻る事が出来た。


「パパ、前より元気そう!」

「そう?」

「綺麗な看護師さん達が優しくしてくれるもんね!」


からかう娘の言葉にVサインで応え、優しさを感じながら、診療所の小部屋へ向かった。


「ただいま!」

「退院おめでとうございます!」   

「親父おめでとう!」

「すまんかったな。」

「お兄さんに勉強を見ていただきました。凄く勉強になっています。」

「ヘヴィメタル式の事か?」


それを聞いた2人は、お互いをチラリと見て吹き出し、大笑いした。

本当の兄弟みたいに見えた。


「無理すんなよ、親父。」

「ああ。俺は受験の事が気になってな。藤井君順調か?」

「はい!お兄さんが1ヶ月仕込んで下さったお蔭で苦手を克服できました。外来の患者さんもお兄さんの診察が楽しそうでしたよ。」

「それは良かった。」


狭い小部屋に貼ってある苦手分野の課題の数々。

死に物狂いで格闘した跡が見て取れた。


「受験まであと2ヶ月になったな。現役医師2人の家庭教師は役に立てたかな。」

「どんな予備校よりも、きっと素晴らしい空間だと思います。」

「夢を掴み取れよ。」

「わかりました。僕はヘヴィメタル式もありますし、無敵です。一度家に帰って最後の追い込みをしようと思いますがよろしいですか?」

「わかった。ここまで来たら好きにしていい。ただし、不安な事が有ればいつでも戻って来なさい。」

「わかりました。」


あらかじめ、出願費用は新札で準備しておいた。交通費も食事もこれで賄える位に用意した。

俺はもう費用は返さなくても良いと思った。

それだけ藤井君に夢を見せて貰えたからだ。

開業してから、ずっとこの診療所で過ごして来て、こんなに高揚した気持ちになったのは初めてだった。


夢を掴んで戻って来て欲しいが、正直もうどっちでも良かった。

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