Song.16 曲に「ない」もの


 昼飯は手作りオムライスだった。

 五人分のそれを、家でも料理をしていてうまい鋼太郎と、何でもテキパキこなせる悠真の二人で作る。あんまり仲がいいようには見えないけど、俺らの中でツートップの頭を持っているから話は意外と合うとかなんとかって、鋼太郎が言っていた。


「で。何がないっていうんだよ」


 食べきって片づけも終わらせてから、今度は全員が俺の部屋に集合する。

 変わらず俺はキーボードの前。他は全員床やベッドに座っている中での言葉は、料理担当だった二人には通じていない。


「ちょっとさ、僕らには話が全く読めないから説明してくれる? 君じゃ通じないから、瑞樹くんが」

「僕ですか? キョウちゃんからの方がいいんじゃ?」

「いや。彼だと抽象的過ぎて理解に苦しむ」

「んだと、こら」


 悠真は俺を見ないで瑞樹に聞く。

 瑞樹は瑞樹で「いいのかな?」という目でちらちら俺を見てくる。


 ふてくされてそっぽを向いたら、瑞樹が悠真と鋼太郎に流れを説明した。


「ふーん。じゃあ、もう一回弾いて見せてよ。僕は少し聞いたけど、こっちの彼はまだでしょ」

「おう」


 鋼太郎は一度も聞いていない。だから再度、リプレイのように同じメロディーを聞かせてみせた。


「どうだ? テーマの『夢』から作ったんだけど。大輝がどうも気にくわないらしい。率直に言ってくれ。気に入らないなら変える。全員が納得するものにしたい」


 床に胡坐をかいて座る鋼太郎は、腕を組んで顎に手を当てて何か考えている様子だ。

 そして眉間に皺を作りながら、低い声を出した。


「ピンとこない」


 何がだ、なんて言葉は言わない。鋼太郎にも何か引っかかることがある、それがわかるから。


「僕はいいと思うけどね。斬新で」


 反対に悠真はこれでいいと言う。

 メンバー内、意見は半々。納得までには程遠い。


「どこがどうピンとこねぇんだ? 直すから言ってくれ」

「どうって……そうだな、こう……素人言葉で悪いけど、この音に何もないってところ? 浮いてるというか、つかみどころがない。テーマに沿っていない?」

「そう! そんな感じだ、コウちゃん! 俺もおんなじ意見! 今までの曲は歌が無くても、グッとくるものがあったんだけど、これには何にもこないんだよ!」


 大輝の言葉ではよくわからなかったが、鋼太郎の言葉ではちょっとわかったような気がするようなしないような。でもふんわりした意見をかみ砕けるほどの頭はあいにく持ち合わせていない。考えすぎて何だか疲れてきた。


「浮く……もっと地に足つけてみるか? ここで音を足しつつ、テンポは維持。歯切れもよく保ったままにして……」


 聞かせたばかりの音に手を加えていく。少し低い音も入れてみたりとあれこれ改編していくも、進行は遅い。とてもじゃないが、このままではメロディーすら今日中に終わらない。

 もっとみんなが納得できるようなものにしないと。

 それに決められたテーマにも合わせて。

 縛りがある中での曲作りがこんなにも難しいものだなんて。


「彼があっちで悩んでいる間に、僕らは僕らで歌詞に使えそうなワードを書いておこう。そこからまた、使えるものがあるかもしれない」

「はい」


 悠真が他のみんなに声をかけて、うまくまとめてくれている間、キーボードに向かい合う。

 ありとあらゆる知識の引き出しを開けたり、過去に聞いた曲の構成を思い出したり。そうして弾いてみるも、どれが正解かなんてわからない。最早最初の時からどんどん悪くなってきているような気がする。


「うぐぐぐぐっ……がっー!」

「わ。キョウちゃんが壊れたー。」


 ジャン、とキーを叩く。あまりにも進まなくて自分の技量に苛立つ。もっと親父みたいに才能があれば。そうすればすんなりいい曲が作れただろうに。

 未熟だ。それが憎い。


「無理すんなよ。時間はまだあるだろ?」


 鋼太郎が言ってくれる。俺を気遣っての言葉。


「ダメなんだよ、それじゃ。もっと早く作らないと。親父みたいにはなれねぇ。ポンポン作れないと……もっと、もっとやんねぇと……」


 いくら考えても進まない。頭はショート寸前だ。

 イライラするし、頭も痛くなる。

 頭をぐしゃぐしゃに搔いて、またキーボードに目を落とす。


「キョウちゃん……」


 瑞樹が小さな声で名前を呼んだのが聞こえた。曲を作るのは俺がやるから、一緒にバンドをやろうと誘ったのは俺だ。それに二つ返事でのってきた瑞樹に、心配なんてかけるわけにはいかない。俺がひっぱっていかないと。


「なあ」

「あ?」


 頭を抱えて唸っていたら、いつの間にか大輝が隣に来てしゃがみこみ、俺を下から覗き見ていた。


「今、楽しい?」


 悩んで頭を抱えているんだから答えなんて見てわかるだろう、と思うような質問に、俺の心臓がグッと締め付けられた。

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