第15話 セレスティアアイ

 レナはギルドの前を通りかかった。


 リサとアズサのことが気になったレナは、ちょっと様子を見てみるかと、ギルドの中に足を運んだ。


 ギルドに入ると、混む時間は過ぎたようで人が少なかった。依頼掲示板を見ると、昨日アズサが言っていたミドリバジリスク討伐の依頼はなかった。


 アズサとリサは依頼を無事に受けることができたのだろうかと、少し不安になった。


 依頼掲示板をみてると、受付のお姉さんが声をかけてきた。


「レナさん、依頼を探しているんですか?」


 受付のお姉さんが声をかけてくるときは、ろくなことがないことが多いが今日はいつもと様子が違った。よく期限間近の余った依頼をよく押し付けてくるのだが、今日はそんな様子もなくただの暇つぶしのようだ。


「いや、朝にアズサが討伐依頼受けていかなかった?」


「アズサさんなら新しいメンバーの方と、ミドリバジリスクの依頼を真っ先にとって行かれましたよ」


 依頼を無事に受けることができたことに安堵したレナは、受付のお姉さんに場所を確認すると、ありがと、と言い残してギルドを出て、その場所に向かった。




 レナは教えられた場所につくと、リサとアズサを探した。町から少し歩いた森の中だった。この森は、以前レナとアズサが冒険者のランクがブロンズだった時に、剣や弓の練習に来た場所だった。あまり危険な魔物は普段はいなく、ブロンズでも二人であれば安全な場所であった。ほとんどの場合、アズサが前もって危険を察知していたというのもあるのだが。


 二人を見つけたレナは、すぐ二人に声をかけず、様子を見ることにした。今まさにミドリバジリスクとの戦闘が始まろうとしていたからだった。


 ミドリバジリスクは名前通り、体全体が緑色をしている大型の蛇だ。体長は二メートルから三メートルほどあり、人間の子供くらいなら丸のみしてしまうほどだ、そしてやっかいなのは毒液を口から飛ばすことだ。その毒液にふれただけで、マヒを起こして動けなくなり、そのまま腹の中というわけだ。そのミドリバジリスクが一匹だけでなく六匹ほどいるようだ。


「リサ、ワタシが弓で牽制していくから、スキをついてとどめを刺して」


 アズサの恰好は、以前と同じ、植物の繊維で作った紺色ズボンとシャツに、腰くらいまでしない短いマントを羽織り、腰に何本か矢が入った矢筒をぶら下げている程度で、相変わらずの軽装だった。そして白いミスリル製のリカーブボウが目立つ、これはあえて目立たせていることはレナは知っていた。そしてアズサの左目の瞳が紫色に変化する。


「オーケー! …だけど、巨大蛇気持ち悪いなぁ」


 そんなことを言うリサは、鉄製のショートソードを得物に、布製の灰色のズボンとシャツ、丈夫な革でできた胸から腹部まで覆う鎧を来ていた。レナはリサにお金渡すの忘れてたわ……と心の中でつぶやいた。なぜならリサが身に着けている装備は、ギルドに登録すると希望すればもらえる初期装備だった。だがリサはそれを気にしている様子はなかった。


「じゃぁ、はじめるよ」とアズサは素早く矢を構えて放った。その矢は一匹のミドリバジリスクに突き刺さった。周りのミドリバジリスク達はそれに驚き怯む。リサはアズサの矢に合わせて走り出し、怯んだ一匹をショートソードで切り付け、見事打ち取った。それを見たレナはなかなかやるじゃんと、興奮気味でつぶやいた。


 さらにアズサは素早く矢を三回放つ、その矢は見事に三匹に命中した。


「お見事!」とリサはアズサに声をかけると「気を抜いちゃだめ…避けて…毒液が来る」とリサに向かって声をかけた。


「え? うお!」とミドリバジリスクは毒液をリサに向かって吐き出したが、間一髪横に飛んで避ける。


「ミドリバジリスク相手に油断はだめ」とアズサは冷静に毒液を吐いたミドリバジリスクに向かって矢を放つ、その矢は、目に命中した。


「ありがとう、アズサ! これで最後!」とリサがそのミドリバジリスクにとどめを刺した。


 戦いが終わるとレナは心配するだけ無駄だったか、と感じた。


「あとは、ミドリバジリスクの素材を回収して終わり…そこにいるのは知ってるから、そろそろ出てくるといい」


 アズサはレナがいる木の陰に向かって声をかけた。


「あ、あら? やっぱばれてた?」


 レナは、頬をかきながら出て行った。


「いるなら手伝ってくれればいいのにな」


「いやぁ、準備してなかったからさ、こんな格好だし」


 レナは右手でロングスカートのワンピースの裾をつまんでひらひらさせた。


「でもリサ凄いじゃない、ミドリバジリスク相手に戦えてたじゃない」


「あぁ、前に鍛冶屋やってた時、親方に『武器を作る者が武器を扱えんでどうする』って言われてさ、ちょっと練習してたんだ」


「リサの親方、腕がいい、ワタシの弓もその人に作ってもらった……特注品」


 アズサは自慢するように手に持った弓を目の前で軽く振りかざした。


「アズサの弓、親方が作ったのか、なんで真っ白なんだ?」


 リサはアズサの弓をまじまじと見て言った。


「白くしておけば、敵の目を引き付けられるかなと思って、あと…かっこいいから」


 アズサはなぜか顔を赤くして答えた。


「アズサってさ、前からちょっと変なとこあるよな」


「そ、そうねぇ」




 レナ達は仕留めたミドリバジリスクを一か所に集め、素材を回収を始めた。


「アズサのスキルってなんなんだ?」


 リサはレナに素材の回収の仕方を教わりながらアズサに質問した。


 同じくアズサも素材を回収しながら答える。


「ワタシのスキルはセレスティアアイって呼ばれている。いつもの視界に追加して上空から見ているような視界が追加される」


「それって気持ち悪くならない?」


「最初は酔ってとても使い物にならなかった、セレスティアアイはそんなにめずらしいスキルじゃない、大体の人は使うと酔って、それから使わなくなる人がほとんど」


「ふーん、攻撃が来るっなんで分かったの?」


「セレスティアアイは、昇華させるとほんの少しの未来が見えるようになるの、でも理屈が難しい、十秒後と一分後の未来を見て、十秒後の未来に干渉すると、一分後の未来が変わることもあるから、みんなに伝えるのはギリギリ先の未来だけにしている」


 アズサはそういうと素材の回収が終わったようだ。


「ふーん、そうなのか…」リサは理解できたのかできなかったのか、そこで質問をやめてしまった。


 一通り素材を回収すると「あとは、解体屋に運んでもらいましょ」とレナは言った。


「うん……リサ、お金が入ったら装備を整えるといい」


「そうだ、ごめんね、朝起きたら、いなかったからお金渡せなかったの」


「ワタシのお金を貸すと言っても、これでいいって受け取らなかった、装備は命にかかわるから、しっかり揃えた方がいい」


「大丈夫、そろえるよ、実は欲しい装備があってさ」


「そうね、装備は愛着あったほうがいいもんね、でも、ちゃんとしたものを買うのよ」


「あぁ、それは大丈夫さ!」


 レナはリサの言葉にもしかしたら、と心当たりがあった、それを聞こうとしたとき、アズサが警戒を始めた。


「…シッ、だれかが近くを歩いている……一人じゃない」


「…他の冒険者?」


 レナは辺りを見渡したが、誰もいない。


「多分違う」


 アズサは両目をつぶった、上空の視界に集中したようだ。


「あれは……多分……炎狼」


「炎狼? ……なんで盗賊が?」


「分からない……でも、最近変な動きをしている、昨日のワイバーンも炎狼が呼んだみたい……」


 ワイバーンか、レナはスキルを持っていたワイバーンのことを思い出していた。スキルは人間特有の能力と言われている。それが魔物であるワイバーンが使えるとなると、今まで研究者が研究してきた内容がひっくり返るのではないかとレナは思った。


「こっちには来ないみたい…」


「じゃぁ、今のうちに町に戻ろうか」


「ギルドにはこのこと報告するのか?」


「盗賊がうろついていた程度の報告では、何もならないと思うけど、報告するだけしとこうか」


「分かった」


 三人は町に向かい、解体屋への手続きと、ギルドへの依頼完了の報告、ついでに盗賊たちのことも報告した。


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