第8話 リサ(2)
レナ達が訪れたのはレナの家からそう遠くない一件の家だった。その家は正方形の形をしている二階建ての木造の建物だった、その家を眺めてリサは「前と変わっていないね」と懐かしむように言った。
「中に入ってみる?」
「入れるの?」
「今、この家の所有者は私ってことになってるからね、入ってみる?」
リサにとってこの家は思い出の場所と同時に最もつらい場所のはずだ。
「今は、無理しなくても、今度からはいつでも来れるし」
レナはリサを気遣うように言った。
「いや、入るよ、僕は逃げちゃダメなんだ」
リサは何かを決心するようにこぶしを握った。
レナもそんなリサを見て気を引き締める。
「じゃ、はいるわよ」
レナは玄関の扉をゆっくり開けると、リサを先に入れた。
リサはゆっくりと家の中に入った、中は入口のすぐ左に二階への階段があり、正面は広間になっていた。その奥に料理場と洗面所があった。
リサは一通り見て回ると、ゆっくりと静かに息をはいた。広間には本棚がおいてあり、その本棚から一冊の本をとりだした。その本を見つめ懐かしむようにつぶやいた。
「なにも、変わってないね」
「ティナがね、たまに掃除をしてくれてるみたいなの」
「そうなんだ……ティナこそ、つらい場所なのにな」
「ティナは、まだ、心の整理ができていないみたい、だけど、きっとまた……」
レナは、自分の右腕が震えているのを感じた。レナはそれを我慢するように義手の左手で右手を撫でた。一人でここに来たり、ティナと一緒にここに来たときはなんともなかった。だけど、今、リサと二人だけでここにいることによって、無意識だが、恐怖を感じているのだろうか、何とも言えないむなしい感情がこみあげてきた。
「その左手、あの時の傷だろ? ……僕があの時、しっかり制御できていれば、ごめん」
リサはレナの左手をみて、うつむいた。
確かに、リサが制御できていれば左腕はなくならなかった、そして、あの凄惨な事故も起きなかった。だけどそれを攻めるのは違う、あの状況では誰であれ制御は無理だ、あれだけの力が急に発現し、暴走すれば、誰であろうが、たとえレナであったとしても、もしもの時は頼りになるアイリでも、そしていつも冷静で抜け目のないアズサであっても無理だ。
「あやまらないで、確かに左腕は無くなっちゃった。だけどね、大切なものに気づくことができたの、そしてみんながいるわ、もちろんそこにはリサもいる、そして私はリサのそばにいるつもりよ」
リサはレナの言葉を聞くと、鼻をすすりながら、服の袖で顔を隠しながら
「レナ、ありがとう」とつぶやいた。
「リサ、三年のうちに少し泣き虫になったんじゃないの?」とからかうように言った。
「レ、レナが変なこと言うからだろ」とリサは顔を真っ赤に染めた。
レナが家から出ると、空は夕焼け色に染まっていた。
「もうこんな時間、帰ってパーティの支度の仕上げをしないと」
レナは夕焼けに染まる空をまぶしそうにながめた。
リサは遅れて家から出てくると、同じく夕日をながめた。
「レナ……僕、やっぱりまだ、ティナと会うのは……」
リサはまだ、あの日の事故以来、会っていない妹とどんな顔をして会えばいいのか、分からない様子だった。それをレナは察すると
「ティナも今日、会うことは知っているわ、心の準備くらいはしてるわ」
レナは今朝、ティナの『あの人はお姉さんなんかじゃない』という言葉を思い出したが、ティナも分かっているはずだと、ティナを信じることにした。
スキルはいつ、どこで発現するか分からない。予兆がなく突然発現する、しかし、大体の人はその瞬間には気づかない、ごくまれに、強力な素質を持った者が、その強力な力の急な暴走を制御できず、事故を起こすことがある。その事故の種類は様々だが、リサの場合は記録上で最も凄惨な事故として扱われ、施設に三年も入ることになった。それはリサを責めればいいものではない。本人の意志とは関係なく、起きたことなのだから。
そう、ティナも分かっているはずだ、と自分に言い聞かせた。
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