Track3 地域交流会
Song.55 地域交流会
「おや? なんだかみなさん、変わりました?」
週が明けてからの部活に顔を出した立花先生が首をかしげる。その理由は、ホームルームが終わってから時間を空けずにメンバー全員が揃って練習準備に取り掛かっているからではなく、雰囲気からだと思う。俺でもわかるぐらいに明るい。授業についてとか、練習内容とかを話しながら手を進められるし、会話が途切れない。これが変化と言わずに何と言う。
「やる気があって何よりですね。そんな皆さんに朗報です」
「は? 今更なんかあったか?」
「あるんですよ。なんと、バンフェスの前のビッグイベントです!」
ベースを肩からかけ降ろして腕をまくって言葉を待つ。みんな同じように、準備をしながら待機していた。
「実はですね、隔年で行っている地域交流会のステージに出なさいとお達しがきました」
地域交流会?
振り返って悠真の方を見る。悠真なら知ってると思ったけど、口は閉ざしたまま。知らないというのか、知ってるけど言わないのか、はたまた人の話を聞けということなのか。まあ、どれでも同じか。改めて先生を見る。
「知らない、忘れている方も多いと思うので説明すると、地域交流会は名前の通り、地域の人が見に来て、交流しましょうという会です」
先生は言う。
「有志による出し物と、地域の方による出し物を見せ合う形ですね。ちなみに生徒の閲覧参加は義務です。授業の一環であると受け取ってください」
「あれか……クソつまんねぇやつ」
一年の時、そういう名前の行事をやっていた。当時は軽音部がないわけで、俺はただ出席しただけ。体育館に集められた生徒のひとりだった。
ステージでは、上級生が漫才やったり、演劇やったり、踊ったり。来賓として来た地域の人というのは、土曜の午前に時間を余した老人ばかり。俳句を読んだり、三味線弾いて唄ったり、日本舞踊だかなんだかを踊ったり。とにかく退屈な時間だった。
俺だけじゃなくて、大半の生徒がそう感じただろう。居眠りしているやつもいたし、そもそも欠席しているやつも多い。出席日数が危なかったから、俺は出た。そうじゃなければ出なかった。その程度の行事。
「不満ですか?」
「不満つーか……出る側なのはいいし、ライブできるのはいいんだけど、アウェーじゃね? 地域と言っても、来るのってじじいとばばあだ。その世代にバンドはウケねぇ」
「根拠は?」
「根拠もなにも、そんなもんだろ。年寄りに人気のバンドなんざありっこ――」
言っている途中でハッとした。
老若男女問わず人気があるバンドの存在を思い出した。
聞いたことがないという人は日本で存在しないんじゃないかというレベルで知名度もあるバンドを。
「
「Mapは人気あるしね。さすがにMapの地元だ、高齢者の方でも聞いたことぐらいあるでしょ」
Mapのファンである悠真が、当たり前というように言う。
「そうですね。Mapならば、どんな世代の方でも耳馴染みのあるかと。ですが」
急に先生は顔を引き締めて続けた。
「あなた達はMapではありません。あなた達はWalkerです。あなた達の音楽を魅せてください」
難題を突きつけられ、部活前のミーティングは終わった。
先生はニコリと笑顔を浮かべた後、隣の物理準備室へ姿を消す。残った俺らは一度顔を見合わせた。そして、苦い顔を浮かべる。
「どうしたものだか。何か案は?」
「ねえよ。あるわけがねぇ。ライブしてぇけど、ただライブしたところでしらけるの確定じゃねえか」
「それをわかっていて今まで通りやるか、他の生徒にかけるか、もしくは辞退するか。僕に考え着く案はこれしかないよ」
「んなの、やる一択だ。でも、しらけたライブはしたくねぇ。だけど、じじいたちが遠い目をしてお茶会始める絵しか出てこねぇ……」
どうしたものか。俺らがライブして、生徒が盛り上がることができても、年寄りは楽しくなさそう。それじゃあライブと言えない。ライブは全員が楽しんでこそ、一体感が生まれるというもの。誰一人、置いていけない。
「なかなか難しいですね。お年寄り受けするライブにしたら、今度は生徒の方が浮いてしまうし。どちらも盛り上がれるようなものって何でしょう?」
「うちのじいさんも、ライブが何だかってわかってねぇな。好きなのは演歌だし、目も耳も悪い。昔の曲は知っていても、今の曲を聞いても、何言ってるかわかんねぇってよく言ってる」
瑞樹と鋼太郎が唸る。二人の言うことには納得がいく。どうにもできないと行き詰った。だが。
「俺、いいこと思いついちゃったんだけど!」
ひとりだけ、悩みなんてない前向きな声を上げた大輝に目が行く。
「
「何言ってんだ? また神谷の手でも借りるのか?」
いい加減自分で考えろとか言われそうだ。神谷もそんな暇じゃないだろう。
「いんや。人生の大先輩! んで、一緒にやろーって言えばいいじゃん? そうしたら、みんな楽しいライブになるでしょ?」
そう答えた大輝だったが、誰もその意味を理解できていなかった。
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