第3話 マテリアルクリエイター(3)
レナはある建物の前に来ていた。その建物は正方形の形をしている木造の建築物だ。両開きのドアを開け、中に入ると、混む時間が過ぎたのか、人もまばらだった。
レナは依頼掲示板へと足を進めた。
掲示板の内容を一通り確認する。
「やっぱこの時間になると、ろくな依頼がないわね」と、レナはつぶやいた。
ここは冒険者ギルドと呼ばれ、冒険者の資格を持った者たちが日々集まる。冒険者は国を渡り歩き、自由気ままな旅を続け、お宝を手に入れては一攫千金、というイメージが人々にあるようだが、実際のところはそんな冒険者は一握りで、ほとんどは今晩の食事も苦労しているというのが現実だった。
ギルドはそんな冒険者に仕事を斡旋する場所だ。なので朝早くから多くの冒険者は掲示板に押しかけ、身入りのいい依頼の争奪戦が始まるのだ。
仕事内容は様々だ、わざわざ金を出して依頼するより、自分でやったほうがいいんじゃないかと思うような薬草採取から、普通の人間では倒せないような魔物討伐の依頼まである。
レナは冒険者の資格を取得しており、こうしてたまに副業という形で依頼を受けることがあった。レナの狙っている依頼は主に魔物討伐である。魔物にも食用として需要のある種類がいる。それの討伐依頼がないか確認に来ていた。討伐依頼の達成条件は、討伐した魔物の特定の部位を提出すればいい、例えば角や爪などだ、残りの部分は自分でどうしたって構わない。レナは今夜のパーティの食材を手に入れると同時に、討伐報酬をもらおうと考えていた。
「そんなにうまくいくわけないか、仕方ない、メインストリートに行ってみるか」
ギルドの依頼がなくても魔物を討伐してもかまわないのだが、レナはそこまでやる必要はないかと、外へ出ようとしたその時、受付のお姉さんの声がフロア一面に響いた。
「緊急依頼です! ギルド内にいる冒険者は集まってください!」
「あぁ、変な時に来ちゃった、めんどくさ」
レナは悪態を付きながら、何とか逃げられないかと思い、あたりを見渡した。しかし、元々人が少なかったフロアで、レナの姿をごまかせるはずもなかった。というか、受付のお姉さんはレナをじっと見ていた。まるであなたに用があるんですよ、と言わんばかりの熱視線だ。
「はいはい分かりましたよ」
レナは勘弁して集合場所へと歩いた。
「で、何? 緊急の依頼って」
受付のお姉さんは少し緊張気味に息を飲み、集まった冒険者に聞こえるように答えた。
「今この町に大型のワイバーンが二匹近づいてきています」
それを聞いた冒険者達は緊張を強め、騒ぎ始めた。
ワイバーン、竜種に属する中級の魔物だ。二本の腕の代わりに翼を持ち、足には鋭いかぎづめを持っている。そのかぎづめに襲われたら、人間なんかは真っ二つにされてしまう。そして飛行による移動で、その速度は巨体にも関わらず、ハヤブサにも匹敵する。
しかも大型となれば厄介で、それなりの戦力が必要だ、それがよりによって二匹ときている。
「ん? ちょっと待って、ワイバーンの討伐にはゴールドランクが必要じゃ」
冒険者の一人がつぶやいた。
魔物によってランクが決められていて、相応の資格がないと討伐依頼が受けられなくなっている。冒険者のランクはブロンズから始まり、シルバー、ゴールド、そして最高ランクの プラチナに分類される。
「いるじゃないですか、資格を持つ人なら」
「へぇそんな冒険者がこんな時間にギルドうろついてるんだ」
レナはまるで他人事のように言う、しかし受付のお姉さんの視線はレナに向かっていた。
それに釣られるかのように他の冒険者もレナに視線を送っていた。
「へ? もしかして私?」
「ほかに誰がいると思っているんですか?」
「いやいや、私、ゴールドじゃなくてシルバーよ」
「レナさん、私知っているんですよ、ゴールドへの昇格条件満たしていますよね? 昇格条件を満たした場合は、緊急の時に限り、上位ランクの依頼を受けることが可能なんですよ」
「いや、ちょっと待って、大型ワイバーン二匹は一人じゃ無理だって」
「大丈夫ですよ、すでに現場にはお友達のアズサさんが到着しているとのことですよ」
「アズサが?」
「場所は町の中心の噴水前ですよ、いつも通りちゃちゃっとやっちゃってくださいな、それに実は私もう一つ知ってることがあって、レナさんが本気になれば大型ワイバーンなんて……」
「だー! 分かったわよ!」
レナは変なこと言われたらたまらないと思い、受付のお姉さんの話をさえぎった。
「ワイバーン退治をそんなに軽く言われちゃたまんないのよね、でもまぁ、町を破壊されちゃそれこそたまんないわ」
まぁアズサがいれば何とかなるか、と依頼を受けることにした。
「じゃいっちょやってくるわ、報酬は期待していいのよね?」
「はい、ちゃんと用意してますよ」
「よっしゃ! じゃいってきますか」と言って現場へ向かうのであった。
そういえばワイバーンの肉って美味しいのかしら、とつぶやきながら。
「ドラゴンスレイヤーならぬ、ドラゴンイーターの誕生かもしれませんね」
レナのつぶやきを聞きながら、受付のお姉さんもつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます