第25話 第四十八番倉庫
レナは町の様子に違和感を感じながらも、みんなと解散した。
討伐依頼の達成報告はアイリが業務報告ついでにしてくれると言うのでお願いした。
達成報酬と解体して入手できるドラゴンの素材を合わせるといくらになるか、それでちょっと贅沢をしようか、東の町の温泉にでも行こうか等、少し気分をワクワクさせながら借りた馬車を返却したりと後片付けをした。
後片付けが終わり家に向かった。六日間ぶりの町は懐かしく感じる。今まで二日三日遠出することがあったが、帰ってくると決まってこの懐かしさを感じる。
しかし、今日は胸の奥底を絞めつけるような違和感を感じる。
気のせいか、家に近づくにつれてその違和感は奥底からレナを締め上げるような感覚に変わっていく。
知らぬ間に足早になっていく。嫌な予感がする。その予感は間違いだったと確かめたい。
レナは家に向かって走り出した。
レナは家の前につくと息を整えた。こんな息が切れた状態で家に入ったらティナは何事かと驚いてしまうだろう。心配かけてしまうかもしれない。
レナは深呼吸をして息を整えると家の玄関の扉を開けて「たっだいまー!」と威勢よく声をあげた。
家の中にはレナの声だけが響き渡った。レナは家の中を様子を見ると思わず息をのんだ。
家の中が何かが暴れたように荒れている。強盗が入って金品を盗んだような感じではない。これは争った形跡……?
レナは階段を駆け上がり、ティナの部屋の前まで行くと扉を勢いよく開けた。
ティナの部屋はしっかりと整理されていた。
レナは一呼吸置き、自分の部屋の扉をあけた。こちらの部屋もやや散らかってはいるがいつも通りだ。
レナは自分の部屋を出ると、辺りを見渡しながら階段をおりた。
この広間だけ様子が違う、ティナは……連れ去られた?
レナは自分の思考を整理しようとしていると、突然家の扉が勢いよく開けられた。
開かれた扉の方に目をやると、リサが必死の形相で息を切らせていた。
「はぁはぁ……レナ! ティナは?」
リサは何かに気づいているのか、なぜこのことを知っているのか。
何か手がかりがあったに違いないと、リサと視線を合わせたあと、家の中にリサの視線を誘導するようにレナは家の中に視線を移した。
「これって……」
リサは家の中を見ると戸惑いを隠せない様子だ。
「分からないわ、帰ってきたらこの有様よ……リサは何故ここに?」
リサはまだ肩で息をしていた。
「そうだ! レナ! いますぐ来てほしいんだ」
レナはリサに言われるままリサが現在住んでいる家に向かった。
家に着くと、リサは家の扉を開け、レナを中に入れた。
レナは家の中に入るとすぐ正面を見て驚愕した。家の中の壁一面には、赤い液体で文字が書かれていた。
『第四十八番倉庫へ来い』
レナの背中に寒気が走った。この文字に使われている赤い液体は何? レナは壁に書かれている文字を指で強めになぞる。液体は乾燥していて固まっていた。強くなぞったことによって、指についたわずかな液体の破片の匂いをかいだ。
よかった、人間の血の匂いじゃない。
レナはかつてリサが引き起こした事故のせいで人間の血の匂いには人一倍敏感だった。
だが、人間の血ではないだけ、これは明らかに生き物の血の匂いだ。それも最近覚えのある匂い……ドラゴンだ。
レナの家でティナが連れ去られたのだろうか。そして、リサの家に残るメッセージ。
以前、ダンが率いる炎狼にティナは誘拐されたことがあった。その時はレナがティナの姉だと思われたが、今回はリサにメッセージを残している。
リサとティナが姉妹だと知っている者の仕業か……。
これ以上考えても仕方ない、レナはリサに声をかけた。
「リサ、とにかく倉庫へ行こう、ティナもそこにいるような気がする」
「あぁ……」
レナとリサが家を出て倉庫へ向かおうとするとアイリがこっちへ向かって走ってきた。
「はぁ、はぁ、レナ! リサ!」
アイリは膝に手をついて肩で息をしている。
「ティナは無事か」
レナとリサは視線を合わせた。
「ティナは、連れ去られたみたい」
それを聞いたアイリは歯を噛みしめ「くっ」と声を漏らした。
「すまない、レナがいない間、警備隊がティナを守ると言ったのに」
討伐に出る前にレナはティナのことが気になって依頼を受けるか決めかねていた。
ティナは以前、ローブの人物に狙われて、誘拐されたことがあった。そのことで迷っていたところに警備隊がティナを警備すると申し出てきたのだ。
その警備隊はどうしたのだろうか? レナは訪ねようとしたがアイリの様子を見てただ事ではないことを察した。
「アイリ、何があったの?」
レナの言葉にアイリは言い難そうに声を出した。
「ティナの警護に当たっていたメンバーが全員、姿を消したんだ」
姿を消した? ティナを誘拐したのは警備隊ってことだろうか。
レナはアイリに聞き返そうとしたが、リサが先にアイリに声をかけた。
「姿を消したってどういうことだ?」
「すまない分からないんだ、今手が空いている者で探している」
アイリの言葉から察するに、警備隊は手がかりらしきものは手に入れてないようだ。レナはリサに視線を送ると、リサも同じことを考えていたのか、家の扉を開け、メッセージをアイリに見せた。
「こ、これは……」
アイリは家の中の赤い文字を見て、レナと同じことを思ったようで絶句していた。
「アイリ、大丈夫、人間の血じゃないわ、ドラゴンの血よ」
レナの声を聞くとアイリは一呼吸を置き、メッセージに視線を移した。
「第四十八番倉庫? そこはすでに警備隊が調査を済ませたはずだぞ」
警備隊はすでに第四十八番倉庫とよばれる場所をすでに確認しているらしい、何かの間違いなのか、レナ達はとにかく自分たちの目で見てみることにした。
目的の倉庫の前に着くとレナは気を引き締めた。警備隊はすでに調査をしていると言っていたが、壁に書かれている以上何かがあるに違いない。
レナ達は倉庫の中に入ると辺りを警戒しながら進んだ。日はまだ明るいが、倉庫の中は薄暗い。
この第四十八番倉庫は雑貨の荷物がびっしりと並べられている倉庫だった。急に視界の外から何かに襲われたら出遅れてしまう。
倉庫の中を一通り見終わったが、特に怪しいところはなかった。
「レナ、本当にここなのか?」
アイリは周りの警戒を続けながらレナに問いかけた。
「ここだと思う、前にティナが誘拐された時も……」
レナは何か間違っていないかと、右手の人差し指で軽く額を軽くつつきながら考え始めた。
「ただの倉庫にしか見えないよな」
リサが雑貨に手を伸ばし、ポーションの空き瓶を手に取りながら言った。
あ……第四十八番倉庫はここじゃない。
「ここじゃない」
レナはつぶやいた。
「どういうことだ?」
アイリは怪訝な表情を浮かべた。
「壁に書かれていた第四十八番倉庫はここじゃないわ」
「ど、どこなんだ?」
「壁に書かれていた倉庫の場所は、ポーション作成所の敷地内よ」
「作成所の倉庫か、確かにあそこは五十の倉庫がある」
しかし、ポーション作成所の倉庫を第四十八番倉庫と呼ぶ者なんて関係者くらいだ、レナは嫌な胸騒ぎを感じた。
レナ達はポーション作成所につくと、レナを先頭にポーション作成所内の第四十八番倉庫に向かった。
倉庫は作成所の裏手の目立たないところにあった。作成所内は、ほとんどの人が仕事を終えた後のようで人がいなかった。
この第四十八番倉庫は今は使われていなく、近々建て替えが予定されていた。今は立ち入り禁止になっていたはずだ。
慎重に倉庫の扉を開けるとレナ達は視線を合わせて互いにうなずき、倉庫の中に入っていった。
倉庫の中に入ると、中の物は建て替えのためか殆どが運び出されていてがらんどうとなっていた。
少し歩いたところで無数の矢がレナ達に向かって飛んできた。
「マテリアルクリエイト!」
レナはとっさにスキルで壁を作成し、矢を防いだ。
「な、なんだ!」
リサは驚いた表情でレナを見ていた。アイリは矢に気づいて、剣で矢を切り落とそうとしていたのか、腰に差していた剣を抜こうとしていた。
スキルを解除すると、そこには黒いローブとフード、そして不気味な仮面を被った人物が立っていた。
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