Song.4 道場破り
「いざ、尋常に! 勝負っ!」
背の高い一年が言う。
それを援護するかのように、何処か気だるげな一年が「そーだ、そーだ」と棒読みで続く。
そしてこの二人の後ろで頭を抱える男とその隣で、ゲラゲラ腹を抱えて笑う女がいる。
四人のそれぞれの言葉と一致しない行動で余計に訳がわからないけど、こういう前向きなやつは好きだ。本当にやりたいんだと思う。このでかいやつだけは。
「受けてやる前に、誰だよお前。でけぇ背しやがって。縮めよ」
「ウス! 無理ッス! 俺、
上からぎゃんぎゃんと小早川は名乗った。まさか素直に言うとは思わなかったから、俺は間抜け顔になってると思う。
こいつは騒がしさで断トツの大輝と、背丈で断トツの鋼太郎を足して二で割ったみたいな……デカいのにうるさいとこうも面倒なのか。大輝が大輝でよかった。
って、大輝はいつの間にか小早川の前で胸を張って立っているけど何したいんだ。
「おう! すげえな、準優勝なんて! お前、イリヤって言うんだな! 元気な奴っ! ちなみに俺は――」
「知ってます! Walkerの皆さんのことは! 大輝さんはボーカルだけですよね!」
「お、もしかしてもしかしたら、俺って有名人? へへへ、照れるなぁ~」
俺って有名人? って照れてるけど、馬鹿にされてるんじゃね?
大輝はそれに気づいてないみたいだから、まあいいか。
「高校一のバンドであるWalkerを倒せば、俺たちが一番っスよね! だから勝負してください!」
「なるほど、っし。やってやるよ。こてんぱんにして――……」
「はいはい、君ら馬鹿でしょ。馬鹿はそうやって何も考えずに言うんじゃないよ」
小早川の勝負にのった途端、悠真が俺の後ろから襟を引っ張ったものだから、ワイシャツで首がしまり、途中までしか言えなかった。すぐにそれから解放されたが、眼鏡の先にある悠真の鋭い目が怖い。というか目で殺しに来てる。「黙っとけ」っていう目をしてる。ここであれこれ言い返したら、きっと腹パンでも首絞めでもしてくる気がする。
殺意が混じった目から逃げるように大輝を見れば、俺の代わりに言ってやると、大輝も目を輝かせて言おうとした言葉を、鋼太郎が持参した大福によって無理やり塞がれた。
「お前も喰っとけ」
「さんきゅー」
鋼太郎ん
「ちょっと! 勝負しましょうよ! ほら、ショーゴも言ってるし!」
「俺は何にも言ってないけどね。イリヤが言ってるだけだし」
「ほら!」
一年をよそにのんきに俺たち全員(腰につかまってた瑞樹も離れて食べてるし)、大福を食べていれば、小早川が怒る。それでもって、ショーゴと呼ばれた男が棒読みで答える。
どうやら小早川だけが意気込んでいて、他はみんな乗り気ではないらしい。
その証拠に、小早川以外は何か言ってくる気配がない。ただただ着いてきただけみたいだ。
メンバー内の熱量の違いが、めちゃくちゃあるな。大丈夫なのか、こいつら。
一年たちを見ながらのもぐもぐタイムに、物理室の扉が急に開いた。
「おや? 見慣れない顔が……まさか一年生ですかね? まだ入学式だけで、部活動紹介もしてきないのに見学者がいるなんて……みなさん凄いですね! これが優勝効果っ……?」
がやがやしている物理室に顔を出したのは、俺たち軽音楽部の顧問・
まだまだ若手で俺たちに年が近いことと、先生も高校時代にバンド経験があるから、軽音部の顧問をしている。
顧問だけど、俺たちに何かを教えるっていうことはほとんど、いや全くない。だって、先生より俺らの腕の方が上だし。これは先生もわかっていると思う。直接先生に「俺の方がうまい」って言ったら、否定されなかったってこともある。
基本的に先生は俺らをまとめる責任者っていう立場ぐらいだ。こういうことしませんかっていう提案して、仕切ったりっていうのとか。あと、カメラマン。ライブの様子を撮影して、写真にしたものを学校の広報誌に載せたりしてるとかなんとか。
「あ、せんせー、一年生が道場破りに来たよー」
「はい?」
流石の先生もエスパーではないから、大輝の言葉に変な声が出たようだ。
大福食べて粉だらけになった口の大輝を見れば、一年生の前で軽音部全員が何か食べてることがわかったらしい。先生がとても苦笑いをしながら「あー」って言っていた。
「ちょっと経緯はわからないんですけど、とりあえずお話しを聞きましょうか。誰現状の説明を……一番まともな御堂くん。お願いします」
悠真ご指名だ。俺らの部長だし、一番頭いいし、妥当っちゃ妥当。大輝と俺は馬鹿だから説明下手くそだし後から来たからよくわからない。瑞樹はまだめそめそしつつ、一年にびびってるし、鋼太郎は大輝の暴走を阻止するので精いっぱいだし。
大輝が横でわーわー言っているのを横に、悠真はてきぱきと説明をしていた。さすが幼馴染。大輝をスル―するスキルが悠真は見についている。
「みなさん、話はなんとなく分かりました。本当になんとなくですけれども。それを踏まえて、みなさんにお話がありますのでいったん座っていただけますか? 一年生の皆さんもお座りください」
段取りよく話したのだろう。悠真は眼鏡の位置を正しながら戻ってきた。
「何見てるの? 聞こえなかったの? ついに耳まで悪くなったの? 早く座りなよ。まったく……」
「ユーマおっつー! 俺、耳はいいほうだよ」
「知ってるってば。地獄耳でしょ」
「ふっふふ! っていててててて」
どこか疲れた様子の悠真へ、大輝が絡みに行った。
言わずとも、黙れと言わんばかりに大輝は悠真に耳を強く引っ張られながら席に連れていかれる。
痛そうだな、と思いつつ俺たちも、一年も物理室の空いた席に座った。
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