第4話 マテリアルクリエイター(4)
レナは走って噴水に向かうと、そこにはすでに多くの見物人がよし寄せていた。
まったく、ワイバーンが来るってのにみんな呑気に野次馬なんて、と思ったが、レナもそこにつくと、理由がわかった。
噴水の正面にあるのは町の住民の様々な物を預かっている預り所という施設があった。そこは物ばかりではなく金銭も預かってくれる場所であった。
そこに向かって町の警備兵が取り囲んでいた。その取り囲んでいる警備兵の中にレナの親友の一人のアイリがいるのをレナは見つける。
アイリはレナより二歳年上で、藍色の髪のロングヘアを後ろで纏めている、顔はキリっとしてて頼りがいのある女性という感じだった。
身体は警備兵だけあって鍛えているのかレナよりやや太く見え、革製の茶色のズボンとシャツにその上から、胸当てや膝当てにブーツという装備をしていた。
「アイ……」
レナが声をかけよう近づいた瞬間、アイリは預り所に向かって叫び始めた。
「コラー! さっさとでてくるんだよ! 逃げ場なんてないんだよー!」
レナはアイリの近くまで来ていたため、アイリのあまりの声の大きさに耳を塞ぐ。
「ん? レナ?」
隣で耳を塞ぐレナにアイリは気付いた。
「何が起きてるの?」
状況が呑み込めないレナはアイリに状況を尋ねた。
「あの中を見てみな」
とアイリは預かり所の方を指さす。
指を差された木造の建物の中を見ると、中には数名の男たち立てこもっていた。
その男たちはタトゥーをしていて、レナはそのタトゥーには見覚えがあった。
「あのタトゥーは、炎狼?」
「あぁ」
「でも炎狼って今までこんなことしなかったのに」
「奴ら、こんなつまらないことしないと思っていたが、ついでに角笛なんか持ってやがって、ワイバーンなんか呼びやがった」
「そうだアイリ、私、ギルドにワイバーン退治を依頼されてきたの、ワイバーンはどこ?」
「ギルドからの依頼か、ワイバーンなら今、あっちでアズサが見張っている、こっちは私たちに任せてくれ」
アイリはアズサのいる方向を指さす。
「わかった、気を付けてね」
「それはこっちのセリフだ、気を抜くなよ」
レナはアイリが指差した方向に人をかき分けながら向かった。
「ぬぅ、みんなこっちに避難してくる」
所々で警備兵の避難を呼びかける声が聞こえ、少しづつだが人が避難してくる。よりによってレナの方向に向かってきている。
「ちょっと、わだじをどおして」
レナは何とか人をかき分けアズサの元へとたどり着く。
「だはぁ、やっと着いた」
「レナ、来てくれると思ってたけど……遅い、もう少しでワイバーンが来る」
「ごめーん、アズサ、であとどのくらいで来る?」
アズサは何もない空を見上げる、するとアズサの瞳が紫色に変化する。
「あと一分…準備して」
何もない空を見て答えたアズサを少しも疑うことなくレナは「よし! 気合入れますか、アズサもサポート頼んだわよ!」と気合を入れなおす。
「まかせて……」
と気が抜けたようなしゃべり方をするアズサと呼ばれた少女は、レナと歳は同じで身長はレナの胸くらいまでしかない、銀色の髪のセミロングで目はいつも眠そうな目をしている。服装は受けることより避けることを重視したような軽装で、レナと同じ植物の繊維で作った紺色ズボンとシャツに、腰くらいまでしない短いマントを羽織り、腰に何本か矢が入った矢筒をぶら下げている程度だった。印象的なのは武器として持っている弓は木材ではなくミスリル製の白いリカーブボウだった。
一分たった頃になると獰猛な獣の鳴き声が聞こえてきた。
「来る……」とアズサはつぶやく。
その鳴き声を聞いた町の人達は悲鳴をあげ一気に避難が加速する。
ぎりぎりになって慌てて逃げてるんじゃないわよ、とレナは内心悪態をつくが、ワイバーンに集中する。
二匹のワイバーンの姿は遠くに現れたが飛行速度が速く、みるみるうちに近づいてくる。
ワイバーンをみたアズサは弓を引き、「牽制……」と矢を放つ。
矢は大きく弧を描きワイバーンに向かっていくが、ワイバーンは矢をかわしてしまう。
「レナ、右に避けて、何かくる」と言った瞬間一匹のワイバーンはこちらに向けて羽ばたき始めた。
レナは「あいよ!」と言いながら右に飛ぶように避けた。
その瞬間、レナの横を突風が通り過ぎ、後ろにある木が鋭い刃に切られたかのように縦に真っ二つに割れる。それを見たレナは「え? スキル? なんでワイバーンがスキル持ってんの?」と声を漏らす。
「おそらくあれはエアロコントロール、しかもあの威力は昇華されてる、あのワイバーンがなぜスキルを使えるか不明だけど、あれに当たったらワタシ達も真っ二つ」
「もう、やっかい極まりないわね」
もう一匹のワイバーンがレナに空中から突進を仕掛けてくる。レナはそれをぎりぎりでかわすと、ワイバーンはレナの後ろに回り込み羽ばたきを始める。がれきが風に飛ばされて向かってくるが、レナはまた横に飛び回避する、背後にある木を確認すると、風にあおられるだけで切られることはなかった。ワイバーンが放った突風は翼の力のみで起こした風のようだった。
「どうやら、スキル持ちは一匹だけのようね」
レナはどうやって二匹のワイバーンを片付けようかと考え始める。ワイバーン自体やっかいだが、スキル持ちだとさらにやっかいだ。
「ここは、スキル持ちの方をまずは一撃で仕留めるか」
ワイバーンは二匹が離れてレナ達を包囲するように、スキル持ちが右で、スキル無しが左でそれぞれ空中で羽ばたいていた。レナはアズサに指示を出す。
「アズサ、スキル持ちの方に矢を打って挑発して、そして十秒後の位置を教えて!」
「わかった……」
アズサは矢を引くと同時に、瞳が紫色に変化を始めた。
アズサは「レナからみて、二時の方向に十一メートルの地点、高さ十八メートル」と言いながらタイミングを見計らい矢を放つ。矢は弧を描きスキル持ちのワイバーンの方へ向かっていく。ワイバーンはその矢を避けたが、こちらへ空中から突進してくる。
レナは魔力を溜めてつぶやき始める。
「素材はミスリル、形状はボックス」
ワイバーンは魔力に反応したのかレナに向かってくる。
先ほどアズサが予想した位置に差し掛かったとき、レナは叫んだ。
「マテリアルクリエイト!」
するとワイバーンを囲むように分厚いミスリル製の壁が現れた。
さらにレナは叫ぶ。
「必殺! 針のむしろ!」
ミスリル製の壁に囲まれたワイバーンは悲鳴のような鳴き声を上げた。
その声を確認したレナは魔力を解除すると、囲んでいた壁は消え、ワイバーンが倒れ込んだ。 ワイバーンはいたるところに刺し傷があり、一つ一つ体を貫通しているように見える。
「よし! まずは一匹!」とレナは残りの一匹に目を向ける。
「レナ、さっきと同じの、もう一度いける?」
レナは自分の魔力量を確認するが「ごめん、ちょっとやりすぎたわ」と答える。
「でも、これなら、材質はアダマンタイト、形状はグラディウス」
すると、レナの右手に剣が現れた。
「アズサ! いくわよ!」
レナはワイバーンに向かって一気に走り出した。
「急に走り出されると、サポート大変」とアズサはつぶやきながら弓を構える。
アズサは矢を一本撃ち、ワイバーンを挑発する。そして素早くもう一本の矢を構える。瞳の色は紫色を維持しており、矢を射るタイミングを見計らっている。
レナはワイバーンの羽ばたきによる突風をかわし、徐々に近づいていく。アズサが「ここ」とつぶやきながら構えていた矢を放つ。すると矢はワイバーンの目に突き刺さった。
ワイバーンは悲鳴のような声をあげて、地面に着地し、後ろへ下がる。
レナはワイバーンの足に向かって横一線に切り付ける。ワイバーンの足に深く切り傷が入る。
「さすが、アダマンタイトね」とつぶやき、今度は崖を駆け上がるかのようにワイバーンの体を駆け上がり、ワイバーンの頭に乗る、そしてすぐさま、持っている剣でワイバーンの頭を突き刺した。ワイバーンは痛みのせいか暴れ始める。
レナは暴れるワイバーンに振り落とされないように踏ん張りながら、さらに力をいれて深く剣を頭に押し込む。
やがてワイバーンはおとなしくなり、地面に倒れこんだ。
レナは汗を袖で拭いながら「ふぅ、二匹目討伐完了!」とほっと息をついた。
「どうでもいいけど、針のむしろはネーミングセンス的にどうかと思う」と言いながらアズサはレナに向かって歩いていく。
「いいのよん、雰囲気なんだからさ」といいながらアズサの目を見るとアズサの瞳はいつもの茶色に戻っていた。
「あとは、アイリのとこね」とレナはアイリがいる預り所の方を眺める、するとあちらも片付いたようで『炎狼』と呼ばれた男たちも縄で手首を縛られていた。
レナはアイリの方へ向かって歩いていき、アイリに話しかけた。
「そっちも片付いたようね」
「あぁ、ワイバーンがやられて抵抗する気力がなくなったようだな、あとはこちらで洗いざらい話してもらうさ」
「たのんだわ、それにしても、ワイバーンを呼ぶほどの角笛、どこで手に入れたのかしら? それにあのワイバーン、スキルまで使ったわ、これはいたずらでは済まされないわ」
「そうだな」
「隊長! 準備が整いました」と男の警備兵がアイリに報告する。
「分かった、レナ、ワイバーンは任せていいか?」
「もちろんよ! あとアイリ、今夜はこれる?」
「あぁ、いけるさ、だけどちょっと時間おいて、アズサと行くからさ」
「え?」
「少し、三人で話す時間が必要なんじゃないか? ティナちゃんのためにもさ、あれっきりなんだろ?」
「……そうね」とレナは何かを決心し微笑んだ。
「よし」とアイリは笑顔で返し「じゃ撤収!」とアイリは言うと警備兵達は撤収していった。
レナはアイリを見送ると気持ちを切り替え、さっそく! といった具合でワイバーンの死骸ところへ向かい、死骸を確認し始めた。
「いやー、これ久々の大物じゃない? ギルドの報酬もはいるしー!」
とレナはウキウキとはじゃいでいる。
「レナ、ギルド報酬はワタシも入るからいいけど、ワイバーンの死骸は山分け……」
とアズサは自分の取り分を主張する。
「わかっているわよ、このワイバーンいくらになると思う? ……って、アズサ、あんたもギルド報酬はいるってどうゆうこと? あんたシルバーでゴールドの昇格条件満たしてないじゃない」
アズサは「あ……」と声を漏らし淡々と答えた。
「……ギルドにレナも受けるからって言って先に受注しておいた、ちなみにグループ報酬ではなくて個別報酬にしといた」
「受付のお姉さんがやけに手際いいと思ったら、あんたのせいだったのね、しかも個別って、あとでこっそりもらうつもりだったのね」
アズサは言い訳を言うような感じだが、いつもの淡々とした感じで答えた。
「こんな大型のワイバーン討伐なんて、ギルド報酬なしじゃやってられない、それにレナならギルド報酬なしでも討伐に参加してた、この依頼は町の防衛扱いになるから国が依頼主になる、参加報酬は別に出るだろうけど、ほんの少し、依頼報酬は破格、見逃せない、依頼を受けるのがいい」
「まぁ確かにそれもそうね、私も少ない報酬だけってのもごめんだわ」
これでよし、うまく言えたという感じでアズサは小さくガッツポーズを取る。
「じゃ早速、解体屋を呼んで運んでもらいましょう、肉は引き取って~どんな味がするのかしら」と未知の味を想像するように言う
「ワイバーンの肉は硬くて生臭い、とても食べられない」
「え~アズサ、食べたことあるの?」
「本に書いてある、結構有名」
「そうなの? ……ん?」
「どうしたの?」
「いや、今、変な視線を感じたような…」
「ここに人はいっぱいいるわ、変な人も一人くらいいる」
「……そうね」
と二人で談笑しながら、解体屋へと向かって行った。
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