Song.49 保護者(仮)
「一応、あざした……でもなんでここにいるんすか」
「ん? それはあれ、まあ色々と? それより、なんで君がこんなところで変な奴にいじめられてるん?」
「別に……色々聞かれてただけで」
「ふぅーん。って、悪いけど、頭から聞かせてもろうたで。君のお父さんのこととか、君自身の裏の顔とか」
んだよ、こいつら全部話聞いてたんだじゃねぇか。むかつく。NoKのことも、親父のことも全部かよ。聞いてたならもっと早く助けてくれよ。あんなめんどくさい奴に絡まれていた一般人を放置すんじゃねぇ。
思い出すごとに苛立ってくる。
それを飲み込むために頬杖ついて窓の外を見る。昼間だから、行き交う人がかなり多い。誰も俺たちなんか気にしていない。社会なんてそんなものか。
「話をぶりかえして悪いけど、君さ。お父さんの話、どうするの?」
「あ?」
話を戻してきた奏真が、俺の方を見て言う。振り返ってその顔を見れば、先ほどの執拗で気味悪い堀岡と違って、どこか不安そうな顔をしていた。
「どうもしない。今更調べようがないし」
「でもさ、何も出来ないならそもそもあんな不審者と話をしようなんざ普通は思わないでしょ」
名刺を指先でつまんでひらひらと仰いで見せる奏真に祐輔が割り込む。
「調べてみたらスッキリするかもしれへんで。モヤモヤしたままだとできることもできなくなるやろ? それにあの手の記者、うるさいで。脅しでつけあがって来る」
「可能性はあるかもだけど、調べようがないっつーか」
「聴けばいいやん、ひーらぎさんに」
「あ?」
当たり前と言わんばかりに言う。
言われてみれば柊木に聞けば一発で解決するじゃん。悩む必要もなかった。俺、馬鹿じゃん。自覚あるけど。
「はあ。やるっきゃないか」
「君が
「あ? あんた何言って――」
突拍子もない奏真の提案。なんでそうなる。意味が分からない。つか、普通、東京にいるだけで柊木に会えるなんて考えないだろ。実際はさっきまで同じ建物内にいたから、すぐ会えるんだけどさ。
開いた口が塞がらない。つらつら述べられる話を右から左へと聞き流され、頭には全く入ってこない。
「あ。噂をすればなんとやらやな」
ほら、と祐輔が窓の外を指さす。するとそこにはガラスに張り付くようにして室内の俺らを見ている男――柊木がいた。深い帽子で顔を隠しているが、こっちからみれば丸見えだ。
目が合ってすぐ、走って去る。
「は、なんで? なんであいつが来てんだ?」
「んー、それはね。悠真にメッセージ送ってみたからかな?」
ニコニコとスマホの画面を見せてきた。メッセージのやり取りを行っている画面だ。奏真と連絡を取っていた相手こそ、まぎれもない悠真だった。
最初は奏真の方から『もしかして東京に来てる?』、『会おうよ』なんて一方的に送られていたが、何通も送った後に悠真から返信が来ている。『仲間が行方不明』と。
その後はどんどんやり取りが続いていて、俺がこのカフェにいることが伝えられたところでやり取りは終わっていた。
「いつそんなの送ってたんだよ」
「いつって、最初から。ほら、君がいれば悠真もいるだろうなーって思って。悠真ったらいつも既読無視するのに、君のこと伝えたらすぐに返事が来たから、嬉しくてついついいろんなこと送っちゃった」
「うっわ……」
普段無視されてるとかどんだけ嫌われてるんだよ。
すっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲んだとき、バタバタと足音が近づいてきた。すると奏真は察したように席を移動し、祐輔の隣へと移動する。
「恭弥くんっ!」
「あ」
やってきたのは柊木。先ほど店の外にいたが、慌てて入ってきて俺のところまで来ると勢いよく抱きしめられた。
大の大人が、男子高校生を抱きしめている光景。周りの視線が痛い。
「ちょ、離れっ」
「そうだよね! ごめん、ごめん」
離れた柊木の目が潤んでいる。これはちょっと心配かけすぎていたのでは……。
「電話かけてもつながらないし、返信もこない。スタジオから出たところまでしか終えなくて……すごい心配したんだよ。えっと、君が御堂くんのお兄さんかな。連絡ありがとう」
「いえいえ。お力になれたのであれば光栄です」
大人の対応をする二人を横に、いやな汗が背中をつたう。
自分のスマホをポケットから探り出す。電源ボタンを押して、画面を点灯させればむちゃくちゃな数の通知がきている。着信にメッセージ……悠真、瑞樹、大輝、鋼太郎と全員から来てる。メッセージには『今どこにいる?』って内容ばっかり。残っている留守電にも同じ内容がぞろぞろと。
悠真からの説教タイムが確定した。
「じゃあ、行こうか? 恭弥くん」
「へ?」
考えているうちにどうやら話が進んでいたらしい。三人が立ち上がり、行くよと声をかけてきた。
何も理解していない俺に説明なんてしてくれない。
「見つかったって連絡はしてあるからね」
堀岡が置いて行った千円でその場の会計は済ませ、そろって店を出る。
柊木は奏真と祐輔と色々話している後ろを歩く足はとても重く感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます