第24話 実食
夕方になると解体屋一行が到着した。
「よぉ! レナちゃん、かなりの大物をやったもんだな、超大型ドラゴンとはたまげたわ」
「おっちゃん!」
解体屋の一行は、ドラゴンを見ながら圧倒されているようだった。
「まさかストーンドラゴンとはなぁ、こりゃ大仕事だわな」
「しっかり頼むわよ! さっそくで悪いんだけどドラゴンの肉を二キロほど先に切り分けてくれる?」
「レナちゃん、さすがドラゴンイーターじゃねぇか、今日の夕飯かい?」
「おっちゃん、その言い方やめてほしいのよ……」
「そうか? 俺はいいと思うがなぁ、肉はすぐ切り分けてやるよ、あとで持ってってやる」
そういうと男は、肩がいいか、背中か、ケツか? などとブツブツ言いながらドラゴンの周りを歩き始めた。
しばらくすると男は切り分けたドラゴンの肉を持って来てくれた。その肉はあのゴツゴツした皮膚のドラゴンのものとは思えないほど赤く、立派なサシが入った肉だった。
「りっぱな肉じゃないか、これどこの部分なんですか?」
アイリが目を輝かせている。
「これは腰のところだな、いわゆるサーロインってやつだ、まぁドラゴンのサーロインがうまいのかは知らんがな」
「ストーンドラゴンの肉を食べるなんて初めて……」
アズサはアイリと違って恐る恐るといった様子だった。
「とにかく食べてみましょう、おっちゃん達もよかったら勝手に切り分けて食べてね」
「それはありがたいが、ストーンドラゴンの肉ってうまいのか? たまにどっかの貿易商が持ってくるのは見たことあるが、食ったことねぇしなぁ」
解体屋の男は悩んだあげく、レナ達が食べるところを見ることにしたようだ。レナ達が美味しいといえば自分もいただくつもりだろう。
レナは早速調理を開始した。ドラゴンの肉を焼くのに選んでスキルで作成したものは花崗岩のプレートだ。ダンのスキルで火を起こし、火の上にプレートを置いた。
「そろそろね」
プレートが熱されるのを見計らい厚く切ったドラゴンの肉を、六枚のプレートにそれぞれ乗せた。
ジューっという肉の焼ける音と、食欲をそそる香りが辺りに広がる。
その匂いに解体屋の男は我慢できねぇと、レナ達が食べるのを待たずにドラゴンのところへ走っていき、他の仲間に声をかけて調理を始めようとしている。
「ほぉ、これは確かにいい匂いだな、あのおやじの気持ちも分かるな」
ダンは焼ける肉の香りを楽しみながら、お酒を自分のグラスに注いでいた。
「僕にもちょうだいよ」
リサが酒を催促している。リサだけではない、みんな少しずつお酒を飲み始めた。ドラゴンとの戦いが一段落して緊張が溶けたのだろう。レナも調理をしながら少しお酒を口にした。
肉が焼きあがると、肉が乗ったプレートをそれぞれに配った。いよいよ実食である。
花崗岩のプレートに乗ったドラゴンの一枚肉がプレートの上でジューっと音を立てている。
ドラゴンのサーロインステーキだ。
ナイフとフォークをレナのスキルで六人分作成して、みんなに配った。
「さて、いただきましょうか!」
レナは肉にナイフを入れるとスッとナイフが通った。
「レナの作成したナイフ、切れ味いいな」
リサがそんなことを言った。
これは肉が柔らかいからなのよ、レナは突っ込みを入れようとしたが、肉を運ぶフォークを止めることが出来なさそうだ。もはや肉を欲する本能を止められない。
レナはフォークに刺さった一口サイズの肉を口に運んだ。すると口の中に肉の香ばしい香りがガツンと広がる。そしてレナの口の中を肉の香りが蹂躙を始めた。
サーロインのうま味がさすがドラゴンの肉といわんばかりに力強さを主張してきた。そして、その力強い肉に多めに振りかけた塩とコショウが肉の味を引き立てる。
「ストーンドラゴンの肉がこんなに美味しいなんてな」
アイリは一口サイズに切った肉を眺めながら感動に浸っているようだ。
「うまぁ……」
アズサの顔は土砂崩れを始めた。
ダンとエナは、それぞれが一人の世界に入って肉を味わっている。
「レナ……この肉……」
リサは何かを懐かしむような顔をしていた。
レナもどこか懐かしい味をじっくりと嚙み締めた。
「リサ……これ……」
「忘れるはずがない……レナ、町に帰ったらお願いがあるんだ」
リサは真剣な顔をしていた。その顔を見たレナはリサが何を言おうとしているのか理解した。
「もちろんよ、一緒につくりましょう」
リサはそれを聞くと笑顔になり、何かを思い出すかのように肉を食べ始めた。
次の日になると、レナ達は一足先に町に戻った。ドラゴンの解体に関してはレナ達ができることがない。解体は解体のプロに任せておけばいいだろう。
「じゃ、おっちゃん後はお願いね」
「おう! まかせておけ」
「ちょろまかしたら、ただじゃおかないわよ」
「ドラゴン倒すような連中相手に、そんなことしねぇよ」
レナと解体屋のいつもの挨拶をかわすと、レナ達は町への帰路についた。
帰り道は何も起きることがなく順調に進んだ。
途中、行きと同じようにダンとリサが走ったりしたが、やはり馬車のスピードにずっとついていくのは無理があったようだ。
休憩をはさみながら三日ほど馬車を走らせると街が見えてきた。さすがに計六日間の遠出は久しぶりで町が懐かしく感じた。
町に近づくにつれ、町の様子に違和感を感じた。
どこがと聞かれたら分からない。どこか胸の奥に訴えかけるような感じだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます