第28話 姉
アズサは鉄の矢じりの矢を弓で構えた。その目は紫色に変化している。
アズサはタイミングを見計らったが構えた矢を下ろした。
「リサ、左に避けて」
「え、うお!」
リサは間一髪アズサに言われた通りに左に飛んでかわした。
毒液だ。蜘蛛は毒液を飛ばしてきた。
蜘蛛はアズサに向かって三連続で毒液を飛ばす。
アズサはそれを難なく紙一重でかわした。
「アズサ! 大丈夫?」
「当たらなければどうという事はない……」
アズサはもう一度、弓を構えた。
「リサ、準備はいい?」
「いつでも来い」
蜘蛛は再度狙いをリサに定めたようだ、そして真っ先にリサに向かって動き出す。
アズサは弓矢を構えると、狙いを定めた。
「ここ……」
矢が放たれると、その矢は蜘蛛の腹の部分に突き刺さった。
「リサ! 今!」
アズサが合図を出すとリサは魔力を込めた。
「アイアンバースト!」
リサは蜘蛛ではなく、鉄製の矢じりに向かってスキルを放った。
リサの声とともにその矢じりは爆発し、蜘蛛の腹部を吹き飛ばす。
腹部を吹き飛ばされた蜘蛛はそのままの勢いでリサに攻撃を仕掛けたが、リサに届くことはなかった。
「ティナ!」
リサは蜘蛛の顔の宝石の部分に自分の刀を差し込むと、ほんの少しの魔力をこめてスキルを使い宝石を破壊した。
そしてティナを引きずり出すように外へと出した。しかしティナは動かず意識もない。
「ティナ! ティナ!」
リサがさらに呼びかけるとティナの体はぴくりと動き、やがてゆっくりと目を開ける。
ティナはリサの顔を見ると、反射的に目を見開いた。
その様子にリサは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔をつくり「よかった」と一言だけ言った。
そしてゆっくりと惜しむようにティナから手を離した。
ティナはうつむいた。そして何かを言いかけたその時、ティナの後方から大きな音が鳴り響いた。
三人はその方向に振り返ると、倉庫から飛ばされるように出てきたのはアイリーンだった。
「あ、あれは……」
「アイリーンさん?」
リサの言葉に続けて、ティナが声を出した。
アイリーンを追うように、空中に道ができていく。そしてその上をレナが走っていた。
空中に現れた道はレナの少し前をレナのスピードに合わせて造られ。そして一定の距離をおいて、地面からも支柱が出現していく。
「レナのあの魔力……」
リサはレナの異常な魔力を感じたようだ。
「レナは義手を外したみたい……」
「義手を……?」
「レナの義手は、自分の魔力を抑えるために特別な処理が施されている特注品」
「レナの義手? 僕が……レナの腕を無くしまう前はそんなことなかったのに……まさか……」
「うん、レナの魔力が今みたいになったのは……左腕をなくしてから」
アズサは言葉を選ぶように言った。
「ワタシ達の頭の中には、身体の動きや感覚を制御する器官があるみたい、そして魔力が宿る領域も……。レナは左腕を失うことで本来左腕の動きや感覚を制御している部分が使われなくなった。レナはその使われなくなった領域が魔力が司る領域に浸食されたみたい……ただ……」
「ただ?」
「本来は魔力が司る領域はほかの部分に比べてとても小さい、本来は小さいはずの領域が、左腕の領域を侵食して、レナの魔力を司る領域は普通の人の何倍も大きいみたい」
「それって……」
「リサのお父さんが生前研究していたこと、左腕を無くした後、様子がおかしくなったレナをお城の研究施設で見てもらったことがある」
「レナはどうなっちゃうんだ……」
「レナの身体は自分の魔力を支えきれない、魔力の消費に集中すれば大丈夫だけど、この状態で戦闘しているレナは初めてみる、最悪は身体の内側から魔力が暴走して……」
「レナ……」
アイリーンはレナを確認すると、ある方向に向かって合図を出した。すると隷属の首輪を装着した警備隊達が一斉にレナに向かって矢を放った。
レナはアイリーンに集中していたため、矢への反応がやや遅れた。
「危ない! アイアンバースト!」
リサはレナに向かって放たれた矢にスキルを放つ。矢は全て小さく破裂してレナに届くことはなかった。
さらに続けてリサは魔力を集中する。
「ここだ、アイアンバースト!」
リサの声と同時に警備隊に装着された隷属の首輪は小さな火花を散らせて、首から外れた。
そして警備隊達は隷属の首輪から解放されて、ふらつく者や、そのまま倒れる者がいた。
「ちっ、本当に余計なことばかりしかしない奴だよ!」
アイリーンは魔道具を使い、空中で体勢を立て直し、魔力を一気に込め始めた。
そしてリサ達がいる方向に狙いを定める。
「みんな! 逃げて!」
レナはリサ達の方向に向かって思いっきり叫び、スキルで壁を作成しようとした。しかし……。
「もう遅い!」
アイリーンが持つ金属の球体から鋭い光線が放たれた。
その光線は緑色で、細く、先ほどまでの光線とは別物で貫通性能だけに特化させたようなものに見える。
光線が向かって行く先はティナだった。
「ティナーーーー!!!」
リサは鬼気迫るように叫び声をあげると、とっさにティナを押し出した。
ティナに向かっていた光線の軌道上にはリサが変わって入る。
ティナを軌道上から外すことはできた。
リサは避けられそうもない。
緑の光線はリサの身体を貫いた。
身体には風穴が空いた。
リサは静かにその場に倒れこんだ。
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