第7話 無茶

かなりの沈黙の後、話し出した。

「僕は、医学部を挑戦してみたかったです。」

「ほう。」

「高校ではそれなりに成績が取れていましたので、挑戦してみたかったです。」


自分と同じ夢を持っていたのに、経済的理由で夢を諦めた彼の気持ちを考えると辛かった。

妻に視線をやると、静かに頷くだけだった。

高校時代に感じた葛藤や苦しみが、この現代にもあるのだと愕然とした。


「もう意地悪な事聞かないであげましょう。」

「すまん、すまん。」

重い空気を遮る様に、妻が助け舟を出してくれた。


しかし俺は、もう1つ聞いたみたい事があった。


「娘が欲しいなら、医者にならないか?」

「えっ?」

「パパ、何言ってるの?」

「そうよ、唐突に。」


高校トップの成績と聞いて、自分自身と重なった。

もし経済的に支援してやれば受かるのではないか。

受けさせてやりたいという気持ちが突然湧いてきた。


数ヶ月前に受けた人間ドックで、初期のガンが見つかっていた俺は、焦っていたのかも知れない。


「娘が欲しいなら、医者になれ。受験に関わる費用は支援する。君にとっていい条件ではないか?」

「そんな事お願いしてもよろしいのでしょうか?」

「今が1月だから、1年間支援する。」

「よろしくお願いします。」

「えっ!パパ、勝手に決めないでよ。」

「そうよ、お父さん。」

「クリニックの部屋が空いてるから、明日から自由に使いなさい。勉強に必要な物は全て準備する。」


娘の彼氏に何故ここまで言ってしまったのか、自分でも不思議な感覚だが、口から出てしまった。

もしかしたら、あの時の俺の気持ちがコイツにも有るのか確かめたかったのかも知れない。

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