Song.18 テンション

 翌日、俺は注意を受けていたけれども、見事に遅刻した。


 ここ最近――とは言っても軽音楽部が設立してから――は遅刻していなかったが、それ以前は自分で言うのもなんだけど、かなりの遅刻魔。授業もよく病欠といって保健室に行っていたぐらいだ。事実、頭痛とか、ストレスからか喘息も出ていたし病欠は間違ってない。まっとうな理由をつけていたから、授業を休んでいたことはあまり怒られていない。遅刻は結構怒られたけど。


 一限に間に合わず、二限から登校した矢先、教室で俺を待ち受けていたのは――


「キョウちゃん!」


 授業の途中に入るのは嫌で、ちゃんと休み時間になってから教室に来た。そうしたら教室の入口で、中に入るのを拒むように大輝が立ちふさがった。


 わかるさ、何が言いたいかって。

 なんで遅刻したのとか、心配したんだからとか。そういうことだろう。わかっているとも、そんなに怒った顔をしなくても。

 俺に非があるから、大輝の目から逃げるように目を逸らす。


「遅刻しないでよね! もう! 俺らみんな心配したんだから! メッセしても反応ないし。どうせ寝ているってみっちゃんが言っていたけど、それでも心配するんだから!」

「はいはい。わかってるよ。わるぅござんした。昨日張りきりすぎて、寝るのが遅くなったんだよ」

「もう!」


 お前は俺の母ちゃんかよ。そう思いながら、大輝の脇から教室に入って、自分の席に向かう途中にも、あくびが出た。


「で? 曲はできたの?」

「おう。悠真にも送った。深夜に」


 完成させたのは真夜中三時。おそらく送った内容を悠真が確認したのは今日になってからだろう。変な時間に送るなって後で怒られそうだけど、興奮しすぎてすぐに送りたかったんだ。聞かせたかったんだ。仕方ない。


「歌詞もつけたけど、悠真がいじってまた俺の所に返って来るはず。練習始めるまではもうちょいかかるだろうな」

「えー。俺、早くやりたいー」


 席に着き、次の授業のノートやらを出している間、大輝は隣に立ってぶつぶつ言う。


「んな焦んなって。暇してるなら後輩の偵察にでも行って来い」

「邪魔するのはよくなくない?」

「邪魔にならない程度に見てればいいんじゃねぇの?」

「それもそっかー。あ、噂をすれば。外の体育、イリヤがいるよ」


 教室の窓から校庭が見える。ぞろぞろと生徒が出て行く中で、目立っている男子生徒がひとり。背が大きく、髪色が明るい生徒は、一年の小早川しかいない。


「隣は……ユーヤかな?」


 小早川と並んで歩いているのも男子生徒。

 目を凝らしてよく見たところで、やっと藤堂であることがわかった。


「お前、よくこの場所から個人の特定ができるな……どんだけ目がいいんだよ」

「え? 普通じゃない? おーい、ユーヤー。イリヤー!」


 大輝は窓から二人を呼ぶ。教室内はその行動にざわついている。誰を呼んでいるのか、急に叫ぶなっていう目が俺らに向く。

 それを気にせず、ブンブンと大きく手を振っている大輝。相変わらず、そういうところではハートが強い。


「お、気づいたみたい」


 一年の二人は俺らに気付いて、小早川は大きく手を振り、藤堂は小さく頭を下げて、集合している同級生たちの元へと向かって行った。


「なんか、藤堂の方、やつれてね?」

「言われてみればそうかも? キョウちゃん、興味なさそうに見えて、意外と人を見てるよね」

「そうか?」


 たかが一日、二日だけで、藤堂が一層暗くなったように見えたのは俺だけか?

 同じベース担当で曲作りもしているから、藤堂に興味がある。気が弱そうだった藤堂がどうやってあのバンドでやっていけているのかも気になる。気になりすぎてよく見ているかもしれない。


「よーし、授業始めるぞー。さっさと席に着けー」


 老けた声が教室に入ってきた。もう授業が始まるらしい。外の様子を気にしながら、授業を受けた。



 ☆



 昼休み。学校中が騒がしくなっている中、俺は大輝を残して教室を出た。

 というのも、今日は弁当を忘れた。ばあちゃんに今日から午後も授業があるって言うのを伝え忘れたからだ。だから、購買で昼飯を探しに来た。


 わんさか人であふれている購買。これがライブだったら、どれだけいいか。

 ライブ以外の人込みは大嫌いだ。


「こりゃ、買うのは時間かかるな……」


 並びたくない。人が少なくなるまで待とう。

 そう決めて集団の後ろの方ではけるのを待っていたら、外で見かけた藤堂が遅れて購買の方に来て集団を見るなり足を止めた。


 きょろきょろと周りを見て、買うのは無理かと判断したのか、明らかに肩を落としている。


「おい、お前」

「わっ……っ、とごめんなさい。野崎先輩、こんにちは。何か用ですか?」


 声をかけただけで、ビクっと肩を動かした藤堂は、とことこと近くにやってきてそう言った。俺ってそんなに怖いのか?


「別に用っていうほどの用はないけど、ただそこに居たから声かけた」

「あ、はい」

「……」

「……」


 本当にそれだけなんだ。別に挨拶として声をかけてもいいよな。俺、おかしくないよな?

 互いに会話があまり得意でないらしい。すぐに黙ってしまい、変な空気になる。こういうときはいつも、瑞樹や大輝がどうにかしていたから本当に苦手な場面だ。


 そうしている間に購買はどんどん人がさばかれていた。

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