第12話 私の夢

「じゃぁ、今日はごちそうさん」


「リサ、また明日」


 夜も更けた頃になるとパーティが終了した。


 レナとリサは調理場の前に立っていた。レナは申し訳なさそうな顔をしている。一方リサは呆れたような顔をしているがどこか懐かしいといった顔をしていた。


「これはいったい……」


 調理場を見渡すとそこには見るも無残な光景が広がっていた。


「あ、いや、その……」


 レナはおびえる小動物のように小さく縮こまっていた。レナは洗い物ができない。どういうわけか洗い物を始めると体中がかゆくなるのである。


「相変わらず洗い物ができないんだな、しょうがない、僕が片づけるよ」


 リサがそういうと料理場を片付けを始めた。


「ありがとう、リサ」


 こればっかりはどうにもならないと、素直にリサにお願いした。レナは申し訳なく感じながらもこの光景を懐かしく感じた。


 レナはテーブルに置いてある残りの皿を運んだ。


 リサは手を止めていた。何かを考えているようだった。そしてリサの口が開いた。


「レナ、僕しばらくあっちの家で暮らしていいかな?」


 レナの鼓動は一瞬だけ強くなった。


「……」


 レナはすぐに言葉を返すことが出来なかった。


 やっと三人で暮らせるかと思った。しかし今日のティナの反応はそれが許されるものではないのかもしれない。


 いい言葉が出なかった。レナは自分の感情を押し殺した。


「そっか……」


 レナは一言だけ声を発した。


「……たまに、夕食食べに来てもいいかな?」


 リサはレナの様子を感じ取ったのかもしれない、不安そうな顔をして言った。


 リサを不安にさせてしまったと少し後悔し、ゆっくりと一呼吸をすると


「もちろんよ」とレナは笑顔で答えた。




 洗い物が終わって寝る準備を済ませるとリサはフカフカ……とも言えないレナの木製のベットに横になりながら満面の笑みを浮かべていた。


「レナ、いいのか? ベット使っちゃって」


「いいよ、気にしないで」


 リサは今日一日だけ泊まることになった。


 リサは今日からあちらの家に行くと言ったが、レナはあちらの家からリサの物を全てこっちに移していたのだった。そのためあちらの家で寝泊まりするのは不便だった。


 リサ用に用意していた部屋があったが、リサが一緒に寝ようと言い出したのでレナの部屋で寝ることになった。


 レナは冒険者の仕事の際に使用する、野宿用の厚手の布を体にかけ、横になっていた。


「レナ、体痛くならないか? 大丈夫か?」


 リサはまさか床に布一枚で寝るとは思ってなかったようで心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫よ、冒険者の仕事をするときによくやるのよ、もう慣れたわ」


 レナはアズサとたまに野宿をしていた。そのため硬い場所に寝るのは慣れていた。


「レナは、なんで冒険者なんて始めたんだ?」


 リサは横になりながら天井を見つめながら言った。


「んー……一つは義手のお金払うためかな」


 レナは一瞬迷ったが隠してもしょうがないことだろう、義手のことはティナもアズサもアイリも知っていることだ。


 ここで黙っていても、そのうち知ることになる、ならば自分が言ってしまった方がいいと話すことにした。


「それって…」


「勘違いしないでね、義手ならもっと安いものがあったのよ、でも私はこれを選んだの、これは私の都合なのよ」


「その義手、特別なものなのか?」


「そうね……私が私でいるために必要なものかな」


「レナがレナでいるため?」


 リサはレナの言っていることがうまく理解できなかったようだ。


「うん」


 レナは話をそのまま続けた。


「二つ目は、まぁ」


 レナは少し言いにくそうだったが言ってしまえという感じで続けた。


「少し、余裕のある暮らしがしたいじゃない?」と苦笑いをするように言う。


「え?」


 リサは何があるのかと構えていたようで、案外単純な理由だと拍子抜けしたようだ。


「なによーその顔は、ティナもいるんだし少しは余裕のある暮らしのほうがいいでしょ」


 レナは抗議するように言うと、リサは改まったように


「ティナ……大きくなったな、ありがとうティナを育ててくれて、レナには本当に感謝してるよ」と答えた。


「じゃ、ティナの分はリサに返してもらおうかな?」


「え! や、やっぱり冒険者として頑張るしか!」


「冗談よ」


「えぇ!」


 二人は笑い合った。


「レナ、また三人で家族としてやっていけると思う?」


「私の夢はもう一度三人で家族になること」


「レナの夢? 僕の夢も同じだ」


「じゃ、三人の夢ね」


「三人…ティナも?」


「うん……ティナはリサを嫌いなんじゃないのよ、それだけは分かってあげて」


「うん」


 それからしばらく無言が続いた。


 レナはまどろみの中でリサの声を聞いた気がしたが、そのまま深い眠りへと落ちていった。



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