第2話 第一の刺客 幼馴染①




 あれから一か月。


 俺は相変わらず自室でボーっとしていた。暖かい日差しが部屋全体を温める。


 外から子供達の声が聞こえる。


「お~い! クロのおっさん! 今日も暇なら遊ぼうぜ!」


 おい! 俺はお前の友達か! それからおっさん言うな! 


 英雄の俺を軽々しく呼ぶなんて、後で親に怒られても知らんぞ。


 俺は窓越しにその少年を確かめると、二階の自室から飛び降りた。


「じゃ、何して遊ぶ?」


「追いかけっこ!」

「私はお飯事!」

「木登りがいいなぁ・・・」


 口々にやりたい遊びを上げる子供達。俺はそれを時間を掛けて、全て遊んでやる。


 今の俺には文句を言いつつも、この子らとの時間が一番癒される。純粋無垢で、無邪気に遊ぶその姿は全てを忘れさせてくれる。


「最近同じ遊びばっかりで飽きてきた」


 一人の少年が不満を口にした。


 確かにこの町は王国の片田舎にあり、大した娯楽がない。


 因みに俺がこの町の領主だ。


 英雄でこの国出身である俺は王様に領地を与えられ、その土地を治める様になった。


 と言っても、名目上だけで、優秀な文官に任せている。当然男である。そこは譲れん。


 魔王討伐と言う大義名分もある為、これでまかり通っている。俺に為政者としての才能なんてないし。


 ある意味、領地の子供たちと戯れる事は仕事の一環とも言えないことも無い。が、そんな事を言ったら文官のあの男は怒るであろうが・・・


「ねぇ、クロのおじちゃん! また恋人に振られたって本当?」


 ぐぅ! 痛恨の一撃だ。俺が死ぬ。ってか、何で知ってるの? 誰だよこんな純粋な少女に邪な事を教えたヤツはよ? 磔刑の後、斬首刑だな。


「お母さんが、英雄様が悲しんでるから慰めてあげなさいって」


 そう言ってその少女は首を垂れている俺の頭を撫でてくれた。


 この子は天使か・・・ でもさっき悪魔の一刺しを喰らったから、相殺って所か・・・


 子供は純粋故、大人が直球で言えない事も、平気で言ってくる。今の俺にとってはまさに諸刃の剣。


 まぁ、その笑顔はプライスレスって事で、気にせず遊ぶか。


 一しきり遊び終えた俺は、屋敷の玄関先まで子供たちを送っていった。


 玄関先まで迎えに来ていた母親たちとその子らを見送っていると、一人の女性が取り残されていた。


「あの~、すみません。貴方のお子さんは?」


 俺は当然その女性も自分の子供を迎えに来たものとばかり思っていたが、妙な返事が返って来た。


「久しぶり、クロ・・・」


 はて? 誰だこいつ? こんなやつ見憶えないぞ?


「十数年ぶりだもんね、そりゃ忘れちゃうよね・・・」


 何をこいつは勿体ぶった言い方をするんだ? さっさと名を名乗れ!


「あの~、どちら様ですか?」


 辛抱たまらんので、こっちから聞いた。俺って紳士だろ。


「私よ、マアムよ」


「は?」


 驚き過ぎて変な声出た。


「だから、マアムよ。名前も覚えてないの?」


 いや、覚えてる。ただ、驚き過ぎて硬直しているだけだ。


 この目の前の女は俺の記憶の姿とかなり違っている。そして、その名は


 俺の幼馴染で、初めての恋人で、初めて寝取られた恋人である。


 俺は途轍もなく面倒臭そうな予感がして、深く大きなため息を吐いた。

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