Song.14 曲を作る


 Walkerとしての俺的な曲作りは、まず、悠真との話し合いから始まる。

 曲の方向性を決め、テーマを決める。ある程度決まったところで、俺がベースとなるメロディーを作って、歌詞も作る。大方できたところで、悠真が確認し、変えた方がいい場所とかを再度話し合う。これを何回も繰り返せば、曲が完成すると言う流れだ。


 頭が冴えていれば曲はすぐにできる。それこそ半日とかで。ただ一度詰まれば、ほとんど進捗ゼロの日が続く。

 今回はどっちに転ぶか……。


「ねえ、聞いてる? 君が呼びつけたのに、ぼーっとするのやめてくれる?」

「あ、ああ。わりぃ」


 学校がない日曜に、昼間から悠真を家に呼んだ。音楽関連の本に楽器とかパソコンとか、そんなものばっかりの俺の部屋で、悠真は床に座ってベッドに背を預け、Mapの特集がされている雑誌を片手に俺に言う。


「で? 神谷さんになんて言われたって?」

「一年の演奏を見て、『音を楽しめてない』って。んで、俺らも他人事じゃないってさ。つまりどういうことだ? 楽しんでるんだよな」

「ふーん……それは僕にもよくわからないな」

「だよな」


 神谷の言葉が何を意味するかわからない。でも、知っておいた方がいい気がして、頭を働かせる。そのまま目の前のキーボードを適当に単音鳴らしながら唸る。

 どの音を出しても、何もいいメロディは思いつかない。

 音を楽しむってなんだ?

 俺は弾いていて楽しい。それじゃ駄目なのか?

 神谷のいう『楽しめていない』が全くわからなくて、曲が作れない。


「それは後で考えるのでいいから、今は曲を作りなよ。一曲はNoKとして作っていた曲だから譜面にするのは手伝えるからまだいいとして、ゼロから二曲も作るんだから。どんな感じにするわけ? まずは君の要望聞かないとどうにもならない」

「要望なー。をテーマにっていうのがどうも、むずいんだよ。夢ってなんだ、何を使えばいい? それにフリーテーマ。フリーって言われても、そうだな……なんだろうなぁ……」

「要は何にも思いついてないんでしょ。夢もフリーテーマも。そんなことだと思ってほら、助っ人呼んだから」

「は?」


 悠真が見せてきたスマホの画面。そこには大輝との個人メッセージが表示されている。

 大輝のメッセージ五つに対して、悠真が一つ、「わかった」、「そう」というようなものすごい短い返事を送るぐらいの一方的なやり取りだ。


 だけど、昨日の日付でやりとりされたメッセージは、悠真が何度も送っている。

 ジッとそれを見て読んだら、俺の顔が引きつった。


「マジ? 大輝、来んの? うちに?」

「マジ。大輝だけじゃない」

「となると……?」

「駅で鋼太郎と大輝が合流して、瑞樹くんは単独で来る」

「マジか」


 大輝へのメッセージは、今日俺んちに来いという内容。それと同じメッセージをみんなに送っていやがる。全員それに対して、二つ返事でのってきているのかよ。

 騒がしくてむさ苦しい男たちが集まったところで、曲作りが進むとは到底思えない。


「僕らだけじゃ限界があるしね。新しい考え方を入れられると思って」

「そりゃそうだけど……」


 気は進まない。曲が進むとは思えないし。

 瑞樹は俺と一緒に長く音楽をやってきたけれども、鋼太郎と大輝は音楽に触れたばかりだ。楽譜スコアとにらめっこして何とか読めるようになったレベルだし、作曲の段階から関わるなんてできるのだろうか。


「言っておくけど、あんまりみんなを下に見ないでよね。君の知らないところで、それぞれ学んで練習もしているんだから。それと、何でもかんでも一人で背負わないこと」

「は? 何言ってんだよ。別に俺は――」


 図星だった。俺の思考が全部悠真に見透かされているようだった。思わず言葉がでなくなってしまう。


「僕らはWalkerだ。君ひとりで活動している『NoK』とは違う。僕らは五人集まってこそのグループ。君ひとりで全部やることはない。行き詰まったなら、手を借りればいい。違う?」


 手元の雑誌から目を離すことなく言った言葉が、体に染みる。

 俺はひとりじゃない、か。曲を作るにあたって、土台は全部作らないとって気張っていたけど、そうしなくてもいい……のかもしれない。


「ちょっと、黙るのやめてくれる? 何か反応してよ。僕が変なこと言ったみたいじゃん」

「わり。すげーいいこと言ってたよ。おかげでなんかひらめいた気がする」


 悠真のおかげで曲のイメージが浮かんできた。

 目の前のキーボードに指を走らせ、即興の曲が部屋を満たす。


「なんだ、急にやる気もアイデアも曲もでてきたじゃん」


 悠真がゆらゆら体でリズムを刻んでいる姿を横目に、みんなが集まるまでの時間が緩やかに流れていった。

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