Song.67 秘密の暴露
「秘密にしていましたが、こういうことなのです!」
先生が自信満々に見せてくれた内容は、『二次審査通過のお知らせ』。それに続く名前は『√2』。
「あいつらっ――!」
春に勝負を挑んできた一年のバンドだった。
バンフェスに参加していたことも知らなかったし、軽音楽部に入っていることもすっかり頭から抜けていた。というか、存在自体を忘れていた。
春の出来事を思い出しつつ、みんなと顔を見合わせる。信じられないと、誰も言葉を発することはなかった。そんな中。
「じゃじゃーん! 呼ばれて飛び出て登場! 先輩、勝負です!」
物理室の扉が大きな音を立てて開かれる。そしてやってきたのは一年バンド√2
のフルメンバー。先陣を切っているのは最もうるさい小早川だ。それに続いて、ひょっこりと藤堂、そして久瀬の双子が顔を出す。
「よう! 久しぶりじゃん! 元気にしてたか?」
「もちろんっス! さて、大輝先輩、勝負っ!」
「おう、受けて立つ!」
Walkerと√2のにぎやか隊長である大輝、イリヤが勝手に盛り上がっている。そんな馬鹿は放置して、藤堂が静かに俺たちのところにやってくる。
「黙っていてすみませんでした」
「いや、別に謝ることでもないだろ。びっくりしたけど」
「あはは、すみません。先生がどうですかというもので出してみたらこのような形に」
ぺこぺこと頭を下げる藤堂は別に悪くない。だた俺らはまさかの展開に驚いているだけ。大輝は小早川となんか盛り上がっているけど。
「同じ学校からいくつもバンドが出られるんだな」
「先生が問い合わせたら、問題ないと運営より回答があったみたいです」
知らなかった。てか、それなら別に春にバトルなんてやんなくてもよかったのでは、という考えは閉まっておこう。
「キョウちゃんっ、助けてぇ」
藤堂と話していたら、絞るような声で名前を呼ばれて振り向くと、眉毛をハの字にしてきょどっている瑞樹がいた。
「ねぇ、先輩。先輩ってギターをどうやって選んでるんです? 音? 形? 値段? それとも別のなにか? ねえねえねえねえ」
「教えてくれたっていいじゃないですか、ねえ先輩」
「せぇーんぱい」
久瀬の双子に挟まれて、絡まれている。先輩に対する態度からは遠い行動。それに対して弱気な瑞樹はきょどり続ける。
「あ、瑞樹が絡まれてらあ」
「こら、悠希! って、祥吾も! 変に絡まないで!」
瑞樹から双子を引き離そうと藤堂は三人の元へ向かって行った。藤堂が間に入ることでまたごたごたしている様をじっと見ていると、今度は悠真が静かにやって来る。
「三次は彼らと違う場所になったよ。東京で同じ日だし、先生は彼らの引率をするって。僕たちは二回目だから、自分たちでどうにかしてってことらしい」
「なーる」
悠真が日程をすらすら告げる。来月後半に東京のライブハウスでやるってことと、それまでのスケジュールを。ちょうど大学入試も始まる頃らしく、ひやひやしていたようだがギリギリ日程はかぶらなかったことに安心していた。
「ああ、俺、前日が試験だから東京に前乗りしてると思う」
鋼太郎も話に入ってきて言う。
「まじか。保護者が一人いなくなるじゃん。あ、でも悠真がいるから何とかしてくれるか」
前日が入試とかなかなかタイトスケジュールじゃねぇか。でも、鋼太郎は全然普通の顔をしている。試験の方に自信があるのか、はたまたライブの方に自信があるのか読めない。
「僕は君の保護者じゃない」
「いや、保護者だろ。ほら、大輝の保護者でもあるし」
ムッとして言う悠真だったが、大輝の方を見て頭を抱え始めた。つられて俺も大輝を見てみると、小早川と一緒に騒ぐテンションが続いたことで、どういうわけか小早川に肩車されて物理室内を走っていたのだ。さすがにそれは予想外の展開。どこのウイニングランだ。
「馬鹿と馬鹿が重なると大変なことになる」
「それに君も当てはまっているけどね」
言い返せなかった。だって、俺馬鹿だし。この前のテストだって何とか赤点回避できたギリギリのラインで――
「やべ」
「今度は何?」
「期末試験、何もやってねぇ……」
二学期はもうすぐ終わる。それに向けて期末試験が待っていた。すっかり忘れていた。赤点とると、先生が直々に補講にしてくるから練習も何もできなくなる。それは避けなくてはならない。
「馬鹿じゃないの。赤点とったら許さないから」
大輝に呆れ、俺にも呆れて怒りを含んだ悠真の目が、背筋を凍らせた。
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