Song.43 東京到着


『君の相談ならしっかり聞きたい。だけど、こっちもこっちで仕事が入っていて、そっちへ行けるほどの時間の余裕がない。用があるなら、君たちがこっちに来てくれる? 場所は教えるから。ひとりでもいいし、全員来てもいいよ。明日なら時間がとれるし、直接会った方がよく話を聞ける』



 司馬は淡々と述べる。

 この話に乗らない、という手は俺にはない。相談したいし、手を借りたい。どうにかしたい今の状況を変えるには、この人らの力を借りるのがベスト。直接会えば、相談に乗ってくれる。だったら、俺が選ぶのは。



「行く」

「キョウちゃん即決! 流石だね! 僕も行きたい!」



 瑞樹も乗り気だった。

 そのまま他の奴らの顔を見たら、頷いているし、全員の意思を確認できた。



「全員で行く。場所、送って」

『わかった。時間厳守で頼むよ。そうそう、楽器も持ってきてね』



 その後送られてきたのは、東京のとあるスタジオの住所だった。



 ☆



 珍しく早起きをして、ベースを抱えつつ電車に揺られた。

 やってきたのは去年のバンフェス以来の東京。

 天気は快晴。休日というだけあって、人が多い。人酔いしそう。



「……なんで僕も来なきゃいけないわけ?」



 ムッとした顔で言う悠真。

 悠真が辞める辞めないの相談をあいつらにしたかったけれど、当の本人を連れてきたのはどうしてかというと、これは鋼太郎の計らいだ。


 鋼太郎曰く「本人の口から言わせた方がいい」って。その考えがよくわからなかったし、悠真が素直に行くとは思っていなかった。俺が誘っても来なかっただろう。鋼太郎がいかにうまく説明して説得したのだろうか。



「まあまあ。せっかくの東京だもん。楽しくいこー!」

「はあ……」



 大輝の声に嫌そうな目を送っている。



「おい、鋼太郎」

「なんだ」

「……どうやって悠真を連れてきたんだよ。っていうか、今日の目的を言ってあるのか? 自分のことをMapに相談するため、なんて知ったら来ねぇだろ、性格からして」



 後ろで大輝が気を引いているうちに、鋼太郎に聞いてみた。すると。



「言ってねぇよ」

「は?」

「だから言ってねえんだ。あくまでもオープンキャンパスに付き合ってくれってしか言ってない。全員が集まったところで、それが嘘だっていうのはバレたけどな」



 説明も何もなかった。適当に嘘ついて連れてきただけだった。

 俺が同じ理由を言ったなら、最初から見抜かれるだろうな。真面目で進学希望があるからつける嘘か。



「バレた瞬間、御堂の目がやばかった。目で殺しに来てた」

「うわあ……今も充分、目線やべぇぞ。殺すどころか跡形なく抹消させにきてる」



 振り返らなくてもわかるほど、鋭い目線が向けられている。それこそ痛いほどに。



「なあなあ、ユーマ。あれ食おうぜ!」

「うわっ、待ってって……」



 悠真の腕を無理やりに引っ張って、大輝があっちこっちへと向かって行ってしまうから、悠真が文句を何度も言ってくる隙がない。おかげで助かっているところがある。



「大輝先輩、悠真先輩。そっちじゃなくて、こっち! もう行っちゃいますよー」

「そうだったのか! じゃあ、ユーマ戻ろう!」

「はぁ、もう走らせないでってば……」



 無駄に走らされている悠真を連れて、教えてもらった場所へと向かう。

 俺が先導していたら迷子になって、結局鋼太郎に地図を見てもらって着いたのはスタジオ。どうやらあの人らは練習しているのだろう。



「時間ぴったり。中に入ればいるだろ」

「キョウちゃん堂々としててかっけー」



 入りにくいと感じていたのか、みんな足を止めていたが先陣切って入ると、チリンとベルが鳴る。

 そしてすぐ、待望の人たちに遭遇できた。



「お、坊ちゃん来た! 時間通りじゃん、偉い偉い」



 手をブンブン振る神谷とその周辺には、Mapのメンバーが勢ぞろいしている。



「ドラムの奴もいるじゃねぇか! 相変わらず目立つ背丈だな!」



 神谷に続いたのはMapのドラム担当、園島そのじま達馬たつま。ムキムキの体で強いドラムを叩くし、テンションが異様に高い。神谷に負けず劣らず目立つ人だ。



「あ、本当だ。みんな来たね。よかった」

「来るはずだよ。彼らみんな、いい意味で音楽に狂っているから」

「それもそっか」



 ハイテンションな二人をよそに、静かに座っている人物が二人。

 そのうちの一人、顔に大きな傷跡を残している方がボーカルの柊木ひいらぎ隼人はやとの言葉に、続いた今回の目的であるキーボディスト司馬しば亮吾りょうごがいる。


 この四人が現・Multiaction Programマルチアクションプログラムのフルメンバー。ちなみに元メンバーがベース担当の親父だ。


 親父が死んでからは活動休止していたけれど、去年のバンフェスで審査員をしてからは、活動再開している。

 まあ、まだ曲は出ていないのだが。



「今日はよろしくお願いします」

「しまーっす!」



 瑞樹の丁寧な声に各々挨拶をする。



「それぞれの楽器分、スタジオとったし、行こうか」

「スタジオ? 俺ら練習に来たわけじゃねぇ」



 司馬が指さす先にはいくつかのスタジオの扉が並ぶ。

 そこへ喜んでいきたいのは山々だが、今日は練習しに来たんじゃなくて、話をしたくて来た。楽器はよくわからないけど、持ってこいって言われたから持ってきたけどさ。



「みんなバンドマンでしょ。やっていれば通じるものがあるはずさ」

「……納得いかねぇ。てか、あんたらのバンドにベースいねぇだろ」

「ああ、いない。だから君はこっちへおいで。みんなはそれぞれ頼むね」



 ドラム、ギター、ボーカルとパート別に階段を上がって小部屋へと入って行く。Mapにベーシストが新規加入していないので、親父の席は空いたまま。ともなれば、俺は誰ともペアになることがないというのに、司馬は表情が固い悠真だけじゃなくて、俺をも同じ部屋に連れ込んだ。


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