第7話 リサ(1)

 レナは、町はずれにある建物の前に来ていた。


 その建物は黒い石造りの大規模な建造物だった。


「まるで監獄ね……」


 レナはつぶやいた。


 


 それもそのはずだ。


 


 建造物は、さらに周りを柵で囲まれていた。その柵は金属と思われる太い棒で作られていた。


 


 さらに中からも外からも、出入りができるのは、今レナが立っている出入口一か所のみとなっていた。しかもその出入口は、重厚な扉が外部からの侵入を拒むかのように立ちはだかっていた。いや、内部から……言ったほうが正しいのかもしれない。


 


 だが、決してここは監獄と呼ばれる類の施設ではない。


 危険性のあるスキルが発現した者が、スキルを制御できるようにするために、訓練する施設である。


 危険度によって施設での訓練期間は変わる。


 危険度はスキル自体の危険性に加え、本人の性格や凶暴性、場合によれば前科など、色々な要素を総合的に判断され決められる。


 危険度が低いと判断された者は、ほんの数時間で訓練が完了し、希望があればスキルを生かせる仕事、例えばポーション作成などの仕事を紹介してくれたりもする。


 だが、今レナが待っている人物の危険度は最高ランクで訓練期間は最長の三年だ。


 危険度の判定は、スキルの危険性のみで判定された。それだけ危険性の高いスキルが発現した。


 レナは久しぶりの再会に緊張した。


 どう言葉を交わせばいいか分からない。不安な気持ちもあった。


 訓練期間中の面会は、一切禁じられた。


 それは訓練期間中は精神が不安定になる者が多く、思わぬ事故を誘発してしまう危険があるからということらしい。


 レナはこの閉鎖空間に長期間いれば当たり前だろうと抗議したこともあった。だが何も変わらなかった。




 やがて、重厚な門がゆっくりと開かれた。中から大きなカバンを背負った一人の少女がゆっくりと歩いてきた。


 その姿は水色の髪を肩まで伸ばしていた。


 三年間、室内にいたせいか肌は白かった。


 レナが施設に送った布製の茶色いズボンと白の長袖のシャツを着ていた。


 スキルの使用を制限してのことだろうか、左目には黒い眼帯をつけていた。


 眼帯を付けていない右目は大きく、そしてその瞳には、レナの姿を映し出していた。


 三年ぶりのリサの姿だ。




 リサは、レナの前で止まると、ゆっくりとレナを見つめた。


 数秒の間、二人の間に沈黙が流れた。


 お互いの存在を確認し合うようだった。




 先に声を出したのはリサだった。


「レナ? ……」


 リサの声だ。三年前より少し大人びている声だった。だけどどこか、あどけなさが残る声だった。


「おかえりなさい」


 レナは笑顔で答えた。


 リサの右目から涙が流れた。


「レナ……僕は……僕は……」


「リサ……もういいのよ……もう……」


 レナはリサの頭にそっと右手を置いた。




 リサが落ち着くと、レナは口を開いた。


「リサ、今夜はみんなであなたが帰ってきたお祝いをしようと思うの」


「みんな?」


「そう、アズサにアイリにティナ、みんなでよ」


「……ティナも……」とリサはつぶやきうつむいた。


「お祝いの前に三人で少し話をしましょう」


 リサはしばし無言だったが、何かを決心したようだった。


「わかった、だけどその前に、行きたい場所があるんだ、一緒に来てくれないか?」


「いいけど、どこにいくの?」


 するとリサは空を見上げながら答えた。


「僕たちの、思い出の場所さ」


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