第8話 眠気
娘の彼氏が帰った後、3階にある息子の部屋に残っていた医学部受験に関する資料を読み漁った。
全てのテキスト、資料やテストをクリニックの空き部屋に移した。
1人で何度も往復し、本棚に全部並べてやった。
1年間の受験勉強スケジュールを立て、壁に貼った。
鉛筆もノートも息子が使わなかった物を全部用意した。
気づけば朝になっていた。
「おはようございます!」
インターフォンのモニターに映っていたのは、娘の彼氏だった。
「待ちきれなくて、朝早い時間にも関わらず来てしまいました。」
「待っていたよ。」
「今日からお世話になります。」
「俺はこれから午前診があるが、その間にやる課題は全て整えてある。わからない事が有れば、診察の合間に声を掛けてくれ。」
「はい、わかりました。」
僕はクリニックの小部屋へ入った。
目の前に飛び込んで来たのは、整然と並んだテキストと、模試のファイル、そして壁に貼られた年間スケジュールだった。
たった半日でこれを自分の為に準備してくれたのか?
徹夜の後、診察するのか?
有言実行出来る人が医師になれるのか?
今日の課題と書かれている箱の中から、テキストを取り出し、読み耽った。
幸い、一度読むと頭に入るタイプだったので、順調に読み終えた。
午前診を終えた先生が入って来た。
「腹が減ったか?」
「はい!」
小部屋で惣菜パンを食べながら、今日学んだ事の確認と課題について話した。
診察するかの様に、何やらカルテに書き出し、明日の戦略を立てている様だった。
「君はこの課題を全部読み、理解出来ているのは素晴らしいな。」
「そうですか。ありがとうございます。昨日帰宅してから、高校3年分の教科書全てに目を通してきました。」
「そうか。なるほどな。」
俺は正直焦った。
俺の思いつきの様なこの無謀な挑戦を、俺以上にまともに受け止めて、準備してくるとは。
この男、なかなかやるなと思ってしまった。
「それじゃあ俺は休憩するが、この部屋は自由に使ってくれよ。」
「ありがとうございます。お疲れ様です。」
久々の徹夜明けの診察で、研修医時代を思い出してニヤリとした。
どうしようも無い眠気に抗える気力が残っていない。
午後診までの間、仮眠する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます