Song.38 双子の探偵


「うーん……ユーマがなあ……」


 腕を組んで唸りだす。俺らの中で一番悠真との付き合いが長い大輝であっても、悠真のすべてを知っているわけじゃない。悠真が何を考えているのかなんてエスパーじゃないんだから、わかりっこないんだ。そのぐらい俺にだってわかる。


 でも、昨日の悠真の言葉を聞いた俺だけれども、よくわからなかった。言葉と行動がつながっていないから。



「なあ、悠真は音楽が嫌いになったのか? 俺のせいか? クラッシャー的な……」

「いやいやいやいや。キョウちゃんはいつも通りのキョウちゃんだったよ? いっつも自由だもん。『あの野郎』って言いながらユーマが頭抱えてた」

「え、それってどうなんだよ」

「いつもそんな感じだからダイジョーブ」


 俺ってそんなに悠真を悩ませていたのか?

 どれに対してだ? 小早川と問題起こしたことか、それとも、黙って一年たちに紛れて演奏したことか? いや、好きなように曲を作って弾きにくいものばかりにしたことか? 可能性だけなら山ほど出てくる。

 これってやっぱり俺が原因なんじゃ……。


「ユーマの悩みの種はたくさんありそうだもんなー……だからよくわかんない! もっといろんな人に聞いてみよう!」

「あ」


 ガタっと立ち上がった大輝。その手にはスマホが握られている。

 何をするのかと見ていれば、ポチポチと操作してスマホを耳に当てた。

 メッセージを送るんじゃなくて、電話するのかよ。一体誰に……。


「あ、久瀬しょー? ちょっとさ、聞きたいんだけど」


 一年に電話してんのかよ。どうしてその人選をチョイスしたんだ。てっきり鋼太郎とか瑞樹に電話するものだと思っていた。


「あんさ、ユーマのことなんか知らない? なんかね、ちょっとこっちでトラブっちゃって。ううん、みんなが何かしたとかじゃないよ! 何が起きてるかわかんなくてさー……あ、ほんと? じゃあ、何かわかったら電話でもメッセでもいいから教えてくれる? あざっ! んじゃね!」


 黙って聞いていると、すぐに電話を終わらせて、口角を上げて俺を見る。


「久瀬しょーが調べてくれるって!」

「お、おう。ってか、一年が調べられるものなのか?」

「わかんない。でも、久瀬しょーは友達多いし、さりげなく調べられそうじゃん? 久瀬ゆーも調べてくれるって」

「そうか」


 よくわからないけれど、一年の双子が協力してくれるらしい。手段はどうなのかは知らないが。

 目立って動いていれば、悠真が怪しむだろうし、迷惑がられる。だから、少数精鋭がベスト。だが、人選は気を付けるべきでは?

 全く知らない人っていうわけじゃないから、まあいっか。


「俺もしれっとユーマに聞いてみるね。とりあえずキョウちゃんはいったん休憩してて。クマ、酷くなってるもん」


 そういうと大輝は自分の席へと戻る。

 休憩してろと言われて、のこのこ休んでなんかいられるかよ。授業中も考えて、スマホでメッセージの履歴を見てみよう、なんて考えていたが、案の定俺は睡魔に負けてほぼすべての授業を睡眠に費やした。



 ☆



 放課後、部活へ行くよりも先に俺と大輝は一年のクラスに向かった。

 俺らは三年。体格とか学校慣れとか、雰囲気で学年が違うことがわかってしまうらしく、一年の階を歩くだけで、周りがざわつく。どうして三年が一年のクラスにいるのかって、ジロジロ見られる。もう何回もこういう視線を向けられているから、多少耐性はついたにしても、気分がいいもんじゃない。というのに、大輝の足は軽い。


「お、いたいた~。久瀬しょー!」


 俺らを見るなり知らない一年が道を開ける。そのまま大輝についてきて、どんどん教室に入っていった先に、久瀬弟がいた。

 窓際に立っていて、その手前の席には同じ顔の姉もいる。


「先輩、お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 弟、姉と頭を下げた二人に、俺らも短く挨拶を返す。


「早速なんですけど、御堂先輩、ご家族とトラブルありました?」

「な……」

「?」


 俺だけだった。弟の発言に反応してしまったのは。

 他は全員、きょとんとした顔をしている。


「キョウちゃん、知ってるの?」

「あ、いや……あ、うん?」


 悠真から聞いている。悠真の兄貴のことを含めて。

 でも、それを言っていいのか?

 というか、それが関係しているのか?


「……女子の間ですけど。噂になってますよ。御堂先輩が、国立大を受験するっていうのが。偏差値すごいところって。きゃーきゃーしてるのを盗み聞きしました」


 それは知らない。

 やっぱり、悠真は大学進学か……。それが本望なら、俺は応援はする。あくまでも、本望ならば。


 昨日の悠真の様子からすると、心の底から『辞めたい』と思っているようには見えなかった。それに、バンドは続けたいとも言っていたし。


 本当に辞める決断をして言ったのであれば、俺にもっと強く、冷たく当たってくるだろう。だって、悠真はああ見えて頑固だ。自分の中で確かなものがある。それを貫き通すのが悠真なのだ。


 なのに、俺に向けた顔は苦しそうで、加えて『ごめん』と言った。

 悠真の言葉としてはあまりにも相応しくない。


 家でのトラブルが悠真を苦しめている。

 でも、それだけじゃないと思う。

 両親、兄、将来……他に何かあるような気がしてならない。


「家族と、受験でピリピリしてんのかなぁ? どう思う、キョウちゃん」

「……」

「キョウちゃん?」

「あ? ああ、まだ、他の理由もありそうなんだが……」


 何かあるはず。

 親からあれこれ言われるのは、悠真は過去にもあったと思う。というか、あったと聞いている。

 だから、それだけで悠真がへこたれるとは思えない。


 何か。

 悠真の心を折るような何か――……。


「……先輩。この前のライブ動画、見ました?」


 久瀬弟がジッと見つめてそう聞いてくる。


「いや。見てねぇ」

「そんな気はしてました。俺からしたら、いや、悠希も同じで」

「はあ?」


 だからなんだ。それが顔に出て来たらしい。

 久瀬姉が説明してくれる。


「結構メンタルに来るんですよね、コメントって。ほら、ライブ動画についたコメントです。賛否両論ある中で、おそらくこれ……」

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