第9話 階段
そんな日々がスタートして半年が経った。
診療所の空き部屋に彼がいる生活が当たり前になっていた。
もう彼は家族と暮らす家を完全に出て、ここに住み込んでいる。
最初は思いつきであったこのプロジェクトは思いもよらぬ展開を見せた。
「先生、ここがわからないのです。」
「ちょっと待ってくれよ、あの英語の課題を先に済ませておいてくれ。」
診察に来た古くからの患者を待たせてはいけないが、受験勉強の事を応援したい気持ちが消えなくなった。
そこで俺は午前診だけにする事にした。
その為、午前診は14時まで休みなく詰め込む形となった。
午後からは完全に受験勉強のサポートをする事にした。
「今まで勉強して来た事の実力を試したいのです。」
「ああ、確かに。それは良い考えだな。」
「今から予備校の模試を申し込みます。」
「費用は持つから、受けなさい。」
「ありがとうございます。」
その週末、大手予備校の判定テストに申し込み、受験して来た。
帰った時の表情から、出来高を想像する事が出来なかった。
彼はまた小部屋で休む間もなく勉強を始めた。
「パパ、もう可哀想なんだけど。」
「何が?」
「だって、こんなのパワハラみたいなんだもん。」
「本人がやると言ってるんだ。別に強制した積もりも無いけどな。」
娘の彼氏にここまでするのは、自分でも変だと思う。
しかし、俺の病魔は待ってくれなかった。
俺のガンはステージを上げてしまっていたのだった。
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