第16話 竜人化(1)
ふんふんふーんと、鼻歌を歌いながらレナは夕食の支度に取り掛かっていた。
先ほどまでレナ達は冒険者ギルドへの討伐依頼完了報告と解体屋への手続きを済ませ、リサが今日から住む家の掃除と、レナの家に一度は持ち運んだリサのベットや家具を持ち運んでいた。
「やっぱり、こっちに住まない?」とレナはリサに尋ねてみたが、
「僕がいると、ティナが怖がるから……もう少しだけティナを頼むよ」
リサは慣れない作り笑いを浮かべて答えた。
日が沈むころになるとリサはまだ片付けが終わっていない中、あとは一人でやるよと、レナとアズサを気遣ってか、解散となったのだった。
レナは、ティナをどのように説得すればいいのか正直言うとどうすればいいのか分からなかった。むしろ説得という方法でどうにかなる問題なのだろうか……。
レナですら、完全には消えていなかった恐怖感。
あぁどうればいいのかしら……。
とはいえ、ずっと落ち込んでいても仕方ない。レナは自分に言い聞かせるように、無理やり鼻歌を歌っては気分を紛らわせていた。
そして今日はリサに夕食の差し入れでもしてやろうかと、先ほどから調理を開始していたのだが、レナには気になることがあった。
ティナが一向に帰ってこないのである。
仕事の帰りの際、もう少し頑張ると言って残ったティナだったが、いくらやる気があると言っても魔力には限界があるのだ。
ましてや初日である。魔力の限界を感じ、もうとっくに帰ってきてもいいのだが……。
「ティナ、遅いわね……」
門限、なんてものは作っていなかったし、作る必要もなかった。
学校の友人達との交流もそこそこにして、日が沈む前には帰ってきて、夕食の準備の手伝いをしてくれていたのだ。
特に今日は仕事初日で魔力を使い果たし、早々に帰ってくるものとばかり思っていレナにとっては予想外であった。
いくらなんでも遅いのではないか? 魔力は使い果たした状態で無理をすると、人によっては意識を失ってしまうこともある。もしポーション作成に夢中になっていた場合、気づかずに魔力を使い果たしてしまったら……。
いやいや、それだったらポーション作成所の誰かが気付く。ましてや今日はアイリーンさんがいる、もしティナが倒れたとしたら連絡がくるだろう。
レナが思考を巡らせ、ちょっとポーション作成所に様子を見に行ってみるか? と行動に移そうかとした時、バン! っと家の扉は開けられた。するとそこには、アズサと息を切らせたリサが立っていた。
その様子をいったい何事? と感じて尋ねようとしたが。
「レナ! 大変だ! ティナが……」とリサが捲し立てるように言ったが、呼吸が荒く、言葉にうまくならなかった。
その様子を見ていたアズサが代わりに答えた。
「ティナが炎狼に誘拐された」
「なんですって!」
炎狼とは先日、ワイバーンが町を襲ってきた際に、そのワイバーンを角笛を使用して呼んだ盗賊達のことである。
本来なら炎狼は盗賊とは名ばかりで、盗み等はせずに賞金首などを相手にして生計を立てていると聞く。
最近では近くに住み着いた他の盗賊や、危険な魔物を国の依頼で討伐している等の噂も聞こえてくる。
そんな連中がティナを誘拐とはどういうことだ? それとも噂だけで本当は危険な連中だったのか……。
「スキルで町の様子を見ていたら、ティナを運んで行く連中を見つけた、昼間と同じ連中……」
アズサは明日の討伐依頼の予測をするために、スキルを使って毎日町の様子を見ることが日課になっていた。
そこで思わぬものを見つけてしまったわけだが。
「いったいなんのために……」
レナがつぶやくと空中で何かが光るのが目に入った。
それはものすごい速さでこちらに向かって飛んできている。
「危ない!」とレナは叫ぶと、それはアズサの顔の横を通り、家の扉のすぐ横に突き刺さった。
それは紙が結び付けてある一本の矢だった。
レナは矢を抜き、結び付けてあった紙を広げた。紙には文字が書かれていた。レナは文字を読み上げた。
『妹は預かった、返してほしければ町外れの西倉庫へ来い、このことを警備隊やギルドに報告したら妹を殺す』
レナは手紙を読み上げ終わると、それをくしゃくしゃに握りつぶした。
「あの連中! ティナに手を出すなんて、いい度胸してるじゃないのよ!」
レナはアズサにスキルで西倉庫と呼ばれる場所を見てもらおうとお願いしようとすると、すでにスキルで倉庫周辺を見ているようだった。
「いた、倉庫周辺を複数人で見回りしている」
「アズサ! リサ! いっちょ、乗り込んで痛い目を見せてやるわよ!」
意気込むレナとは対照的にリサは心配そうな顔をしていた。
「なんで、ティナが……」
それを見たレナはリサに声をかけた。
「大丈夫よ、必ずティナは取り返すわ……まさか、おじけづいたわけじゃないわよね?」
レナはからかうようにリサに発破をかけた。
「お、おじけづいてなんて! ……ティナは僕の妹だ、必ず助ける……」
リサは拳を強く握り、何かを決意したような顔で答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます