第11話 リサ(5)
レナはティナの部屋の扉をノックすると、扉が開いた。
ティナの目は、少し赤くなっているようだった。
「ティナ、ご飯作ってきたわよ、入っていい?」
「はい…」
レナは、ティナの部屋へ入ると、机の上に料理を置いた。
ティナの部屋は綺麗に掃除がされており、窓側にはベット、その反対側には机と本棚、そして机の上には、光の灯ったランタンが置いてあった。
「ティナ、気が向いたら下へおいで、みんないるからさ」
ティナは、無言のままうなずいた。
「ティナが今日、どんな思いで過ごしてきたのか、少し分かったわ」
「……」
ティナは無言だった。しかしレナは話を続けた。
「正直言うと、私も少し怖い」
「……レナさんも?」
「うん、でも私はそのうちどうにかなるかなって、思うようにしたわ」
「そのうち?」
「悩んでも、こればっかりは仕方ないかなってさ」
「レナさんは、強いから」
「私は…」
私はそんなに強くないよ、と言いかけたが、レナはそれを言わなかった。
「そう見えるのはみんながいてくれたかな、みんなが支えてくれるから強く見えるのかな、もちろんティナも私を支えてくれてる」
「私も?」
「そうよ、そしてティナが苦しいときは私が支えるからさ、もちろんみんなやリサだって、ティナが大変な時はみんなが助けてくれるわ」
「……」
ティナは無言だった。しかしレナはティナのわずかの心の変化を感じたようだった。
「さぁご飯にしようか! 気分が落ち込んだり悩んだりしたときは、一息ついておいしいもの食べよう」
ティナは料理が置かれた机の椅子に座るとじっと料理を見つめた。
「このワイバーンの角煮、リサもアズサもおいしいって言ってくれたわ、食べてみて」
「わ……ワイバーン……」
ティナはワイバーンの肉が世間ではなんと言われているか知っているようで、一瞬怪訝な顔をしたがナイフとフォークを手に取り、ワイバーンの角煮にナイフを通した。
「やわらかい」
「でしょー! 食べてみて」
レナは緊張気味でティナの口元に運ばれていく角煮を見ていた。
ティナは角煮を口に入れ、ほんの数回噛んで飲み込んだ。
「おいしい、口の中で溶けた」
レナはほっとして、緊張を緩めた。
「これからリサにはいつでも会えるわ、無理しないでこの角煮みたいにティナの心も、解かしていきましょ」
レナは、母のような優しい笑顔でティナを見つめた。
「レナさん……」
レナはよし決まった! と小さくガッツポーズをとった。
「レナさん……ちょっと、それはないと思います」
「え……あはは」
「レナさんってちょっとだけ言葉のセンスがないんですよねぇ、それに針のむしろでしたっけ? 必殺技のネーミングセンスもちょっとなぁって思いますよ」
「あー、ダメかなやっぱり、アズサにも言われたわ」
ティナの言葉はやや辛辣だったが、レナはいつもの調子が戻ってきたと少し安堵した。
「足りないものあったら言ってね、いっぱいつくったからさ」
その言葉にティナは、何かを思い出したようだった。
「わたし、お酒飲んでみたいです」
「そっか、学校も今日で終りだもんね、また今度みんなでお祝いしましょう」
「ありがとうございます」
「今日はアズサが美味しいお酒買ってきてくれたわよ」
「楽しみです」
「でも、初めての人は一気に飲んじゃダメよ、それで倒れる人結構多いんだから」
「レナさんみたいにですか?」
ティナはレナをからかうような顔をしていた。
「え! お、覚えていたのね」
「忘れるわけありません、あの時は大変でした、町中でスキルを使って暴れまわって警備隊の人たちが総動員でしたしね、あのままお城がまるごと潰されると思いましたよ」
「いやーさすがにあれ以来お酒はほどほどにしてるわ、ティナもほどほどにね」
「はーい」
レナはお酒を取りに部屋を出ると、リサがワインが半分ほど入ったビンと空のグラスを持って部屋の前に立っていた。
「ティナ、どうだった?」
リサは心配そうな顔で訊ねてきた。
「うん心配ない、大丈夫よ」
そういうとリサは「そっか」と安堵した表情を浮かべた。
「それは?」
レナはリサが持っているワインについて尋ねた。
「アイリが持っててやれってさ、ティナ今日で学校終わりだったんだな」
リサはワインの入ったビンとグラスをレナに渡す。
「そう、明日から仕事、私と同じポーション作成よ」
レナはティナの部屋にもう一度入り、ワインを渡して部屋を出た。
「仕事かぁ」
「リサは何か紹介してもらったの? それとも前と同じ鍛冶の仕事?」
「いや、僕はしばらく検査しながら様子見だってさ、それで問題なければ紹介されるみたいだけど、前と同じ鍛冶職人でもいいんだけどな」
レナ達が階段から降りると、アイリとアズサがローストビーフとコンソメスープを四人分準備して綺麗に並べていた。
「よし、改めて乾杯だな、リサの施設卒業おめでとう」
アイリがそういうとアズサは新しいワインを開けた。
みんなにワインが行き渡ると、みんなで「カンパーイ!」とグラスを合わせ、キンっと楽し気な音が響いた。
「なぁ、アイリってどうやって警備隊に入ったんだ?」とリサが尋ねた。
「なんだ? 興味あるのか?」
「ちょっとな」
「そうだな、あたしはお前らとは違ってスキルが発現してないからな、入隊試験を受けて合格して入ったさ」
「入隊試験かぁ」
「興味あるなら推薦状書いてやるぞ? リサならそのまま決まると思うしな、なんだったらレナとアズサの分も書いてやるぞ?」
それを聞いてアズサは固まった。
「え、遠慮しとくわ」とレナが言った。
「二人とも合格間違いなしだと思うんだけどな」
レナは警備隊が毎日している訓練の厳しさを考えてとても勤まらないと思った。
アズサもおそらく同じことを思ったはずだと、アズサを見ると自分がその訓練をしているのを想像したのか、顔が青くなっていた。
合格間違いなしと言ったのはスキルを含めてのことだろう。
「私は本職と冒険者の仕事があるから」とレナは警備隊は遠慮するという意味を込めて言った。
「冒険者ってのもいいよな」
リサはつぶやいた。
「冒険者……結構大変、普通の職につけるならそっちのほうがいい」とアズサが答えた。
「そうなの?」
「まず、ブロンズランクから始まるけど、そこから依頼の争奪戦があってまともに稼げない、それに運よく依頼を受けてもお小遣い程度の薬草採取ばかり……」
アズサはそう言いながらレナに視線を向けると、レナはアズサから視線をそらした。そしてアズサは引き続き話を続けた。
「まとまったお金が入ってくるのはシルバーランクから、だけどシルバーランクから依頼の難易度が一気に上がる、それで無理した冒険者が死亡するケースが後を絶たない」
「んー大変なんだなぁ……あれ? 二人のランクって? ワイバーン倒したとか言ってなかったか?」
「ワタシとレナはシルバーランク、でも、昇格できたのは運がよかっただけ、冒険者登録は誰でもできるから、するだけしてみてもいい、もしかしたらワタシ達みたいに運よく昇格できるかも」
「そうだなぁ、明日ギルドに行ってみるかなぁ」
「ま、正直な話、リサが冒険者になったら、すぐシルバーに上がるかもな」
アイリはワインを一口飲んで言った。
「ん? どうゆうこと?」
「リサが冒険者になったら、レナとアズサと三人で行動することもあるだろ? その場合シルバーの依頼を受けることになるだろうからな、そんなことしてればギルド長の目にとまるだろうさ」とアイリは肩をすくめた。
「そんなことしたら、ほかの冒険者の妬みの的にされる、それはあまりおすすめできない」
アズサは意味深に言った。
「まぁそうだなぁ、特に二人は目立つし、その分他の冒険者の憧れの対象になったり、妬みの対象になったりもするからな」
「へ?」とレナはローストビーフを食べながら、とぼけたような声をあげた。
「私は気にしてないわよ、それよりも人を妬む時間があるなら、自分を磨けって感じよ、まぁ今はもうそんなこと言ってくる連中なんていなくなったけどね」とレナは笑い飛ばした。
「うん……最近はいない、でも心のどこかで思ってる人はどっかにいる、それがリサに向かったら……」
アズサは心配そうな顔をする。
「大丈夫、そんな暇な連中のこと気にすることないわ、もしリサを傷つけるようなことしたら、みんなで仕返しにいくわよ!」
「おいおいみんなってあたしもか? あたしは止める立場なんだが」
アイリは勘弁してくれと言ったような顔をして言った。
「何言ってるのよ、アイリが止めてくれるから私は思いっきり暴れられるのよ、ちょうどいいころ合いで止めてくれればいいわ、ちゃんと止めるから」
「そうかそれなら存分にやってくれ!」
とりあえず交渉は成立だ、といった感じでアイリは満足したようだ。
「ありがとうみんな、僕のこと考えてくれて」
「明日ギルド行くならワタシも付き合う、もしかしたらシルバーの依頼受けれるかも、一緒にやろう」とアズサはリサを誘う。
「なんかいたのか?」とアイリは警備隊の都合上興味があるようだ。
「ミドリバジリスクが町の近くをうろついていた、多分明日討伐依頼が来るはず」
「じゃぁ早めにいったほうがいいか?」とリサは尋ねた。
「大丈夫……今この町にはシルバー以上は少ない、ほっといてもしばらくなくならない」
「そうね、シルバー以上はほとんど義勇兵として戦争に行っちゃったしね」
「義勇兵なんていつ帰ってこれるか分かんないし受けるもんじゃない、あたしが言うのもなんだけどさ」
「私たちは町の警備手伝うって言って断っちゃった」
「……そのせいで、ワイバーン討伐させられた、あれは受付のお姉さんの罠」
「そうなの? まぁいいじゃない、おかげでおいしい角煮が食べれるんだしさ」
レナはそういいながら角煮をほおばった。
「ドラゴンイーターの二つ名もついたしな」
アイリはからかいながら言うと、レナは食べた物が喉につっかえたようで、むせてしまった。
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