Track3 ネクストステージ

Song.66 怒涛の日々に


 上々の出来で締めくくった地域交流会を終えたら、すぐに文化祭がくる。去年みたいなドタバタはなくて、いたって平和に軽音楽部としてのライブは成功。その時の様子を録画してバンドフェスティバルに応募した。


 バンドフェスティバルは高校軽音楽部限定の大会。野球で言うところの甲子園と言えばわかりやすい。優勝すればプロの道にぐっと近づく。まあ、俺ら前回大会で優勝してるけど。今まで長い歴史があるこの大会において、二連覇したバンドはいなかった。過去に誰も成し遂げていない記録をたたき出すべく、練習に励む。


 バンフェス最終ステージはプロも使っている日比谷公園大音楽堂――野音だ。あそこでのライブは、解放感抜群。あれは忘れられないライブだった。


 あの時の興奮をもう一度。


 メンバー一同、練習し続けて一次審査結果を待った。



「あ。結果来た」


 十一月の頭。授業の合間の休み時間、何度もリロードしていたらやっと結果がホームページに更新された。

 小さい画面を大輝と覗いて、内容に目を通していく。


「わ、今回もえげつない応募数じゃん! 前より多いんじゃない?」


 トップには『一次審査通過者発表&二次選考開始』の文字。さらにスクロールさせていくと、応募総数1万4038組との記載。前回大会よりも数千組多くなっているようだ。


「俺らはー、っと……」


 一次通過したのは多数のバンドの中からたったの116組。狭い門だけれども、去年よりか自信がある。

 ズラリと並ぶバンド名。自分たちを探す指が少しだけ震えるのがわかる。


「ちょ、たんま! キョウちゃん、そこそこ!」

「あ? あ、ああ……った」


 順不同の中にある『Walker』の名前を見たとき、血が熱く感じた。


「よっしゃーっ!」

「ぐっ……揺さぶるな、気持ちわりぃ」


 大輝に肩を持たれたまま、ぶんぶん頭をシェイクされた。おかげで熱くなった血はすぐに温度を下げる。


「ごっめーん。そういえば、二次って何だっけ?」

「一年前のこと忘れたのか? さてはお前、馬鹿だな?」

「えへへー」


 大輝は俺の前の席に座りなおしては、笑ってごまかす。本当に記憶がないのか、スマホを置いてから説明する。


「バンフェスは一次審査から最終審査まで全部で四段階ある。一次が運営による書類審査。二次が一般によりインターネット投票。三次がライブハウスでのプロと一般による投票。んで最後が野音だ」

「んじゃ、次のライブはライブハウス?」

「まあ、順当にいけばな」


 一般の人による投票がどう転ぶかなんてわからない。けど、前回がいけたなら今回も、なんて考えてしまう。


「俺、自分に自分で投票しよー」


 わいわいと一人で騒ぐ大輝に向ける視線は決して冷たくはない。以前までの「馬鹿やっている」という目はなくなった。実際に結果を残しているからだろう。


 二次の結果が出るのは一月後。大輝みたいに毎日自分に投票しているのもいいと思うが、それ以上に練習に励むしかない。曲目も増えてきたが、改良の余地はある。加えてパフォーマンスも……ああ、機材も見直した方がいい。エフェクターボードをいじってみるか。新しいものを入れる金はないから、入れ替えぐらいしかできないけど。

 まあ、ひとまず休みながら練習していくか。

 みんなにメッセージを送って、次の授業は休息のために寝るしかないな。



 ☆



 十二月、二次審査結果がでる日を迎えた。

 大学受験に向けて周りはみんな必死で勉強している最中。受験なんて頭にない俺と大輝だけが、毎日音楽漬けだ。鋼太郎と悠真はどこかの大学を受験するとか何とかで、部活を休むときもある。なら、練習時間をずらせばいいという案を採用して、昼休みにミーティングやら練習をする日が多くなっていた。


「鯖落ちしてんだけど」

「ほんとだ。これはどうしようもないね」


 まだ結果発表の時間ではない。あと数分で二次結果が出るぐらいのタイミングで、バンフェスのサイトは完全に落ちた。

 悠真も同じくサイトを開いて見ていたから、諦めたようにすぐポケットにスマホをしまう。

 結果が出るというのに確認できないとは。もどかしい。


「鋼太郎、どうにかしてくれ」

「無理言うな」


 誰のスマホでも結果は同じ。全員が肩を落としたとき。


「みなさーん。お待たせしましたー!」


 物理準備室の扉が開いた。その部屋の主である先生が両手を大きくあげてさっそうと現れた。


「別にせんせーを待ってないよー。俺らが待ってたのは二次の結果だし」

「うっ、菅原くんの悪意のないストレートな言葉はクリティカルヒットです……」


 胸を押さえてダメージを喰らったふりをする先生。それに対して大輝は笑いを返す。


「先生、それで僕たちに何か用事でも?」

「そうです、そうです。サイトが使えなくても、メールは届くんですよ。ほら!」


 先生が持ってきたのは一枚の紙。そこに何か書いてあるみたいだけど、字が小さすぎて今の場所から何が書いてあるかまでは見えない。目を細めたところで、何か書いてある程度にしか見えない。みんなそれは同じで、そろって首をかしげる。


「ほら、もっと近寄って。ほらほら」


 言われるがまま、先生に近寄って内容を見る。メールを印刷したものらしいそれには、『二次審査通過のお知らせ』という文字が。


「おめでとうございます。Walkerの皆さんは二次選考を通過し、見事次のライブハウスで披露することになりました! はい、拍手!」

「うぇーい!」

「っしゃ」

「わーい!」


 手を叩いて、互いにハイタッチをして。通過を互いに喜ぶ。先生も喜ぶ、かと思いきや何か不気味に笑っていた。


「あの、先生?」

「ふふふ……作間くんは気づいてしまいましたか。実は、もう一枚……」


 Walkerの結果が示された紙の後ろにもう一枚、別の用紙がある。それを手前に出してくれて、書かれた内容に目を疑った。

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